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6話

 その日の夕食は、盗賊の拠点での質素なスープとは比べものにならないほど豪華だった。銀の食器が並び、芳醇な香りの肉料理がテーブルを彩る。


「改めて感謝させてほしい。サトウ殿、君はこのガストン・ベルモンドの終生の恩人だ」


 ガストンは何度も俺にグラスを向け、感謝の言葉を重ねた。


 宴もたけなわとなった頃、俺は今後の身の振り方を切り出した。


「実は、猟師として生計を立てようと思っているんです。その際、仕留めた獲物をガストンさんの商会で買い取っていただけないでしょうか?」


 ガストンは我が意を得たりとばかりに身を乗り出した。


「おお、それはむしろこちらからお願いしたいくらいだ!  腕利きの猟師が持ち込む素材は、商売の種。君のような恩人の持ち込みなら、市場の最高値で引き受けようじゃないか」


 俺は続けて、魔物や獣の素材についての知識が乏しいことを打ち明け、勉強させてほしいと頼んだ。彼は快諾し、翌日から商会の中でも特に鑑定眼に優れた使用人を教育係としてつけてくれると約束してくれた。


 それから数日間、俺はアイゼンの街で穏やかな時間を過ごした。

 午前中は使用人から「どの部位が高く売れるか」「魔石の取り出し方」などの講義を受け、午後は活気ある市場を歩いてこの世界の物価や空気感を肌で感じた。リナも時折顔を出し、街の名物を案内してくれた。


 そして、必要な知識をある程度詰め込んだ俺は、再びあの「山の拠点」へと戻る決意を固める。あそこを自分だけの特訓場、そして狩りの拠点にするためだ。


 出かけ際、俺はふと思い立ってガストン氏に尋ねた。


「店に遠くを見通せる望遠鏡のような道具は置いてありますか? 猟をするなら、遠くから獲物を探せた方が都合がいいので」


「もちろん、あるとも!」そういって案内された商会の奥座敷で、ガストンは重厚な筒を取り出した。


「これは『遠見の魔眼』という魔法付与が施された業物です。倍率の変更もさることながら、暗所でも輪郭がはっきりと見えるよう調整されていますよ」


 俺は懐を探り、王国を追い出される際に渡された、なけなしの最後の金貨一枚を取り出した。


「これで……買えますか?」


 ガストン氏は俺の目を見て、深く頷いた。


「ええ、それで十分すぎるほどです」


(……本当か?)

 あまりに安い気がして、隣にいたリナを盗み見ると、彼女はいたずらっぽく笑って小声で耳打ちしてきた。


「全然足りないけど、お父様からの精一杯のお礼だと思って受け取ってください。本当は金貨百枚でも足りないくらいの高級品なんですから」


 俺はその厚意をありがたく受け取ることにした。

 魔法付与された望遠鏡を懐にしまい、リナとガストン氏に見送られながら、俺は再び城門を後にした。


 目指すは、あの断崖に佇む盗賊のアジト。

「一杯の水」を、誰もが羨みそして畏怖する「至高の力」へと昇華させるための、俺の本格的な修行が始まろうとしていた。

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