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1/導入

都心に鬱蒼と茂るビルの森。その中で一際大きな建物の、ここは最上階。

「お、やっと届いた」

男が言う。

「どれどれ...おや、思ったより小さいんだな?」

「社長、また変なもの買ったんですか?」

女はエレベーターの前に無造作に置かれた茶色い箱を遠目に見て、呆れたような声で男へ言った。

「X社の新製品らしい。常に対象物の周りを浮遊しながら録画、録音してこっちにデータを送ってくれる上、耐久性は過去最高なんだと」

「本当かどうかわかりませんけどね。いくらしたんです?」

「見るか?」

女を呼び寄せ、箱に書いてある金額を見せる。

「げっ...こんなのに大金かけて、使う宛があるんですか?」

「宛ならあるよ。これから、お前らの業務態度をこれで監視して、それを毎日まとめて、最終的に一冊に纏める」

「本にする必要はありましたか?それに私達の業務態度そんなに直すところ無いですよ」

「お前らのことは信用してる。これで監視して、何かをお前らに言うつもりもない。本にするのは...お前らのことをいつまでも忘れないためだ」

若い男は何処か寂しげに、だが真っすぐにそういった。

「今日早くこさせたのは、これを見せたかっただけだ。じゃ、今日も頑張れ」

「分かりました。失礼します」

風の吹き荒れる荒野の小惑星。 文明未発達惑星開発、今日の仕事場である。

3人の男を乗せた宇宙船が降り立った。

その中の、白い羽を持つ橙の髪の男が口を開いた。

「話には聞いてたけど、ほんっとになんもないね!」

メガネを掛けた厚着の男があたりを見渡していう。

「未開拓地のお手本みたいな星だね...ま、開拓のしがいがあるってもんだよ。何から手を付けようか?」

片目の隠れた紅い眼の、白い法衣を着た男がそれに答える。

「基本に従うべきだろう。住民の確認からだ」

白い羽を持つ男___ウィングルが羽を大きく広げ、最低限の荷物を背負って空へ舞う。

「探してくるねー!」

「見つけたらすぐ連絡してねー!...ふう、相変わらず元気だねぇ彼は。」

メガネの男、ドリがいい終わる頃には、ウィングルはもう地平線に隠れていた。

「小さい星だからウィングル速度なら2〜3分もすれば視察は終わるだろうが...一応、あの洞窟の中を見ておくか」

紅眼を持つフィニトが崖の下に空いた穴を見る。

「文明レベルもよくわかんないからねー。言ってみよ...」

プルルルルルル

通信機が鳴る。見れば、ウィングルからだ。

[生き物見つけたよー!そっからほぼ真反対だけど、即席ワープゲート置いたからきて!]

ツーツーツー

「予想外の速さだな。仕方がない、ゲートを取ってこよう」

X社の製品、即席ワープゲート。入口と出口で一組になっている輪っか状の機械で、くぐればその名の通り2つの地点を瞬時に移動できる。使い捨てで、出口から入口にはワープできない。

〜〜〜

フィニトとドリが輪をくぐってあたりを見渡す。

「分かってはいたことだが、景色が変わらないな...住民はどこだ?」

「あそこ。崖の上」

言われた通り見上げるとそこには、土気色をした毛むくじゃらの剛腕の獣...地球で言う、ゴリラに近い生物がこちらを見下ろして雄叫びを上げていた。

「ねぇウィングル...なんか明らかな敵意を感じるんだけど...?」

次の瞬間、その生物は腕を振り上げて崖から飛び降りてきた。

「フィニト危ない!」

一番崖に近かったフィニトが狙われてることに気づいたドリが叫ぶ。

「ぐっ...」

なんとか両腕で受け止めたが、フィニトは苦悶の表情を浮かべた。折れてこそいないが相当な痛みのようだ。一方、ゴリラのような生物はこの攻撃で仕留めるつもりだったのか、フィニトが生きていることに驚いている様子。

「ブオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

ドラミングしながら、凄まじい雄叫びを上げる。

「うるさっ...この後どうしようか?ウィングル」

ドリが話しかけるが、特に五感の発達したウィングルは頭を抑えており、声は届かなかった。

「やれやれ...フィニトはまだきつそうだし、僕がやるしか無いか。仲良くしたいけど、まずは落ち着いてもらわなきゃね...」

戦闘態勢に入るかと思いきや...なにか小さな薬の入ったフラスコを取り出した。

「しばらく寝てて!」

フラスコを開けて散布する。獣の目に入った。

「ブオ...?ブ...オ...」

途端に獣の目が微睡み、そして閉じた。

「睡眠薬がすぐに効いてよかったよ。それじゃウィングル、翻訳機を出して」

「ありがとう...助かったよドリ。翻訳機ね...あった。みんなつけて〜」

X社の製品、全世界対応翻訳ヘッドホン&マイク。この宇宙のあらゆる星の言語に対応できる優れもの。

「風も強いしこの隙に仮拠点を作るべきだな」

耳も塞げずに雄叫びを聞いて、すこし意識が朦朧としていたフィニトも目を覚ました。

「そうだね。ここらへんは砂も多いし、テントみたいな形なら作れるかな?それじゃ早速...

砂造建築(サンドハウス)】」

人化したモグラであるドリの固有能力。能力射程内にある砂を魔力を用いて別のものに変化させる。魔力とは、個人が生まれつき持つ固有能力と、修業によって誰もが得られることが知られている一般能力を使用する時に消費するエネルギーである。

ドリが唱えると近くの砂が集まってきて、あっという間に3人が入るのに十分なサイズのテントが生まれた。

「じゃ、ここに必要なもの持ってこようぜ!昼飯とか」

「そうするか...ワープゲートは...」

ドドドドドド

テントの外から轟音が鳴り響く。

「うわーっ!なんの音?」

突然の強い衝撃に驚いたウィングルが顔をしかめて聞き、ドリが答えた。

「みんな翻訳機の準備は良い?外に出るよ...」

全員が外に出るとそこには、先程の土気色の獣より一回り小さい生物が数十頭の群れを成してこちらを囲んでいた。なにか口々に言っている言葉を、翻訳機を通して聞いてみる。

『エサだ』

『エモノだ』

『エサだ』

(さっきの雄叫びで呼び寄せたのか...)

ドリは、二人に目配せをし、自分が主導することを伝えた。

「聞こえますか。」

大きな声で言う。獣達は驚いた様子。

『なんだこいつは』

『喋るのか』

そんな声が聞こえてくる。

「落ち着いて聞いて下さい。私達はあなたの敵でも、エモノでもありません」

こちらに興味を持ったのか、彼らは静かになった。

「私達はあなたの味方です。今日は、あなた達のことが知りたくてきました」

空気が和らぐ。警戒はとけたようだ。

そう見えたが、群れの中の1頭が口を開いた。

『ボスはなぜ寝ている?』

(ボス__つまり先程襲ってきた個体だろう。襲いかかってきたから薬をかけて眠らせました、なんていったら何をされるかわからない。ここは言葉を選んで...)

ウィングルが言う。

「襲いかかってきたから、薬をかけて眠らせました」

「!!?ウィングル黙っとけって言ったじゃん!なんで正直に言うの!」

「だって事実だろ?なんで怒るんだよ!」

焦るドリと状況を把握していないウィングルをフィニトがなだめる。

「喧嘩をしている場合ではないだろう二人とも。えー、皆さん、失礼致しました。今のはですね...」

『ボスが襲った?』

『ボスはエモノしか襲わない』

『ならコイツラはエモノだ』

『今日のエモノはコイツラだ!』

辛うじて得られそうだった信用は地に落ちるどころか地底を貫いた。彼らは今にも殺しにかかってきそうなほど猛っている。

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