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僕らの猫  作者: みー
25/28

自分の居場所


心配でならなかった凛は二人に事情を話し、翌日早朝に家を出て病院へ向かった。


深夜に家に帰り疲れていたはずなのに、一睡もできなかった。そのため早々と出かける準備を始め、先輩が入院中に困らないよう日用品を揃えた。


大きな荷物を抱え電車を乗り継ぎ病院へ急ぐと、面会の受付時間よりも早く着いた。


病院前のベンチに座り、広がる朝焼けを見上げる。心とは打って変わって辺りは穏やかで、人々が起き出し、生活を始めようとする様子が見えた。


旅行の二日前、先輩の稽古場に寄り、差し入れをして帰った。


真剣に稽古を行う劇団の方々や、厳しい監督に叱咤されていた先輩が見えた。

稽古場は張りつめた雰囲気だった。

とても話しかけられる雰囲気ではなく、誰も凛が見学していることに気付いていない様子だった。だから事務員さんに差し入れを渡してほしいと頼んで、その日はそのまま帰った。


その夜遅く、先輩からの不在着信で留守電のメッセージがあった。

面会時間までが不安で心細く、先輩の声が聞きたくなった凛は、携帯を耳に押し当てそれを再生した。


『……律です。遅くにごめん。寝てるよね?今日来てくれたみたいで、ありがとう。差し入れちゃんと受け取ったから!稽古場ピリピリしてて驚かなかった?今回世話んなってる監督、厳しくてさ……』


耳に心地よい、けらけらと軽い先輩の笑い声。だが受話器を通しても伝わる、少しの疲れがあった。


『来てたんならちょっと、凛ちゃんの顔見たかったな。まぁ今そんな余裕ねぇけど!……いつになるか分からないけど、稽古が一段落したら連絡するな。じゃあ……おやすみ』


聞きながら凛は涙を流していた。この留守電で、どうして先輩が無理をしていると気づけなかったのだろう?すぐに折り返して、休んでほしいと言えばよかったのに……


先輩は、いつでもあたしの話を真剣に聞いてくれる。

違うと思えばそれは違うと言ってくれるし、優しい相槌を返してくれる。


この人はあたしのことがよく分かってるみたい。

そう思った時から、そばに居るのが好きになった。


そして先輩は、あたしが隣にいることを許し、受け入れてくれる。

そこにはあたしの居場所があって、とても暖かく安心する所だった。


拒絶されないか怯えてしまい、ひどく落ち着かない、透くんの隣とは全く違って……


不謹慎ながら、恋をする相手が先輩ならよかったのに……という想いが頭の奥をかすめた。

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