第60話 さようなら
私が拾った石の正体とアイルの罪を明らかにするための調査が行われた。
私は今まで培ってきた有力貴族に情報を流した。
揉み消させないために。彼らを通して貴族の怒りを煽った。もう、陛下すらどうすることもできないだろう。
アイルは騎士の尋問で言ったそうだ。
「全てはイベントをクリアするためだ」と。石の出所については「神様からのプレゼントよ。私はこの世界のヒロインなの。私はいつだってね、特別な女の子なの。特別な女の子にはね、神様が特別な贈り物をしてくれるのよ」と。
私にはその言葉の意味が分かった。きっと、あの石は謹慎が解けたか他の神様の監視の隙をついた、彼女に恋をした神様がアイルに贈ったものだということが。
でも、そんな話を理解する人間はこの世界にはいない。
周りが理解できないことを悟ると「ミキちゃんを呼んで。ミキちゃんなら、私の言葉を理解してくれるわ」と言ったそうだ。そのせいで私まで尋問を受けることになった。まぁ、形ばかりのものだけど。
当然、「分からない」と答えた。私まで電波女扱いされたくはないもの。
ついでに、いつでもいいからアイルと二人きりで話せないかユニアスに聞いてみたら案外すんなりと許可が下りた。
今まで散々振り回された私はだからアイルに対して色々思うところもあるだろうし、おそらくこれが最後の会話になるだろうから思いの丈をぶつけろとのことだった。
今回の罪が認められるかどうかは別にして、あそこまで訳の分からないことを羅列するアイルは精神に異常をきたしてる恐れがあるとして公の舞台に立つことことが不可能になるそうだ。
「あっ、ミキちゃん。やっと迎えに来てくれたのね。もぉ、遅いよぉ。本当に鈍臭いんだから」
檻を挟んで対面したアイルは何の罪の自覚もなく、頬をぷくぅと膨らませて文句を言う。
「私は迎えに来たわけじゃない」
「えっ?じゃあ、何しに来たの?」
「お別れを言いにきたの」
「えっ、ミキちゃん、どっか行くの?どこに行くの?私もついてってあげるよ。ミキちゃんは私がいないと本当に何もできないもんね」
「・・・・」
あなたは、きっと死ぬまで変わらないのでしょうね。一度死んで、何も変わらなかったのだから。馬鹿は死んでも治らないってことの証明ね。
「マヤ」
「やっと私の本当の名前を呼んでくれたわね」
「あなたはマヤじゃない。アイルよ。あなたが自分で選んだの。アイルになることを。全て、あなたが選んだ結果よ。だからね、日本では守ってくれたあなたのパパやママはいないの」
陛下ではあなたを守りきれない。もう、もみ消しはきかない。私が貴族を煽ったから。そのために繋いだ人脈だから。
まぁ、こんなことに使うとは思わなかったけど。いざという時のために自分を守る盾ぐらいになればいいなと思っただけだもの。
「そして、私をミキではなくレイファにしたのもあなた。あなたには感謝しているわ。だって、ミキのままだったらあなたに何もできなかった。でも、レイファは違う。だって、公爵令嬢だから」
「ミキちゃん?」
「あなたは言ったわね。私があなたに嫉妬してるって」
私はマヤを嘲笑った。わざとそう見えるように。でも、本気で嘲笑した。
「逆でしょう。パパやママの権力がなくても首席をとれるミキに、そしてお金がなくても優れた容姿を持っていたミキにあなたは嫉妬してた。だから執拗に付き纏って、
自分が見下されるような男を当てがおうとした。そうしないと勝てないから」
初めてね、あなたの顔がそこまで怒りと羞恥に崩れるのは。ああ、今が心底幸せだわ。
「可哀想なマヤ。転生してまでミキ(私)に勝てないなんて。さようなら、マヤ。永遠に」
マヤは何かを喚いていたけど私は無視して背を向けた。これで、本当に別れられる。




