第十五話 永遠の契り
蕭淵は、長年己の命を守り続けてきた愛用の剣を握りしめた。その剣は、戦場での二人の禁じられた契りを唯一知る証人だった。剣の柄は、蕭淵の汗と血に馴染み、その刃は、長恭のために幾度となく血を吸ってきた。
蕭淵は、剣の切っ先を、自らの心臓の真上に定めた。躊躇はなかった。彼の魂は、既に長恭の魂と深く共鳴しており、肉体の死は、二つの魂の完全な結合を意味していた。
彼は、最後の瞬間、長恭の鬼の面の下に隠された美しい素顔を思い浮かべた。戦場で彼にだけ見せてくれた、激しい愛に溺れた表情を。
「ああ、長恭……」
蕭淵は、剣を心臓に突き立てた。ぶすりと肉を貫く音が、夜の静寂の中、微かに響いた。
大量の血が噴き出し、かそけき命の火が消えていく。鬼面の下の彼の顔は、長年苦しんだ片思いから解放され、深い安堵と喜びに満ちた表情を浮かべていた。彼の魂は、今こそ長恭を追って一気に彼岸へ飛び込んでいった。
蘭陵面を被ったまま自害した蕭淵の姿は、まるで長恭の墓を守る番人のように見えた。二人の魂は、戦場での切ない愛の約束通り、永遠の契りを結んだのだった。もはや、皇族の義務も、妻の存在も、権力の毒も、何も二人の魂を隔てることはなかった。彼らは、死という最も酷薄な手段によって、完全なる自由を手に入れたのだ。
蘭陵王とその副官の悲劇は、永遠に語り継がれることのない、秘められた歴史となった。彼らの魂は、戦場での激しい情愛の記憶だけを携え、静謐な闇の中で、永遠に結ばれた。




