5話
アイゼンの巨大な城門が目の前に迫ると、リナは迷うことなく衛兵のもとへ駆け寄った。
「リナお嬢様……!? まさか、ご無事だったのですか!」
リナの顔を見るなり、衛兵の表情が劇的に変わった。
検問の兵士も、行方不明になっていた有力商会の令嬢の姿に目を見開いた。リナが「この方に助けていただいたの」と俺を紹介すると、兵士は俺の肩を叩き、拝むように感謝を伝えてきた。
本来、身分証も持たない俺のような流れ者の入国は時間がかかるはずだが、リナが率先して手続きを済ませ、俺の審査も手早く終えてくれた。
「すぐにお父上のところへ行ってあげなさい。旦那様はあの日以来、生きた心地がしていなかったはずだ」
兵士の言葉に急かされるように、俺たちは街の目抜き通りを抜けてリナの自宅へと向かった。
やがて見えてきたのは、白壁の立派な邸宅。その門前で、数人の部下に囲まれ、魂が抜けたようにフラフラと歩く一人の男の姿があった。
「お父様――っ!」
リナが叫びながら駆け出す。
男が顔を上げると、そこには絶望に塗りつぶされた表情から、驚愕、そして狂喜へと劇的に変化していく光景があった。
「リナ……? ああ、リナ! 本当に、本当にお前なのか!」
二人は固く抱き合い、父親は娘の無事を確かめるように何度もその肩を揺らした。
落ち着きを取り戻した父親――ガストンは、涙を拭いながら語ってくれた。商隊が襲われた後、すぐさま街に戻り、金を積んで兵や冒険者を雇おうと駆けずり回ったのだという。だが、肝心のアジトの場所が特定できず、もはや八方塞がりの状態で自責の念に押し潰されていたところだったのだ。
リナは俺と事前に打ち合わせた通り、落ち着いた口調で嘘を混ぜた。
「奴隷として別の場所へ移送されている途中で、このサトウさんが山賊たちを追い払って、私を助け出してくれたんです」
落ち着きを取り戻したガレスの視線が、後ろに控えていた俺に向けられた。
「なんと……! おお、君が!」
ガストンは弾かれたように俺に歩み寄ると、俺の両手をこれでもかとばかりに強く握りしめた。
「感謝してもしきれん! 我が家の宝を救ってくれた恩人だ! よくぞ、よくぞ娘を……!」
彼は喜びを爆発させるように、俺の手をブンブンと大げさに振り回す。
「いえ、偶然居合わせただけですから……。無事で何よりです」
俺は少々引き気味に、苦笑いを浮かべて謙遜した。
会社時代は「できない男」として罵倒され、王都の連中からは「無能」と蔑まれていた身からすれば、この過剰なまでの感謝にはまだ慣れそうにない。
「謙遜することはない! さあ、立ち話もなんだ。まずは我が家へ入ってくれ。精一杯のおもてなしをさせてほしい。もちろんお礼の話も、ゆっくりとさせていただきたいんだ!」
ガストンの熱烈な招待を断る理由はなかった。
俺はリナと目配せをし、豪華な装飾が施された商会長の屋敷へと足を踏み入れた。




