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僕らの猫  作者: みー
23/28

軽井沢でカフェバイト、最終日

「そんな人が現れれば、気付かずにはいられなくなるんだ……自分の気持ちに」

律先輩の言葉を思い出した。



最終日、カフェのお仕事のお休みをもらった私たちは、近くの高原へ車を走らせた。


オーナーの作ったランチが入ったバスケットを持って、見渡す限り緑の広がる丘へ遊びに来たのだ。

空はどこまでも澄んで青く、運ばれる爽やかな草の匂いが心地よい。

ビニールシートを引いて、緑と透は離れた場所でバトミントンをし始めた。

凛も誘われたがとてもそんな気分にはなれず、ゆっくりしたいと言い訳して断わった。

二人は抜群の運動神経を発揮して、白熱したラリーを続けている。

凛はそんな風景を、心ここにあらずでビニールシートからぼんやりと眺めていた。


昨日のカフェでの出来事は凛をひどく混乱させた。


あれから、気付けば心には透くんの笑顔が浮かぶようになっていた。その度に胸がきゅっと音を立て、締め付けられるように苦しい。


律先輩の言ったことが本当ならこれこそ恋に違いない。


あの時確かにあたしは、透くんのことを独り占めしたいと思ったのだから……


透くんは相変わらず何事もなく過ごしているが、あたしはまともに口が利けなくなっていた。

そばを通るたびに頬が赤らみ、心臓は鳴り止まない。

彼の仕草一つに目が奪われてしまい、他に何も考えられない。


凛が思い描いていた淡く暖かい気持ちからはかけ離れていた。

切なくて、もどかしい。泣きたくなるくらい苦しい。

それはおそらく、彼が凛のことを好きになる可能性が限りなくゼロに近いからであろう。


そんな気持ちに苛まれ悶々としている凛をおいて、透くんは楽しそうに体を動かしている。


緑と笑いあっていると、まるで仲の良い恋人同士のようだ。


緑には浩さんという彼氏がいる。透くんをまるで恋愛対象として見ていないのは分かっている。


それでも三人で生活していると、二人がとてもお互いを分かりあい、信頼しているの伝わってくる。

嗜好も似ていて、映画やスポーツの話題によく花を咲かせている。

特別仲の良い従兄弟なのだ……


それに比べてあたしと透くんは、同居が始まってからの一ヶ月、長い絶縁状態にあった。最近その状態は解消したとはいえ、それでも二人で会話を交わしたことは数少ない。

まして、緑と話している時のような盛り上がりなど、あたしたちの間にはない。

そんな緑のような気の合う女の子がそばにいて、あたしに惹かれる方がおかしいと思う。


好きになった。だから透くんにも、あたしのこと好きになってほしい……そう思うのは、自然なこと。

だけど今の関係では、それは難しいことだった。


その時どこからか透くんの足元にボールが転がって来た。遠くで少年が透くんに向かって手を振っている。ボールをとって、とジェスチャーで表しているようだ。


透くんは足先で器用にボールを上げると、一度膝で弾ませてから少年の方へパスをした。

とても綺麗な動きだった。

パスを受けた少年は目を輝かせ、透くんの元に駆けよった。


しきり話しかけてくる少年に困った顔をして、透くんは助けを求めるように緑の方を見た。ここからは聞こえないが、緑が笑いながら何か言う。


すると透くんは、おもむろにリフティングを始めた。

どうやら少年は透くんに、リフティングを見せてほしいと頼んだらしかった。


彼はまるでボールが体の一部であるかのように、自在にリフティングをした。足や膝や胸で巧みに操り、ボールはブレることなく弧を描いて彼のもとに戻ってくる。

少年は跳び上がり歓声を上げ、目の前の華麗なリフティングに夢中になっていた。最初はしぶしぶ引き受けたはずの透くんもいつしか我を忘れて、子供のようなあどけない笑顔でボールを追い続けた。


そんな微笑ましい光景を、緑は隣で楽しそうに見ていた。


緑は、本当は、透くんのことをどう思っているのだろう?

凛の胸が音を立てて軋んだ。

二人から目を逸らさずにはいられなかった。



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