旅行に行こう!
「旅行に行かない?」
夏休みが始まって数日目。三人で夕飯の席についていた夜、緑が突然そう言った。
「バイト先のオーナーが、軽井沢でカフェを経営するらしいの。そこで夏休みの間二泊三日、手伝いに来てって頼まれたのね。人手は多い方がいいの。二人とも、一緒に行かないっ?」
箸を片手に、目を輝かせて緑がそう言った。
透は煮物をつまみながら、眉間にしわを寄せる。
「サッカーの合宿と課題で、あんま空いてないんだけど」
「そんな娯楽のないマジメな予定で夏休み終わらす気!?息抜きも必要でしょ!」
「でもさ……」
透は席を立ち、ソファの横にある自分のバッグから、黒いスケジュール帳を取り出した。
そして、緑に七月のページを開いて見せる。
「論文提出」「研究会」「プレゼン準備」「サッカー」「バイト/家庭教師」「バイト/サッカーコーチ」……
丁寧な字で予定が書き込まれ、そのページはびっしりと埋まっていた。
緑は暫くそのページを睨んでいたが、にやりと口の端を上げて笑い、ある箇所を指差した。
「ここにしよう。ここなら、あんたも二泊三日来れるわね?」
透の、七月唯一の連日休みが指差されていた。
「凛は?ここ、来れる?」
凛も、緑と顔を並べて覗き込む。
バイトのシフトは移動できるし、そこには特に用事はなさそうだった。
「あたし平気ー」
緑は顔をパッと明るくして、ガッツポーズをした。
「よしっ、決定!」
この従兄弟の決定は覆せない。それは、この同居という状況が物語る確かな事実……
透は新たな予定を書き加えながら、全くと言える程休みのない自分の予定を眺め、倒れないかな俺……と溜息を漏らした。