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16話

「さて、本題じゃな」


 ドワーフの老人は、値踏みするように俺の体格を眺めてから切り出した。

「上質な素材を安定して持ってこれる猟師には、それに見合う装備が必要じゃ。して、お主は普段どのような格好で狩りをしておる?」


「装備、ですか? ……まあ、基本はこの短剣と望遠鏡、あとはこの頑丈なコップくらいですね」


 俺が腰の道具を指すと、隣にいた職人の男が目を剥いた。


「……おい、狩りの時の話だぞ? 護身用の装備じゃなくて、本気の『獲物』を仕留めに行く時の話だ」


「ですから、これがいつもの装備ですが」


 俺が当然のように返すと、男はこめかみを押さえて天を仰いだ。


「呆れた……。あんた、それで白銀鹿やグレートボアを相手にしてたのか? 自殺志願者もいいところだぜ」


「全くだ! 有望な猟師が不意の一撃で失われるのは、街にとっても損失じゃ!」


 老人が雷のような大声を上げる。あまりの剣幕に若干引き気味になりながら、俺は大盾や重厚なプレートアーマーを思い浮かべて首を振った。


「いや、でも重くなるのはちょっと……。俺は身軽に動ける方がいいんです」


「わかっておる。良質な素材を取ってくるんじゃから……金はあるんじゃろ?」


 老人はそう言って一度奥に引っ込み、白い板状の素材を持ってきて俺に手渡した。


 受け取って驚いた。まるで鳥の羽のように軽いが、指で叩くと鋼鉄を叩いたような高い金属音が響き、びくともしない。転生前の物理法則ではありえない特性に、俺の脳がわずかに混乱する。


「これは『天竜鳥スカイドラゴン』……空の王者の骨を加工した代物じゃ。強度は鋼を凌ぎ、重さは……まあ分かるじゃろ?」


「……こんな素材があるのか」


「まずは手付金は必要じゃが、同じ素材を自力で持ってこれるなら、その時は加工費用だけで作ってやろう。どうする?」


 一流の職人が腕を振るってくれるという提案を断る理由はない。俺はその場で手付金を支払い、入念にサイズを測ってもらった。



 市場での買い物を一通り終え、邸宅へと戻った頃にはすっかり日も暮れていた。

 夕食の席で、俺はガストン氏に「素材をベルモンド商会以外に回してもいいか」と相談を持ちかけた。


「もちろんだとも。素材は君のものだ、好きにするがいい。……まあ、うちに優先的に売ってくれると、商売人としてはありがたいがね」


 ガストン氏は茶目っ気たっぷりにニヤリと笑った。続けてどこへ売りたいのかと聞かれ、昼間の工房の話をすると、彼は満足そうに破顔した。


「あの工房の爺さんと縁ができたのか! さすがだな、サトウ殿。あそこは腕こそ超一流だが、気に入った相手としか仕事をしない偏屈な男だったろう?」


「偏屈……そうかもしれませんね。でも、私の身を本気で案じてくれる、優しい人でしたよ」


 俺がそう返すと、ガストン氏は「確かに、情に厚い男だ。そして技術はアイゼンでも並ぶ者がいない。あそこに任せれば間違いはないさ」と太鼓判を押してくれた。


 翌朝、俺はガストン家の人々に見送られ、再びアジトへ向かって旅を開始した。

 リュックには補給した食料や日用品が詰まっている。そして俺の意識は、すでに次の「獲物」へと向かっていた。


「……空の王者の骨、か」


 あのドワーフの爺さんが欲しがっていた素材。

 俺は青く澄み渡る空を眺め、あの雲の向こうに「白銀の素材」が飛んでいないかと目を細めた。


 一人で生きる自由と、少しずつ増えていく奇妙な縁。

 俺は軽やかな足取りで、森の奥に構えた自分の城へと帰路を急いだ。


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