第一話 魔術師と女子高生②
「今日こそは・・・」
麻里音は以前から気になっていた怪しい洋館の前にいた。
ちょっとした山のようになっており、
前と言っても階段を上った先には門がある。
木々が生い茂った街中には不自然な土地だった。
この洋館はいつからそこにあったのか
子供の頃からあった気がするし突然現れた気もする。
記憶が曖昧になってしまっている。
家族や友達に聞いても誰に聞いてもが昔からソコにあった
といわれるが麻里音には納得できなかった。
それが麻里音のオカルト好きを刺激する結果となってしまっているのだ。
しかもオカルトテイストな佇まいは好みそのものであり
麻里音の趣味にぴったり当てはまっている。
あわよくば中には魔術師が夜な夜な悪魔を召喚しているかもしれない。
そんな妄想が滝のように流れ出し、止められるはずがない。
(興奮して鼻血でそう)
心の中で乙女とは思えない呟きを吐いた直後誰かに呼ばれた。
「あれ、神崎さん?」
「きゃあああっ」
「ご、ごめんっ」
麻里音に悲鳴を上げられ瑞希はとっさに謝った。
「お、緒方君!?」
声の主は緒方瑞希だった。
今日はなんだかよく会う。
「どうかした?ここ俺の家なんだけど」
「そうなの!?」
なんと以前から気になっていた
館の住人は緒方瑞希の家らしい。
瑞希からすれば麻里音は不振人物意外の何者でもないだろう。
とはいえ、もしかしたら緒方瑞希は魔術師なのかもしれない
そう思ったら止められずにジロジロと全身を嘗め回すように見てしまっている。
「・・・・よかったら上がっていく?さっきのお茶のお礼したいし」
瑞希は多少若干引き気味に尋ねたが気遣いは忘れない。
「いいの!?どうしよう、なんだか緒方君が王子様じゃなくって
魔法使いだったらどうしようってワクワクしてきちゃった」
「!」
両手で顔を多いながら顔は赤面している。
神崎麻里音はいちいち女の子らしい仕草をする。
これじゃまるで恋する乙女のようにようだ。
麻里音の言葉に内心では驚きつつ
瑞希は笑顔で言った。
「あんまり期待したら、後でがっかりしちゃうよ」
「こういう洋館にお呼ばれすること事態夢だったから
そんなことないよ・・・あの、迷惑じゃなかったら・・・」
大丈夫むしろ歓迎されるからと言われ
誰に歓迎されるのかと麻里音は疑問に思いつつ館の中に通された。
「お邪魔しまぁす」
期待通り趣味のいい内装が施されている。
埃が溜まりそうな廊下の絨毯も綺麗に掃除されているしカーテンもベルベットで統一されている。
どこかの貴族が住んでいそうな雰囲気をかもし出している。
「ちょっと待ってね」
そういって瑞希は大きな扉の前に立ち、金色のノブを回して扉を開けた。
「ただいま」
瑞希は中に居る人に声をかける。
お母さんかな?と思っていると中からは少年と若い青年の声が聞こえた。
「おかえり」
「お帰りなさいませ」
「もー、瑞希君が遅くてお茶冷めちゃいそうだから
先にお茶しちゃってるよ」
上座の大きな椅子の上に座る銀色の髪の少年が言った。
白のブラウスに黒のジャケットとズボンを着て昔の外国の貴族のような格好をしている。
「・・・・待っててくれたためしないでしょ?
そんな事よりさ、お客さん連れてきたんだ、いいかな?」
「お客さん?」
「同じクラスの神埼麻里音さん」
「あ、お、お邪魔します」
瑞希の後ろから麻里音は控えめな挨拶をした。
中に居た二人を確認し、目が合う。
(うわぁ・・・綺麗な男の子・・・)
確かに瑞樹も女顔であるが、少年は12,3歳と思われる年齢から
余計に中性的に見える。
麻里音を見るや否や少年は勢いよく立ち上がり
瑞希達の方へ近づいてきたと思うと
「瑞希君!!!!」
名前を呼びしっかりと瑞樹の両手を掴んだ。
「ありがとう!ありがとう!!
ついに僕との約束を果たしてくれたんだね!?」
「いや、その・・」
たじろぐ瑞希とは逆に少年の勢いは止まらなかった。
「瑞希君ったら、折角共学の高校行ってるのにちーっとも
女子高生の友達をこの家に呼んでくれないんだもん!
どうせ学校でモテてるくせに独り占めしてさ!
この僕を差し置いてハーレムなんておこがましいよ!!
おこがまし過ぎる!!羨ましい!まったくもって羨ましい!!」
「何言ってんの」
少年とは対極に瑞希の反応はすこぶる冷たい。
しかしそんな瑞希の事は眼中から完全に消えうせたように
少年は麻里音の方へ笑顔を向けた。
「ようこそ、今執事がお茶を入れてくれるから
席にどうぞ」
少年の麻里音へのエスコートは妙になれていた。
「ど、どうも」
「敬語なんていいよ麻里音、僕はユーリよろしくね」
「さっそく呼び捨て?」
笑っているかのように見えるが瑞希の目は笑っていなかった。
ユーリの方も無視を決め込んでいる。
そんな中、銀製のティーポットとカップを携えた執事が部屋に入ってきた。
「どうぞ、チェリーのクラフティーとアッサムでございます。」
「わぁ、美味しそう」
チェリーの甘酸っぱさが甘さを和らげてとても食べやすく美味しい。
幸せそうにクラフティーを貪る麻里音を
ユーリは目の前のお茶にも手をつけずに愛でるように眺めていた。
「可愛いなぁ麻里音」
「グッ、ゲホッゴホッ」
ストレートなユーリの呟きに思わず瑞希はむせた。
「おやおや、大丈夫ですかぁ瑞希君。おっちょこちょいですねぇ」
執事がクスクス笑っている。
執事としての能力は高いが性格はあまりよろしくないのかもしれない。
「へぇ、麻里音はオカルトに興味があるんだ」
最初は緊張していたもののユーリの気さくな性格にすっかり打ち解けていた。
「ウチにも少しそういう本があった気もするしよかったら見ていく?」
「いいの!?」
「うん、そのかわり・・・」
ユーリが何か言いかけた直後麻里音の視界が黒く染まった。
「停電!?」
座ったまま立ち上がらずにあたふたとしている
刹那
ガシャァン!!!
今度はガラスの割れる音がしたのと部屋に居た
誰のものでもない怒声が部屋の中で響き渡ったのはほぼ同時だった。
「クタバレ瑞希!!!!」