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僕らの猫  作者: みー
13/28

先輩のチカラ

避けられている、というのは最初から気づいていた。

だが嫌われている、と思ったのはこれが初めてだった。


あの日の夜、マンションの廊下で通り過ぎた透からは、冷たさしか感じなかったのだ。


人が好きな凛は幸福なことに、今まで人に嫌われるということを確かに実感したことがなかった。苦手だと思う人がいてもいい所を探すように心掛けていたし、どうすれば周りの人間を幸せにできるか、大切にできるか、考えるのがすきだった。


だからこそ、透からの拒絶は深く胸に刺さる。

同居をさせた責任を感じるかもしれないから、緑には相談できない。気持ちが塞ぐが、家では平気なフリをしようとした。大学でも友達に心配をかけないようにいつも通り接したが、心のどこかでいつも傷を感じていた。


そんな時、律先輩から電話がかかってきた。

「もしもし凛ちゃん、こないだはどうも!」

「こんにちは、どうかしたんですか?」

「今大学の構内?ちょっと暇だったら、来てほしいんだけど」

「大丈夫ですよー!」

「じゃあベンチで待ってる。この前のとこね」

はーい、と電話を切り、約束の場所へ向かった。


ベンチに座る律先輩の後姿が見え、凛はふと小さな悪だくみをする。そろそろと音を立てないよう近づいていき、その肩に手をかけて驚かせようとした。

だが手が触れる前に先輩は突然体を動かし振り返り、凛の手は空をきった。

「あっ……」

凛のほうが逆に驚き、手を引っ込めてしまう。

律先輩はそんな凛を見つめながら、口に軽く手を当て目を細めた。子供のイタズラを見つけたお父さんのように、愛おしいものを見る目つきで。

えっ……と、何だろう、この空気。

凛は想像と違う先輩の反応に躊躇し赤くなった。

「ごめんなさい」

思わず謝ってしまった凛に先輩は微笑んだ。

「どうして謝る?」

「だって……」

先輩が違う人みたいだからですよ。

どうしたのだろう?これが本当にこの前の先輩だろうか?

律先輩はベンチの自分の隣をとん、と叩いて凛を招いた。

先輩の豹変ぶりについて行けず、恐る恐る、凛は隣に腰掛けた。

「あの、それで先輩、あたしに何の……」

しどろもどろになって縮こまる凛に先輩は噴き出した。

「ははっ、うける。やっぱ凛ちゃんおもしろい!」

「あれ?せ、先輩?」

さっきの雰囲気はどこへやら。爆笑する律先輩は、あっけなく元の先輩に戻っていた。

「ごめんね!そんな戸惑うと思わなくて。別人だったでしょ?」

わざとか!

緊張していた自分がばかみたいで、異様に恥ずかしくなった凛はむきになって言い返した。

「もう、本当にびっくりしましたよ!戻ってくれなかったらどうしようかと。お願いですから今度からあたしの前で別人にならないでくださいっ」

「わかったわかった。あまりにも反応が良くてからかいすぎたかも」

けらけら笑う先輩はこの前のままで、さっきの様子が嘘のように思える。

「でもうまかったでしょ?別人になるの。これ舞台稽古の賜物だよね」

「うますぎですよ。先輩はいい役者になれます、人さえ騙さなければ!」

「おい」

二人して声を上げて笑う。ひとしきり笑ったら、先輩は真剣な顔をした。

「でもよかった、笑ってくれて」

「え?」

「なんか少しこの前と違った気がしたから」


どうしてわかったんだろう。


固まった凛を見て、律先輩は言った。

「やっぱりそう?俺、演技と人の気持ちを見抜くことは得意なんだ……」


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