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僕らの猫  作者: みー
16/28

緑と透の一日

「あれ、凛は?」


爽やかな日曜の朝。リビングに入ると、キッチンには透が立っていた。


「バイトの親睦会らしいよ」

「ええーっ!?私今日は凛と二人で映画でも見ようと思ってたのに!」


透が小馬鹿にしたようにわざとらしくため息をつく。


「昨日夕飯のとき言ってたからね。聞いてなかったろ」

「うざっ!」


緑はそう吐き捨て、座って朝食を待つ。

凛に対する反応と大きな違いである。


透が簡単な朝食をテーブルに並べていく。

凛が作るような、前の晩から煮込んだスープや、ペーストから作ったサンドウィッチはない。ただトーストしただけの食パンに、目玉焼きとサラダ、ヨーグルトだった。

男の子が用意したものにしては十分すぎるはずなのだが、緑はいかにも不服そうに鼻を鳴らした。


「おっまえ、態度悪すぎ。もう食うな」

「何も言ってないじゃない、食べるわよケチ」


透から皿を受け取り口へ運ぶ。


「あぁあ、凛がいないと暇ー。今日することなーい」


そう言って口をとがらせる緑に、透は一枚のメモを差し出した。


「何よ?これ……あ。」





一時間後、二人は近所の大型スーパーにいた。

凛が残していった一枚のメモ、買い物リストを片手に、食品売り場を回る。


透にカートを押しつけ、緑は悠々と先を歩いていく。


「えっと豚肉、卵とかいつものはもう買ったでしょー?あとはオリーブ…とピクルス、ナツメグ?なんか洒落たもんばっかりね」

「まぁ作るのがあいつだからな」


緑は透に向って振り返り、にやっと笑った。


「あいつ?……凛、って呼んであげないの?」

「うるさい」

「やっと凛と喋るようになったわねー。あんなに関わらないとか言ってたくせに!やっぱり凛の可愛さに恐れをなしたか。ちょろいわー透」


透は緑を無視して、オリーブの缶を手に取る。


そのそっけない態度がおかしく感じられる。

否定しないのね、と緑は嫌味に笑いながら透の腕をつついた。




ファーストフードでお昼ご飯を食べ、後部座席に大量の食料品・生活用品を積み、透の車で帰路に着く。

車内には緑の好きなハウスミュージックが流れ、助手席でノリノリの緑が身体を揺らす。

平坦な道なので、透は片腕を窓の縁で休め、片手で運転していた。


「器用に運転するわねー。さっすが透」

「この道は運転しやすいから。緑も免許なんてすぐに取れるよ。取らないの?」

「今はいいかなー、運転手がいるし?」

「はいはい」


そんなやり取りをしていた時、突然緑が身を乗り出した。


「あ、そこ曲がって!!」

「どこ寄るの?」


ハンドルを切りながら透は尋ねた。

路端に停車させて、ちょっと待ってて!と車を飛び出す。


一曲終わったところで、すぐに緑は戻ってきた。

片手にレンタルビデオ屋の袋を持っている。


「何借りたの?」

「映画。見ようと思ってたやつ」

「凛と見るって言ってなかったか?」

「やっぱ今日見たい!気分的に!」





帰って二人で映画を見た。緑の映画の趣味は良いので、透も興味ありげにソファの隣に腰かけた。

緑がバイト先のカフェから持ち帰った紅茶クッキーをつまみながら、やはりなかなか面白い映画を、他愛もないことを話しながら楽しむ。


二時間後映画が終わり、緑は伸びをした。


「あぁー、良い映画ね」

「うん、良かった」


エンドロールが終わって少し二人の間にまったりとした時が流れる。


「安心したわ」

「何が?」

「凛と話してくれて」


あぁ、と透が頷く。


「凛ならあんたのこと、たくさん笑わしてくれるからね」

「それは分かんないけど……」


くれるわよ、と緑は微笑む。

まだ会って間もないが、こんなにもたくさんの魅力を感じている。溺愛するほど凛が好きな緑は、その良さをとてもよく分かっている自信があった。

良さと言えば。透の笑顔が昔から好きだったな、と緑は思い出した。

見せてくれるかな?頼んだら、笑ってくれるかな。


「透、あんたちょっと笑ってみてよ」

「は?やだ」


ふい、とそっぽを向かれてしまったので、カチンときた緑は透に近づく。

そして、首の後ろを思いっきりくすぐった。


「あ、ばか、やめろ!」

「いとこをナメんじゃないよ透。あんたの弱点はちっちゃい時から変わらないんだから。首!」


肩を竦めて逃げようとする透が、耐えきれず笑いだす。


「はは、やめて。お願い。もう無理」


息を切らしてそう言ってきたのでやめてあげる。

笑うと透は目を細めて柔らかい表情になり、小さな子供みたいですごく可愛い。

無理やりだけど最近笑った顔が見れなかったから、久々にすごく見たくなったのだ。


願いがかなって、緑は満足げに微笑んだのだった。

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