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7話

 アイゼンを出発し、再びあの断崖の拠点へと足を進める。


 道中、俺の歩みを阻もうとする魔物たちが現れたが、今の俺にとって彼らはもはや脅威ではなく、効率的な「経験値」でしかなかった。


 シュシュシュンッ!


 一秒間に三回。いや、レベルが上がるたびにその境界は曖昧になり、もはや意識せずとも水の刃が乱舞する。一秒間に六回、十二回……倍々に増えていく発動回数に、自分でも「これ、一体どうなってるんだ?」と呆れるほどだ。だが、弾幕は厚いに越したことはない。


 そうして無事にアジトへ帰還した俺が真っ先に着手したのは、世界の命運を左右するような特訓……ではなかった。

「最優先事項」――それは、異世界生活において最も切実な問題の解決だった。


「……トイレだ。それも、絶対的な清潔さを誇る水洗トイレを作る」


 サバイバルにおいて衛生環境は命に関わる。何より、元サラリーマンとして、あの不衛生なボットン便所もどきだけは我慢ならなかった。

 そして俺には、物理を無視して物質を削り、無尽蔵に水を出す能力がある。これを使わない手はない。


 俺はアジトの裏手にある岩壁へと向かった。


「形状指定、薄い水のシート。――『置換』」


 岩壁の突起部分の根元を水のシートで置換し、巨大な岩として切り出す。切り出された岩の破片をさらに「置換」で消去し、滑らかな曲線を描くように削り取っていく。

 生成する際の形状を「洋式便器」の形にイメージし、水を流し込みながら成型を繰り返す。水で切り取られた岩の断面は、高級な大理石のように滑らかで、一切の角がない完璧な仕上がりとなった。


 最後に、排泄物が溜まる下部を大きく抉り、そこに常に一定量の水が溜まるように「追加」の能力で水位を調整して、完成だ。


「……よし。これが俺の、世界で唯一の『聖域』だ」


 完成後、さっそく試用してみる。

 用を足すと、排泄物は溜まった水の中へと静かに沈んでいく。そこで俺は仕上げの能力を発動した。


「汚物ごと、水に――『置換』」


 シュンッという音と共に、溜まっていた不浄なものは瞬時に「清廉な水」へと書き換えられた。臭いも、汚れも、細菌さえも残さない。これこそが、分子レベルで物質を入れ替える「置換」の真骨頂だ。


「最高だ……。これだけで、この世界で生きていく自信が湧いてきた」


 現代知識とチート能力が、思わぬ方向で奇跡の融合を果たした瞬間だった。

 自画自賛の出来栄えに満足し、俺は久しぶりに心からリラックスした。


 かつて脱水症状で絶望の淵にいた男が、今や世界で最も「水」を贅沢に使い、最も清潔な暮らしを手に入れたのだ。


 俺はアジトの寝床に潜り込み、明日から始まる魔法付与された望遠鏡を使った本格的な狩りと、そして能力の実験に思いを馳せながら、深い眠りへと落ちていった。

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