1888年・再びロンドン
次回の更新予定12月13日(土曜日)
1888年秋・大英帝国首都・ロンドン市
船が出発し、3人は足早に港を離れた。
馬車が乗れる大通りまでの人影もない夜道でジャック・セワードとジョナサン・ハーカーが話しながら前を歩いていた。
ミナ・ハーカーは彼らから少し距離を保ち、追いかけていた。
「やあ・・三人とも、もしかして港の帰りかな?」
突然後ろから声をかけられ、三人は同時に後ろへ振り向いた。
声をかけたのは共通の友人だった。
彼の名はアーサー・ホルムウッド、”アット”、下級貴族のゴダルミング卿でもある。
「アット、なんで教授の見送りに来なかった?」
ジャックは少し怒った声で問い詰めた。
「ジャックよ・・・貴族、下級とはいえ、それなりに忙しいのだよ」
肩をすくみながらゴダルミング卿は返事した。
「そんなもんかな・・・でどうする、今から家にお茶でも飲むか?・・ね、ミナ?」
ジョナサンは彼を誘いながら妻であるミナに声をかけた。
「遠慮しておくよ、ジョナサン」
ゴダルミング卿は真剣な眼差しでミナを見つめながら答えた。
「遠慮しなくていいわ・・・アーサー」
ミナは同じく真剣な眼差しでゴダルミング卿を見つめた。
「ちゃんとした言い訳聞かせろよ、アット・・・」
ジャックはゴダルミング卿の肩を軽く叩いた。
「じゃ、行こうか・・・」
ジョナサンは妻の手を掴もうとした。
「お前ら・あなたたち・・・黙れ!!ッ」
ミナとゴダルミング卿は同時に叫び、二人が服に隠していた短剣でジャック・セワードとジョナサン・ハーカーの首を同時に躊躇なく切った。
反応する暇もなく、あっけらかんと取られた二人は切られた首に手を当てたが、出血が勢いよく飛び散り、悲鳴をあげることなく、口をパクパクしながら床に倒れ、絶命していた。
「とんだクロゴケグモだね・・・ミナ」
「誰の差し金、アット?・・・マスタじゃないのは確かだわ」
「マスター?・・やはり君はあのドラキュラの眷族だね」
「そうよ・・・」
「わが主の言ってた通り・・・あの男がまだ存在している・・・」
「その主の名を教えなさいよ・・・」
「そうでしたね、失礼しました・・・僕はディオゲネス・クラブ、会員番号0013なのだよ・・・00を与えられた二桁ナンバーズの一人・・・これだけ言えば、わかるよね?」
ミナは怒りを露わにした。
「あそこの変人クラブ?・・・要するに国の諜報機関と言いたいわけ?」
「ああ・・その通りだよ・・・大英帝国諜報機関、ディオゲネス・クラブ、つまり僕の主はこの国の女王陛下なのだよ」
「不死者じゃないの?・・・マスターの名を教えなさいよ!!」
「不死者だよ、だが断るよ・・・覚悟してくださいよ、ミナ・・・君を捕まえて、君のマスターの情報を得て、他より先に滅ぼさないとね」
「捕まってみなさいよ!!」
ミナは赤くなった瞳と大きくなった犬歯で威嚇しながらゴダルミング卿の前に短剣を挑発的に構えた。
「お嬢ちゃん、5歩ほど下がりな、それから目をつぶれッ」
ミナの頭で突然、男の声が響いた。
マスターであるドラキュラから聞いたことがあった。眷族同士が使う意思疎通手段だった。ミナは声の言った通り、軽く飛んで、5歩ほど下がった後、目をつぶった。
その後、雷を思わせる大きな轟音とともにジャックとジョナサンの遺体が倒れていた位置とゴダルミング卿の立っていた位置をガトリング砲で発射された複数の弾丸は塵、土、小石を巻き上げながら連続的な絨毯爆撃で遺体とゴダルミング卿をバラバラにしたように見えた。
「お嬢ちゃん、後ろの倉庫の屋上へ来な、早く!!」
ミナは後ろへ振り向き、一気に倉庫へと向かった。
30ヤードほど離れた倉庫の扉の前にしゃがんで、足に力を入れて、屋上までジャンプをした。
屋上に最新式の三脚架上に据えたマキシム機関銃は銃口から煙をあげていて、弾薬箱が空になって、置いてあった。その隣に髭を生やした軍人風の40代前半の男が立っていた。
「あなたも眷族なの?」
ミナは男に質問をした。
「はい、お嬢ちゃん・・・それと俺に捕まりな・・・逃げるぞ」
「ええ?」
「ゴダルミングの野郎はくたばってない、あいつは00二桁ナンバーズの一人だぜ・・・そしてあのキザ野郎のルスヴン卿の系統さ・・・あの系統は霧になる能力が備わっているぞ!!」
ミナは後ろへ振り向き、先ほど機関銃で一掃された辺りを見た。
ロンドンの秋冬の霧のようなものが人間の形になりずつあった。
「ミナあああ・・・貴様!!!逃げるな!!!!」
人の形をした霧が怒りを込めて叫んでいた。
ミナは髭の男に捕まった。
男は簡易はしごのようなものに捕まり、上を見て、合図した。
ミナは夜空を見上げて、見たことのない黒い細長い飛行船が動き出したのは見えた。
「何をあれ?!」
「試作品の硬式飛行船だ、お嬢ちゃん・・・マスターが用意したぜ・・・動力は反重力物質ケーバライト・・・だから音しないんだッ」
「凄いわ・・・そういえば、あなたの名前を教えていただけませんか?」
「元大英帝国陸軍、セバスチャン・モラン大佐だッ・・・お嬢ちゃんと同じ、マスター・ドラキュラの系統の新人者さ・・・」
「私はミナ・ハーカー・・・いや、ミナ・マレーです、よろしく、モラン大佐」
「セバスチャンと気軽に呼んでくれ、同じ新人者同士さ」
続く・・・




