軽井沢でカフェバイト、一日目
軽井沢の外れにあるそのカフェは、白くて涼しげな外観だった。
緑に連れられて、透と凛はここで二泊三日働くことになったのだ。
サテンの深緑のシャツに、濃紺のスキニージーンズ、サングラスをかけた緑は、センスの良さを全開に颯爽と後部座席から降りる。
運転席では少し疲れた様子で、透が首を回していた。
襟に朱色の線が入った黒いポロシャツに、濃いグレーのズボンは、その長い手足によく似合っている。
凛は目的地に着いたのも気付かず、後部座席でうとうとと眠りに落ちかけていた。
運転席から振り返った透がその姿を見て軽く溜息をつき、白いワンピースの裾を引っ張る。
「起きろ。着いたよ」
「ふぇっ」
とぼけた声を出して、寝ぼけ眼を擦る。しかし目の前にある透の整った顔に気付き、一気に意識がはっきりした。
「先行くからな」
そう言うと、透も運転席から出て行ってしまい、凛は車に残された。
三人が店内にに入ると、そこには白とグレーを基調として、テーブルやカウンターがセンスの良く設置されていた。
風通しの良い涼しい店内で、大きな窓に透けるカーテンがたくさんの光を通している。
「素敵な所……」
凛はそう零した。緑はそれに頷き、オーナーを呼びに行った。
気だての良さそうな大人っぽい女性が奥から顔を出す。
「あら美男美女!緑、いい子達つれてきたわねー!」
「真美さん、凛はだめですよ!……透はどうでもいいですけど」
どうやらオーナーは美形好きらしい。凛と透は熱烈な歓迎を受け、カフェの中へ招かれた。
仕事についての説明を受け、白いワイシャツに黒のエプロンを身につけると、三人は早速働き始めた。
緑、凛は元々飲食店でバイトをしているため、接客は慣れたものだ。だが接客未経験の透も、持ち前の容量の良さで難なく仕事をこなしていた。
テキパキと動く三人を、真美さんは厨房から満足気に見守っていた。
ピークを過ぎ、テーブルに空きの出始めた夕方。透はレジ打ちをしながら、あることに気が付いた。
窓際に座った男性ニ人組が、小声で何やら話しながら、しきりに凛へ視線を送っている。
その先には、柔らかな髪を一つにまとめ、小さな体で動き回る凛の姿がある。
華奢なせいで丁度良いサイズのエプロンがなく、すこし大きなサイズを仕方なく着たようだった。捲ったシャツの袖からは白く細い腕がのぞいている。
注文を取る時や、お客さんを送り出す時に見せる笑顔と明るい声が可愛らしい。
どうやら、凛に声をかけようと企んでいるようだった。
呼ぶ口実を作るために水をわざわざ飲み干し、男が凛に呼び掛けようとした。
透はレジを離れ、自分が変わりに注文を取りに行こうと急いだ。
が、間髪入れずにどこからか現れたのが緑だった。
有無を言わせぬにこやかな笑顔で、水を注いでいる。
その笑顔の裏には気のせいか、凛を狙う野郎は殺すとでも言いたげな冷たさが感じられる。
……まぁ、あいつが気付かないわけ……ないか。
拍子抜けした気分だったが、改めて緑の溺愛加減を思い知るのだった。