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15話

「爺さん、客人を連れてきたぜ!」


 男が威勢よく声をかけると、工房の熱気が混じった空気が揺れた。

 中に入ってみると、一見雑多に見えるが、道具の一つ一つが理路整然と並べられており、手入れの行き届いた職人の城であることが一目で分かった。


 ふと、作業机の上に置かれたものに目が止まる。それは、数日前に俺が狩った「白銀鹿」の角と同じものだった。


「これは……、俺が狩ったものに似ているな?」


「ああ、気づいたか? 最近手に入った貴重な素材なんだが、さっきの話を聞いてピンときた。この素材はそうそう出回らない。やっぱりあんたが仕留めた獲物だったんだな!」


 職人の男が快活に声を上げる。


「なんじゃ、やかましいのう……」


 工房の奥から、腰まで届きそうな立派な白髭を蓄えた老人が顔を出した。

 男が「こいつがこの角を取ってきた猟師だ」と説明すると、老人は破顔し、なかなかお目にかかれない上質な素材を運んできたことに深い感謝を示した。


 だが、俺の意識はそれどころではなかった。

 低い身長、がっしりした体格、そしてその髭。ファンタジー作品でお馴染みの「あの種族」そのものだったからだ。俺の戸惑う視線に気づいた老人が「なんじゃ?」と首を傾げる。


「こいつは王国からの追放者なんだよ。珍しいんだろうよ」


 男の言葉に、老人は「なるほどのう」と深く納得した。


「あそこは人間至上主義の教会の力が強いからの」


「……教会?」


 俺が思わず聞き返すと、老人は意外そうな顔をした後、「そんなことも知らんのか。いや、だからこそ追放されたのか……」と妙な勘違いをしながら、この世界の「人間」という言葉の裏側を教えてくれた。


 老人の説明によれば、彼のようなドワーフと言われるものも含む『地人』、男や俺のような『猿人』、そしてシャノのような『獣人』。他にもこの世界には様々な人類が存在する。

 だが、あの王国を牛耳る教会は、猿人こそを「至高の存在」として唯一の『人間』と定義し、他種族を見下し差別しているのだという。


「もちろん、周辺諸国の反発は強い。じゃが教会には、神に与えられたとされる『召喚』の儀式がある。勇者や聖女といった規格外の力を排出し、それを背景に他国を寄せ付けんどころか、最近では侵略まで始めておるからな。全く、手を焼く連中じゃよ」


 老人の話を聞きながら、点と点が繋がっていく感覚があった。

 俺たちがわけも分からずあの国に呼び出された理由。そして、能力が「期待外れ」だった俺があっさりと、虫ケラのように放り出された理由。


(……つまり俺たちは、教会の教義を正当化し、他種族を蹂躙するための『兵器』として呼ばれたってわけか)


 納得はできないが、あの王と側近たちの傲慢な態度の裏付けが取れた気がした。

 ブラック企業の論理どころか、もっと根の深い、狂った選民思想の犠牲になるところだったのだ。


「……ますます、あの国に追い出されてよかったと思いますよ」


 俺が微笑みながら心の底からそうつぶやいた。


「それでええ。この自由都市なら、どんな種族だろうと腕一本で生きていける」


 ドワーフの老人はニヤリと笑い、俺の肩を力強く叩いた。

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