魔術師とお人形②
「何か妙に人が多い気がする。
綺麗なお姉さんとかに声かけられたらどうしよう。」
トボトボと目的もなく歩く少年の姿があった。
ユーリの外見は普通の人間からしても
何処か浮世離れしているように感じられ
買い物途中の麻里音は視界にかすかに写ったユーリの後ろ姿を
すぐに見つけることになった。
「ユーリ君っ」
「あれ、麻里音。
そうか今日は土曜か日曜か、引き籠ってると
曜日の感覚がなくなっていけないな。」
昼間だというのに私服姿で買い物をしている麻里音を見たことで
平日ではないという事が分かった。
そんなユーリを麻里音はまじまじと見つめた。
「私もしかしてユーリ君って、御屋敷から出られない呪いでも
かけられてるのかと思ってたんだけど
普通に引きこもりだったんだね」
ユーリは悪意のカケラもない笑顔に固まったが
麻里音は気にした様子もなく続けた。
「凄い偶然だね、滅多に外に出ないユーリ君と会えるなんて。」
「偶然は必然だよ麻里音。
偶然を偶然のままで終わらせるか、必然と認識するか否か。
こういう些細な事を見逃さない心が魔法を育てていく
・・・・のかもしれないね」
ユーリの言葉に麻里音の顔は綻んだ。
大好きな魔法の話。いつもは興奮するかのように思えたが
何故かその言葉は暖かく安らぎを与えてくれた。
するとユーリはさっきまでの大人びた顔つきを一変させ、
少年らしい明るい表情と声にきり変えて発した。
「偶然は必然だね・・・そう運命。僕たちが今日会うために
きっと鬼畜野郎共は遣わされたんだな運命に、うん」
「?」
「よかったらこれから何処か行かない?」
「わぁ、行きたいけど
晩御飯のお買いものをお家に置いてきてからでいい?
結構近所なのよ」
「もちろんいいとも」
数分歩いたのちに見えた麻里音の家。
家の敷地には教会として使っている建物と、
住居用の建物の二つが並んでいた。
(不思議な感じがする・・・)
ユーリは教会を見上げた。
教会独特の魔を寄せ付けない神聖な力が宿っているが
その力が少々強すぎる気がしないでもない。
その神聖な力にも少し魔が感じられる気もする。
いうなれば魔で魔を防いでいるような。
「お待たせーユーリ君」
荷物を置いた麻里音が家から出てきた。
教会の雰囲気が気になるが、まずはデートだと
ユーリは自身に言い聞かせた。
「さぁ、何処か行きたい所はないかな?
麻里音との初めてのデートだし何処がいいかな」
「え・・でーと」
麻里音は不意の言葉に顔を赤らめた。
その新鮮な仕草がユーリには堪らなく可愛く思えた。
オカルトにご執心な少女は異性関係には疎かったらしい。
「あのね、最近見つけたカフェに行きたいんだけど」
「いいね、僕鬼畜コンビに追い出されて朝から何も食べてなかったんだ」
二人は歩きだし、しばらくすると麻里音が足を止めた。
「あれ?雑貨屋さん?こんな所にあったっけ?」
「気になるのかい?」
気になるのはユーリの方も同じだった
というのも店全体から魔力を感じるのだ。
二人は数段の階段を上がったのちに開け放たれたままの
入口をくぐった。
「わぁ、アンティークのお店ね」
小さな店内に所狭しとアンティークが飾られている。
量はかなりのもだが決してゴチャゴチャした感じはなく
計算されたセンスの良さを感じる。
「いらっしゃい」
細身の若い男の店員が声をかけてきた。
「可愛いお店だね」
麻里音は隣にいるユーリに言った。
ユーリはにこやかに対応するも置かれてあるアンティークに目を配った。
そうしているウチに麻里音が置かれてあった人形に手を差し伸べる。
「わぁ、可愛いお人形」
金色の巻き髪に青い瞳。ほんのりと化粧を施された上品な顔立ちの
白いドレスを纏った人形が座っていた。
「よかったら差し上げましょうか?」
「え、でも・・・」
「いいんですよそれは元々売り物ではなかったので
気にいってくれた方に差し上げようと思っていたんです」
「ユーリ君、お人形貰っちゃった」
嬉しそうに人形を抱える麻里音にユーリは固まった。
というのも・・・
(麻里音それ、明らか中に悪魔が入ってるよ!!)
「よ・・・よかったね」
ユーリは引きつった顔で対応した。