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僕らの猫  作者: みー
17/28

凛と透の一日


ある日、凛と透は二人で一日を過ごすことになった。


たが、透はほとんどの時間を自室で過ごすために、凛は彼が何をしているのかも把握すらしていない。


出会ってからの日々を思い返してみれば、話した言葉は数少ない。

嫌いではないと言ってくれたから、これからは凛が仲良くなろうと頑張っても構わないはずだ。


今日はチャンス!(緑がいたら透くんは緑とばっかり喋るから)

今日こそまともに話せるルームメイトになってみせるっ!


そう意気込んではみたが、透は自室にこもりきり。

リビングのソファーにしゃがみ、透の部屋の扉を睨んで凛の午前はすぎてゆく。


いつになったら出てくるんだろう。お昼?あ、お昼ごはんの時間になれば出てくるか。


……お昼ごはん!!


凛はあることをひらめき、ぱっと顔が明るくなった。



緊張しつつ透の部屋の扉をノックした。少し間が空いて、はい、と返事がかえってきた。


開けて中を覗くと、パソコンに向かって透が何かを打ち込んでいる。傍にはいかにも難解そうな研究書が数冊広げてあり、化学式だか暗号だかわかんない何かが連なっていた。


「透くん、お昼ごはん何がいい?」


手を止めて透が扉を振り返った。

あっ、眼鏡してる!

これはまた知的な……

初めて見る透の眼鏡姿になぜか奇妙な感動を覚えていた。


「任せるよ」


そんな短い言葉で済ませようとする透に、凛はなおも食いついていく。だって今日はまともに会話するって決めたのだから!!


「今日は、透くんの好きなものにしようと思って!」


突然そんな予想外のことを言われ、明らか戸惑っている透。

それでも真剣に考えてくれた。


うーん…じゃあ……と腕を組んで首を傾げる。


「……えび」


「え、えび?」

聞き間違いかと思った凛は、思わず聞き返してしまった。だが透が頷いたので、やっぱえびかと納得。(ちなみにこの後すぐに透は作業再開してしまったため、会話進まず)


失礼しました……と扉を閉め、息を吐く。


えび!えびだって!

意外すぎるっ、可愛いっ。凛は笑いがこらえきれなくなり、リビングを小躍りして回った。


この後すぐに調理に取り掛かった。腕によりをかけ、いつも以上に気合を入れ、透と話せるルームメイトになるため頑張った。


そして正午。自室から伸びをしながら出てきた透は、リビングに広がるいい香りに気付いたようだ。


キッチンで透が来るのを今か今かと待ち受けていた凛は、じゃーん!と、フライパンを開けた。


「エビピラフー!」


その彩りの良さと香り(と凛の妙な気合)に透はおぉ、と小さな歓声をあげる。


温かいオニオンスープ、サラダ、透の好きなえびが大量に入った特製のエビピラフ。透は素直においしそうだと思った。


「透くんには、ピラフのおこげの所と、えびをいっぱいいれておいたからね!」


「ありがと。いただきます」

「食べて食べて!」


ピラフを一口運び、味わって食べる。うわ、これは本当にうまい。透は改めて凛の料理の腕に感心した。


「どう?おいしい?まずい?」


顔をあげると、凛は身を乗り出して透に聞いてきた。その表情は真剣そのもの。まるで褒められるのを待つペットのよう。


「おいしいよ」


透が本心から、凛の目を見てそう言うと、凛の顔に花が咲くように満面の笑みが広がった。


「わー!嬉しいーっ!」


自分で何度も手を叩いて、踊り出しかねない喜びよう。そんな凛を見て、よっぽど気合いれて作ったんだな、と思った。



……これには可愛いと思わずにはいられなくて。


透は思わず微笑んだ。



その透の笑顔を見た凛と言えば。喜んでいたのも忘れて頬を真っ赤に染め、本来の目的を放棄ししおらしくなり、すっかり話せなくなってしまった。


あたしおかしい。なんか心臓が変になっちゃったみたい。


熱の冷めない頬を、手の甲で抑えて必死に冷まそうとするも、なかなかうまくは行かず。


そんな顔されたら、何度だって作りたくなる……。



せっかく作ったピラフの味もほとんど分からなかった。


それでも透の笑顔が見れたのは、今日一番の収穫なのだった。

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