演劇と彼2
彼はカフェテリアを半ば強引に連れ出し、大学内の中庭のベンチに凛を連れて行った。
そして「すぐ戻ってくるから」とだけ言って、展開について行けず戸惑う凛を残しどこかへ行ってしまった。
やたらと綺麗だが、なんて強引な人なんだろう。
凛はあきらめて彼を待つことにした。中庭の穏やかな風景に目を向ける。
芝生が敷き詰められた中庭は、木に囲まれ微かに草の匂いがする。陽が心地よく、乾いた風が通り過ぎる。凛は目を瞑り、髪を揺らす風や暖かい光を感じた。
目を開けると、もの凄く至近距離に男の子の顔があり、凛は飛び退いた。
「冗談だよ。はは、無防備だな」
けらけらと笑う彼に凛は警戒を解けずに距離をとった。
「俺、高橋律。舞台芸術学科の二年生だよ」
「英文科の仙田凛です」
凛はぺこ、と頭を下げた。満足げな律は自分のトートバッグから台本を出す。
「じゃあ早速、さっきの所から」
台本を見やすく広げ、カフェテリアで読んでいた箇所をさした。
「いいんですか?演劇の経験ないですよっ」
「あ、平気平気。なんとなく相手役のセリフ聞いた方が、練習しやすいからね」
律はにこっと笑ってそう言った。
それから小一時間ほど練習に付き合った後、緑が来るので、と断ってカフェテリアに戻った。
去り際にちょっと携帯出して、と言われたのでその通りにすると、携帯を奪われ、あっという間にアドレス帳に高橋律の名が登録されていた。
不思議な人。
しかし演劇の話は面白く、律の話してくれたストーリーの流れはとても興味深いものだった。機会があればもっと演劇の話が聞きたい、と凛は感じていた。