魔術師とクッキー④
その日の昼休みは三人と昼食をとる事になった。
「そういえば緒方君っていつも購買で買ってきてるよね」
「あ、うん。ユーリの家にいる執事、クレノっていうんだけど
別にあいつの手作り弁当なんて食べたいと思わないし
なるべくアイツに借りを作りたくないんだ」
何故か眩しい笑顔で言い放った瑞希に
麻里音は深く追求することが出来なかった。
「そうなんだ」
(あの執事さんと仲よくないのかな?)
「神崎さんはいつもお弁当だねお母さんが作ってくれてるの?」
「私お母さんいないんだ」
「えっ。ごめん」
「ううん、物心ついたらいなかったしお兄ちゃんとお父さんがいるし
三人で分担したり、交互にやってるのよ。今日は私がお弁当を作る日なの」
「偉いなぁ。お弁当も美味しそうだし」
「よかったら少し食べてもらえる?
いつも美味しい執事さんの料理を食べてる緒方君に味をみてもらいたいの」
「じゃあ頂きます」
差し出されたお弁当に手を伸ばし、コロッケのようなものを貰う事にした。
「それは昨日作った肉じゃがが余ったから、コロッケにしてみたんだ」
「美味しい」
素直に美味しかった。優しい味がする。
「本当はね、お兄ちゃんやパパが作った方が美味しいんだけど」
恥ずかしそうにだけど楽しそうに話す麻里音は
オカルトの事を語っている時と同じくらい嬉しそうに見える。
オカルト好きというか、色んな趣味を持っている子なんだと麻里音の事を再認識した。
自分は生きるすべの一つである魔術にすがって生きていて
趣味といえるものってそういえばないかもしれない。
「とっても美味しいよ」
今度は呟きではなく、ちゃんと麻里音の方を見ながら言った。
すると隣から視線を感じ見てみると
「な、なに?」
摩夜が黒いオーラを放ちながら睨んでいた。
先ほどの巴への態度とはまるで真逆だ。
「別に、何もないわよ緒方」
(苗字呼び捨てになってる!?)