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僕らの猫  作者: みー
22/28

軽井沢でカフェバイト、二日目

翌日の二日目は日曜日であったため、昼下がりのカフェはとても賑わった。

昼ご飯を食べる余裕もなく凛・緑・透の三人は、フル稼働で働き、店内をせわしなく歩き回っている。


お腹空いたぁ……


凛は注文を取りながら、小さな音を立てて空腹を訴えてくる自分のお腹を抑えた。


運んでいるのが、おいしそうなケーキと言うのもまた辛い一因であり、空腹感に拍車をかけた。


お客さんへ差し出しながらも、そのケーキを未練がましく目で追ってしまう。その目はもはや涙目と言える程に潤んでいて、お客さんは怪訝そうに皿を受け取った。


「凛ちゃん、洗い物!奥で洗い物してきてっ!」


厨房から慌ただしい声がかかり、凛はよたよたと疲れた足で奥へ向かった。


厨房の奥の洗い場は少し離れた所にあり、日が差さない涼しい場所だ。

覗き込むと冷んやりとした空気を肌で感じた。だが、そこには大量の洗い物が詰め込まれていた。


これは早いうちに片付けないと!

そう思い、食器に手をかけようとした凛の視界を何かがかすめた。


ボールに入り氷水で冷やされた、ふわふわでピンクの苺クリーム……


それを目にした瞬間、凛のお腹はここぞとばかりに空腹を主張し始めた。


思わず両目を自分の手で塞ぐ。


だめ!あたしはお手伝いの最中だし、これは売り物だし、いくらお腹が空いていたって……!


……ちらり。

指の隙間から再びそれを見ると、いかにも美味しそうに輝きを放っている。


……まぁでも、あたし午前中たくさん仕事頑張ったよね?

オーナーさんも少しくらい何か口にしたって、怒らないよね!


……よし。

凛は近くにあった小さなスプーンを取ると、苺のクリームをすくい上げ、口へ運んだ。


おいしい~!

凛の表情が一気に緩む。ほんのりとした苺の甘さと香りに、溶けそうになった。

口の中で広がる幸せな味に、満面の笑みがこぼれる。


しかし苺のクリームにすっかり夢中になって、凛は気付かなかった。


洗い物を持ってきた透に一部始終を見られていたことを……


堪えきれなくなって笑いだした透の声に、凛はそこで初めて気付き、その顔が一気に真っ赤になった。

流し台に洗い物を置き、入り口にもたれて肩を震わせ、横目で凛を見て言った。


「幸せそうな顔」


「い、いつから見てた?」


「食べようか迷ってるあたりから……」


「そんな前から!?もう、声かけてくれたらよかったのに!」


真っ赤になった凛はスプーンを振り回した。

透は凛に近付くと、その手からやんわりとスプーンを奪い取る。そして傍のボールからクリームをすくうと、形の良い薄い唇に運び入れた。


「……甘っ」


目を細くしてそう呻き、透は軽く舌を出した。

そしてその仕草に目を奪われ立ち尽くす凛を振り返ると、口の端を上げて綺麗に微笑んだ。


「これで俺も共犯」


スプーンを流しへ置き、体をほぐしながら厨房の方へ戻っていく透の背中。凛はそこから目を離せず、鳴り止まぬ心臓の痛みを感じた。


今の、笑顔。

その低い声に、仕草。


心を支配した、初めての感覚に戸惑いを隠せない……


透のことを、「誰にも見せたくない」と思ってしまったのだ。



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