表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【歴史BL】蘭陵王の恋 ~鬼面の向こうの、永遠の契り~  作者: 極北すばる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

第十一話 皇帝の毒杯と最後の夜

 鄴へ戻った長恭を待っていたのは、凱旋の歓声ではなく、皇帝からの冷酷な勅命だった。彼の戦功は、皇帝の嫉妬と恐怖を極限まで高めていた。長恭をありもしない謀反の罪で処断すれば、混乱が生じる。ゆえに、皇帝は、蘭陵王に毒酒を賜るという、静かで陰湿な暗殺を選んだ。


 長恭は、その勅命を冷静に受け入れた。彼の心は、既に死を受け入れていたため、賜死に対する驚きはなかった。彼は、抵抗すれば、妻・鄭氏や親族、家来、そして遠方にいる蕭淵にも危害が及ぶことを知っていた。彼の命は、多くの愛する者を救うための対価だったのだ。


 彼は、毒酒を飲む前に、鄭氏に別れを告げた。鄭氏は、既に夫の運命を悟っており、穏やかな顔で夫を迎えた。


「旦那様。貴方は、わたくしに、深い愛と安らぎを与えてくださいました。わたくしは、永遠に貴方を愛しております。今しばらくのお別れ、すぐにお傍に参りますゆえ」


 鄭氏は、夫の瞳に宿る悲壮な覚悟が、自分に向けられた夫婦の情だけでないことを理解していた。それが誰なのかはわからないが、彼女は、夫の魂の安寧を願い、彼の最期の選択を静かに見守った。彼女の愛は独占ではなく、解放という崇高な域に達していた。


 長恭は、妻の慈悲深さに、静かに涙を流した。彼は、自分がいかにひどい夫で罪深い男であるかを、妻の清らかな愛によって思い知らされた。裏切りは裏切り、不貞は不貞であった。


 その後、長恭は机に向かい、遠方にいる蕭淵に向けて、最後の手紙を書き綴った。彼は、自らの指先を傷つけ、その血で文字を綴った。その文字は、彼の命と、激しい情愛を帯びていた。


「永遠に、私を忘れよ。私への愛は、貴方の命を脅かす毒となる。貴方は、生きよ。これが、私からの最後の命令である」


 それは、彼の愛と自己犠牲の決意を込めた、あまりにも冷たい訣別の手紙だった。長恭は、この手紙によって、蕭淵の心を深く傷つけ、自分への執着を断つことを望んだ。


 それから、長恭は、毒酒を一気に飲み干した。彼は、毒が全身を巡る苦痛を、蕭淵への愛の思念で耐えた。彼の心の中は、蕭淵への愛と、彼を自由にするという決意で満たされていた。


(蕭淵……貴方を愛している。だが貴方は、私を愛してはならない。貴方は、私を忘れて生きるのだ。生きて幸せになってくれ)


 長恭の魂は、蕭淵への激しい愛を抱きながら解放された。彼の美しい顔に苦悶はなく、妻と愛する者を守り抜いた安堵の笑みが浮かんでいた。北斉の偉大な将軍、蘭陵王・高長恭は、皇帝の陰謀によって、その短い生涯を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ