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僕らの猫  作者: みー
24/28

帰路に


軽井沢からの帰路。

疲れから襲いかかる睡魔に耐えかねた透は、仮眠をとるためにサービスエリアに車を停めた。


そもそも透は人より過酷なスケジュールの夏休みを送っていた。それなのに彼は不憫にも緑に貴重な連休を奪われて、軽井沢まで来てバイトをさせられた。最終日にスポーツをしたこともありぐっと疲労を感じているようだった。駐車するとシートベルトを外し、ハンドルに倒れこむようにして息を吐いた。


「俺、ちょっと寝るから……。二人とも時間潰してて」


そう言うとシートを倒し、完全に寝る体勢になる。

緑は助手席から降りると、凛に声をかけた。


「私お土産見てくる!向こうで見る時間なかったから丁度よかったわー。凛もどう?」


「ううん、あたしもちょっと疲れたから、ここで待ってる」


凛も連日の疲れが蓄積しているらしい。力なく微笑んだ。

そう考えると、帰りにまでこれほど元気な緑の体力がすごい。


緑が行ってしまった後の車内から、凛は窓ガラスに額を押し付け、高速道路の車の流れを眺めた。


この旅行の間に、いろんな事があったなぁ……

透くんに対する気持ちはもちろん、緑へのこのもやもやした感情も、行き道にはなかったものだ。

三人で暮らしているというのに、こんな気持ちを抱えてこれから暮らすのだろうか?


運転席に目をやると、眠りに落ちた透くんがシートに身体を沈めて、微かに寝息を立てている。


彼も、特別な存在になってしまったのだ……


そんなことをぼんやり考えていた時に、鞄の中で携帯が振動した。

眠りを妨げてはいけないと慌てて電話に出ると、予想もしない相手からだった。



「もしもし。朝河ですけど」


電話をかけてきたのは、律先輩が紹介してくれた翻訳家の方だった。


翻訳家としてとても有能な女性で、大学生の凛にも、仕事について親切かつ丁寧に話してくれた優しい人だ。「何か聞きたいことあったらいつでも連絡してね」と、連絡先まで教えてくれた。

まさか電話がくると思ってなかった相手なので、凛は声を上ずらせた。


「お、お久しぶりです!」


「こんな夜中にごめんなさい、急用があって。凛ちゃん今どこにいる?今から出れないかな?」


「今は旅行に来ていて、東京に帰る途中なんです。あと一時間もすれば着くと思うんですけど……何か、あったんですか?」


「律が倒れたのよ」


先輩が倒れた……?

その言葉に心臓が跳ねた。嫌に鼓動が早まり、悪寒が走る。


「もしもし、凛ちゃん?」


押し黙ってしまった凛に、朝河さんが電話の奥から呼び掛けてくる。はっと気付き、慌てて応対する。


「ごめんなさい。先輩は無事なんですか?」


「心配ないわ、ただの過労みたい。けど身体がかなり弱っていて高熱が出たの。稽古場から搬送されて、今は病院にいる。念のために入院させたんだけど、親御さんと連絡がつかないのよ。私は仕事があるし面倒見てあげられる人がいなくて、凛ちゃんに電話したの」


「あたし行きます。バイトは他の人に代わってもらえるので、明日から付き添います」


「そう?助かるわ。後でメールで病院の詳細と病室の番号送るわね」


「はい」


その後電話は切れた。凛は放心し、拭い切れない悪寒を感じてシートに身を沈めた。


律先輩……


ここのところ兄のような存在の彼にすっかり懐いて、たくさんの時間を共に過ごしていた。

それだけに何かあると家族のように心配で、居た堪れない。

こうしてあたしが何もしないで過ごしている内にも、彼が苦しんでいたらどうしようと心は痛む。


無事でいてね、先輩……


窓の外に目をやると、サービスエリアの閑散とした駐車場が蛍光灯の光で浮かび上がっていた。


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