プロローグ
暗く、心地よい時間は鳴り響く騒音とともに終わりを告げる。橘 瑞吉は、嫌々黒い視界を部屋の物へと変えた。頭中に軽い頭痛を患いながら、鉛の如き重さの体を動かし、心地よい楽園から身を離す。意識の朦朧とする中未だに騒音源は枕隣で外の蝉と合唱を行っている。
瑞吉の目は霞んでおり、右手を手探りで探す中、ようやく勝利を掴む。脱力した右手でアラームのボタンを押し、合唱が蝉のソロへと切り替わる。そうして暫く瑞吉は敷布団の上で座り、先程まで味わっていた楽園の余韻を少し堪能し、掛け布団を布団の横に追いやりゆっくり立った。
「はぁ、怠い」
最近残業続けなのと昨日の酒かと原因を推測する。上司に強制加入された飲み会で昨日は大量に飲まされた。自分はある程度酒には耐性があると思うが、残業が続いた分かなり効いたのかもしれない。洗面台に行き、視界だけはハッキリとさせる。ふらりふらりと朝食を用意し、依然と意識が朦朧の中テレビを付け食事を始める。
「いただきます。」
料理は、、味噌汁、魚、白米、野菜。至って平凡な健康食。あまり食欲がないが、今は絶賛大不調の真っ只中、最近になり不調が続いて仕事の出来が容量悪く、残業まで続ける始末。今日は、休日。特に何も決まっていない。
「どうせ、気がつく間にこの日はなくなっているだろう。」
そう思いながら瑞吉は、テレビのリモコンに手を伸ばしテレビをつける。
『●✕県▲市で大学生五人が行方不明になった事件ですが、捜索にあたった陸上自衛隊員13名との連絡が途絶えているとの情報が』
『鹿児島県から発進した海上自衛隊の潜水艦の残骸が今朝の7:00にサーファーたちに発見されました。政府は、サンゴ礁や海底の障害物への衝突事故として詳しい内容のー』
『最近、異常な現象が相次いでます。東京のオーロラ事件に相次いでインド洋ではネッシーの発見が相次いでいるではないですか、専門家はこれをどう思っているんです?』
水晶板のチャンネルをひたすら切り替えるととある議論をする番組で止まった。瑞吉はこのこめんてーたーが嫌いであったが、意見には少なからず同意する。ネッシーについては、そもそも居ないのでただのデマだろうが、東京のオーロラ事件を機に、自称神と通信できる巫女や、ニューヨークで隕石衝突、北海道の農家の牛が一夜にして数百頭、大量の血痕だけ残して消えたり。度重なる行方不明、ヴェネツィアの沈没など全く笑えなく、胡散臭くもあるニュースばかりである。瑞吉は、都市伝説は信じては居ないが、妙に惹かれると思う所がある。この議論で取り上げられる話は嘘くさくあるが妙に惹かれるのだ。
「ご馳走様でした。」
朝食が終わり。皿を台所に持っていき、洗う。長年の一人暮らしをしている瑞吉には、さして手間のものではなった。皿を洗い終わると次は歯磨き、それが終わると、暫く何をするか迷いながら天井を見る。仕事中は、休日に渇望するがいざとなるとやることを思い受けべない。何をするか思いつかないまま、時計の針の動く音だけが耳の中で響く。
「いざ、休日もらうとやることが浮かばないなぁ」
天井を見ると、ふと思い出したように頭痛が襲いかかった。
「痛った」
瑞吉は、冷凍庫から氷を取り出しコンビニのビニールの中に水を入れタオルを巻き頭に乗せた。少しの痛みと熱を帯びた頭が突如つけられた冷たい物体が冷やす。
「気持ちい」
頭が冷えることで頭痛がだいぶマシになるのを確認すると、薬箱を出し頭痛薬を探す。しかし、薬箱の中には頭痛薬は残っていない。瑞吉は全ての薬を出し一つ一つ脳内で覚えている頭痛薬と照合するが、結果は残ってないという事実だった。それに少しながら怒りが込み上がると同時に強い頭痛が呼び戻る。瑞吉は、近くの薬局に取りに行くことを選ぶ。寝間着から服装を最低でも外に出かけても違和感のない服装を選ぼうとクローゼットを開くとそこには若い頃に着ていた私服とスーツだけだった。休日はほとんど外に出かけない証拠である。一瞬、私服を選ぼうとしたが大学生のような服装を自分の歳できるのは抵抗があり今では人生の大半を一緒に過ごしたスーツを切ることに選んだ。
瑞吉は、長年このスーツと時間を過ごしている。そんな彼にとってすぐにスーツを着るのはお手の物だった。服をすぐに着ると財布を探す。暫く探すと自分のポッケに入れっぱなしだということを思い出し、手でポッケの膨らみを叩く。叩いた手は、靴へと移動し、ついにはドアノブに届いた。ドアを開けると同時に熱風が瑞吉に吹きかける。外に出るとそこにはボロアパートの敷地内が見える。すぐに足を動かし、盗む物無いけどと思いながら鍵をかける。
自分の住んでいるボロアパートは管理が全く行き届いていなく、二階から降りるためにはペンキが全て剥げ、酸素によって赤褐色に色どられた階段を通らねばならない。歩くと必ずキシミ音がする。初めは恐怖を覚えたものだが今では日常である。
瑞吉は何も怖がらずに足を階段に運び下る。すると…
ガコンと音とともに、足の痛みと共に体が階段に沿って痛みとともに滑る。咄嗟に目をつぶってしまったが目を開くと右目の前には捻じ斬ってしまった鉄のバイプの刃が眼前に迫っていた。反射で目を閉じる。一瞬、冷たいものが右目で破裂した。そのまま、滑り頭がコンクリートにぶつかる。目を再び開けると、視界は半分失っており、剃って皮が剥がれた肉が灼熱の地面に浸かり、大地勝ちを染み込んでいた。
暗転する意識の中、幻影が浮かび上がる。血の色が染まった地面が黒く染まりだし、中から無数の小さな子鬼が吹き出し、瑞吉を暗闇の中に引き釣り下ろそうとする。
幻覚だ、そろそろお終いか体の温度がどんどん奪われ体温が急激に冷えていく。蝉の鳴き声が脳内に響き意識が段々と奪われ眠気に襲われる。そして、プツンと意識が消える。




