第一話 魔術師と女子高生③
(あの馬鹿!!)
「なになに!?」
一人状況を把握できていない、どうすることも出来ない麻里音の手を誰かが握り締めた。
「大丈夫だよ、麻里音」
声と手はユーリのものだった。
いつのまにこんなに近くに来たのだろうか
暗闇の中とても近くにその存在を感じ、安堵を与えてくれた。
二人だけの空間のように錯覚してしまいそうになりかけたが
別の声が頭上から聞こえた事で麻里音は現実に引き戻された。
「ユーリ様、麻里音さん大丈夫ですか?」
執事がろうそくを持って来てくれた。
あの状況でそんな動きが出来るなんて、この家の住人は夜目がきくのだろうか?
「大丈夫だよ」
言葉を失っている麻里音の変わりにユーリが己の執事に向かって言った。
(どうしよう、年下なのにドキドキしちゃった)
カーテンを開け放ち部屋全体に光が差し込んだ。
やっと目が暗闇から開放され部屋を見渡してみると瑞希がいないことに気がついた。
「あれ?緒方君がいない」
「瑞希君なら怖くて外に飛び出して行ったんじゃないかな」
「きっとトイレ辺りに逃げ込んだんでしょう」
ユーリと執事は少し維持の悪い笑みを浮かべている。
「そう・・・・」
「ごめんね、麻里音。電気の調子がちょっと悪いみたいだから
今から見てまわろうと思うんだけど」
ユーリの言葉に察し、麻里音は慌てて答えた。
「あ、こっちこそ急にお邪魔しちゃってごめんなさい」
「また来てくれたら嬉しいな」
「また来ていいの?」
「もちろんだよ!男ばっかでムサ苦しいったらないよ
麻里音が来る前に電気を整えておかないとね」
「どうもすみません、と言いたいところですが
こっちだって同じ意見ですよ、ユーリ様」
執事は笑みを絶やすことなく言った。
とても主人に対しての物言いとは思えない。
「それではお気をつけてお帰りくださいませ」
「お邪魔しました。」
執事が玄関まで送ってくれて、麻里音は屋敷を後にした。
「行ったか」
窓からヒョッコリと少年が顔をだした。
庭へ潜んでいたらしい。
「うおっユーリ」
ユーリが腕を組み傍に立っていた。
「はーぁ、せっかく可愛い子と親密になれるチャンスだったのに本当空気読めないよねぇ君」
「なんだよ」
謝りたい思いとは裏腹に
ユーリの話している内容のお陰でなんと切り出そうかわからなかった。
「ユーリ様、朋君に空気を読めというのは
犬に逆立ちしながらリンボーダンスを命じるのと同じことです」
「なんだと眼鏡執事!!」
「アーーーアーーー!!じょーしこーせーーーいっ」
「うるせーーーー!!!」
「おい、俺に相手してほしいんだろ?」
振り返ると瑞希が立っていた。
朋と同じく停電の後庭にいたらしい。
「してやるよいくらでも」
「おーこわ、屋敷に被害が及ばないように最小限に抑えてよね」
「そんなヘマはしないさ」
瑞希がそういうとユーリはパタンと窓を閉めた。
「まぁ俺は時期"教皇"の座なんてどうでもいいんだけど」
「!」
「かかって来なよ、その件で来たんだろ」
刹那
瑞希の身体を光が包み差し伸べた手のひらからはクリスタルが現れた。
「あ~いや・・・」
朋が何やら困ったように目を逸らした。
「?」
「いや、久々に手合わせしてほしかっただけでさ
俺も別に教皇とかどうでもいいんだ」
朋の言葉に瑞希は目を見開いた。
「な、なんだって!?
よりによってこの時期に紛らわしいことすんな!!
お陰で一般人に俺らの正体がバレる所だったんだぞ!?」
物凄い勢いで朋につめより攻め立てた。
「悪かったって悪かったって!!!」
朋の必死の抗議にも瑞希の怒りはおさまらない。
刹那黒髪で少しツリ気味の瞳が印象的な少女が突然魔法のように現れた。
メイド服のようなフリルがあしらわれた可愛らしい格好をしている。
「クリスタル反応を感知いたしましたので
時期教皇争いの勝負を見届けに参りました~☆
・・・って、あれ?」
「ちょ、っったすけっっ」
瑞希に首を絞められている最中の朋は
必死に声を絞り出した。
「瑞希様ー魔術試合ですよー?格闘試合ではないのですよ??」
「た・・・・す・・・け・・・・」
「ごめん、なしになった」
黒い笑顔を浮かべながら少女に向かって瑞希は言った。
「そうですか
じゃあ私は久々にユーリ様にお会いして参りま~す」
「たすけてええええええええええ」
朋の絶叫虚しく
庭には何かを殴り続けるような重い音がしばらく鳴り響いていた。
「お久しぶりでございます、ユーリ様」
「ああミーナか、教皇争いのハンデと称して僕をこんな姿にして以来だね」
「もしかしてユーリ様怒ってます?」
「別に、ただ」
「ただ?」
「こんな姿じゃ女の子を口説き難いじゃないかっ
ああ、せめてショタ好きの美人で巨乳のお姉様といい感じの出会いがあればなー」
「・・・・」
嘆かわしそうに大げさに仰ぐユーリに
ミーナは冷ややかな視線を向けた。