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久遠の不和  作者: 鬼野宮マルキ


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1888年・ロンドン

1888年・秋

大英帝国首都・ロンドン市


男は教授と呼ばれていた。

イメージと違い、教授=老人と思われていたが、書類上ではまだ47歳だった。


細身の体と上品で知的な雰囲気が漂い、様々な話題に深い理解と知識を持っていた。


男の職業は精神科医でイギリス人の元教え子の要請で教鞭を執っていたオランダのアムステルダム大学より霧の深いロンドン市にしばらく滞在していた。


男の髪は後退しており、本人は何気にそれを気にしていた。

表の職業の名声とは別、裏の稼業でも大きな名声を持っていた。


ロンドンの滞在は終わりに近づき、オランダ行きの船に乗る時間になっていた。


「教授、もっと残っていただけると思っていました」


男の元教え子は声をかけた。


「最初はそのつもりだった、セワード君・・・でも大学で残したものが多くて、終わらせないとな」


「でもできるだけ早くこちらに戻ってきてほしいのです」


赤い髪の若い女性が男に懇願した。


「戻りますとも、ミセス・ハーカー」


「あなたのおかげです、この御恩を一生忘れません」


「とんでもない、モリス君は残念だった、ハーカー君」


「教授は船に乗らないといけませんので邪魔しないでおきましょう」


若い女性は涙をにじませながら話した。


「そうですね、ありがとうございました、ヴァン・ヘルシング教授」


ジャック・セワード医師が悲しそうにお別れの挨拶をした。


男は船に乗り、見送りに来た3人に対して、手を振った。



男は与えられた客室に入り、ドアを施錠した。


「喉が渇く・・・」


男はつぶやき、部屋に飾ってあった大きな鏡に映る自分の姿を見た。


男の目が赤くなり、鏡に映っている自分の姿が消えていくのは見えた。


「あの系統を滅ぼした・・・評議会が私の系統の復活を認めてくれるだろう・・・」


「どうでしょうかね・・・エイブラハム」


男は驚き、声がする方へ視線をやった。


「貴様か・・・グレイ」


「ああ・・・君に評議会からの伝言を届けにきたよ」


客室のソファに高級な英国式スーツを着た若い男性が座っていた。右手に高級仕様の仕込み杖を握っていた。


若い男は教授とは違う存在だった。同じく不死者でもあり、数世紀若かった。

彼は評議会の配達人であり、場合によってその代理処刑人でもあった。


「早く内容を教えろ・・・そして消え失せろ、グレイ」


若い男はうその笑顔を浮かべ、教授を見た。


「議長から直々の伝言だ・・・”しくじったな、あの系統の主がまだ存在している”」


「そんなバカな・・・この手で滅ぼしたぞ!!」


「”否、あの系統の主がまだ存在している、故、滅ぼすまで貴様の系統の復活はなしだ!”」


「何処だッ!そいつは?!!」


「”自分で探せ、そして滅ぼせ、これは評議会の総意だッ!”・・・だそうです、エイブラハム」


「黙れ、グレイ・・・」


男が怒りで狂いそうになった。


「おっと・・・僕はただの配達人ですよ・・・敵意はないよ」


「だったら消えろッ」


「とっておきの情報は教えますよ、エイブラハム」


「なんだッ」


「標的はパリにいる・・・必ず滅ぼせ、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング・・・いやフアン・ポンセ・デ・レオンさんと呼んだ方がいいのかな?」


配達人の若い男性は指を鳴らし、煙のごとく部屋から消えた。


「ドリアン・グレイ・・・クソガキめ・・・」


男は本名で呼ばれたのは数世紀ぶりだった。


伝説の若返りの泉を求めた冒険者としての記憶が蘇り、怒りにかわった。


若返りの泉は嘘ではなかったが、その代償は想像を絶するほど大きかった。

男は不死者となり、それを維持するため、血が必要だった。


評議会の命である系統を滅ぼすように言われ、その目的を果たしたと思った。


「ドラキュラめ・・・探しだしてやる・・・今度こそ滅ぼしてやるッ」


男は鞄から赤い液体で満たされた瓶を取り出し、その赤い液体をがぶ飲みした。


続く・・・

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