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※この文章の作成にはChat GPTを一部使用しています※

「うわあぁーッ!」


 情けない叫び声が聞こえた。

 いや、これは僕の声だ。僕が叫んだのだ。


 飛び起きると、そこはいつもの部屋の中。

 いつもの朝だった。

 

 咄嗟に腹を触る。当然のように、傷一つなかった。


 また、戻ってきた。この忌々しい朝に。


「カルロッ……!」


 フィンネが顔を歪めて抱きついてきた。

 僕の胸に顔を埋める。


「良かった……カルロ、良かった……」


 ぎゅっと僕の腕を握りしめるフィンネ。

 その手から、どれほどの痛みが、悲しみが、彼女を襲ったのか。


 それが伝わってきた。


「……大丈夫だ。もう、大丈夫だから」


 僕はただ、フィンネの頭を撫で続けた。

 彼女が落ち着くまで、ずっと。



 ◆



「舌を噛み切ろうとした?」


 思いもしなかったフィンネの行動に、僕は思わず聞き返してしまった。


「うん……それで死ねたら、また戻れると思って」


 なんて子だ。まさかそこまでするなんて……


「でもね、やっぱりうまくできなかったみたいで……結局、思いっきり兵士の股間を蹴り上げて、そして……」


 言い淀むフィンネの言葉を、慌てて手を振って遮る。


「もういい。もういいよ」


 無意識に腹を擦る。たしかに、傷はない。

 だけど突き刺されたときのあの痛み。


 そして、体が死に向かう感覚は、べっとりと脳裏に染み付いている。


 こんな死を、もうフィンネは3回も経験していたというのか。

 彼女は、とても強い。たぶん僕なんかより、ずっと。


 だからこそ、もう彼女をこんな目に合わせたくない。

 運命だろうがなんだろうが、絶対に変えてみせる。


 そう、心に誓った。



 ◆



 だけど――結局、僕たちは、ここからまた三回も、同じ日を繰り返すことになった。


 僕は思いつく限り、あらゆる方法を試した。


 まずは都に行って、魔術師に頼ろうとしてみた。

 彼らなら黒い塊のことも分かるかもしれない。

 けれど、日が暮れるまでにたどり着くのは到底不可能だった。

 結局、道中で野党に襲われ、死んだ。


 次はもう何も考えず、ひたすら宛もなく歩いてみた。

 でも結果は変わらず。フィンネは橋を渡る途中に足を滑らせ、川で溺れて死んだ。


 ならばと、誰も来ない廃坑に行って籠もったりしてみた。しかし、やはり……廃坑はあっけなく崩れ落ち、僕らはその下敷きになった。


 僕らが行動すればするほど、それを嘲笑うかのように、別の何かが起きた。

 まるで大きな手のひらの上で転がされているようだった。


 死の魔の手からは、決して逃れることができなかった。


「どうしてこうなるんだっ!」


 七回目の同じ朝、僕は自分の膝を思いっきり殴った。

 腹が立った。自分にも、この運命にも。


 もし神がいるなら、今の僕たちを見て、たいそう楽しんでいるに違いない。

 そんな気さえした。


「カルロ……」


 フィンネが心配そうに、僕の背中を擦ってくれる。


 くそっ……僕は何をしているんだ。

 本当に辛いのは僕じゃない。フィンネだ。

 何度も何度も死を迎え、それでもまだ、僕を心配してくれる。


 情けなくて、涙が滲む。

 それに、とても――疲れていた。


「ねぇ、カルロ……今回は、何もしないでおこう」


「え?」


 予想もしなかったフィンネの言葉に、僕は虚をつかれた。


「だってカルロ、疲れたでしょ。何度も何度も、頑張ってくれた。だから、また次のときに考えればいいよ。今は……休もう?」


 フィンネは、まるで心を見透かすような目で、優しく微笑んだ。

 だけど、その笑みはどこか諦めたようにも見えて、余計に胸が痛んだ。


「馬鹿言うな!」


 思わず大きな声が出る。


「何もせずに、黙って見過ごすなんて……そんなことできるわけないだろ!」


「それは、わかってるよ」


「なら……!」


「でも、カルロ! 顔……怖いよ」 


 フィンネの悲しそうな声に、僕はハッとした。

 気づかないうちに、眉間にしわが寄っていた。

 怒りに任せて、フィンネを問い詰めていた。


「……ごめん」


 僕は眉を揉んだあと、ベッドの上にばったりと、仰向けに倒れ込んだ。

 天井を見上げながら、深く息を吐く。


 ――限界、なのかもしれない。

 少なくとも、このまま二人だけですべてを抱えるのは。


「フィンネ、会合に行こう」


「え?」


 フィンネが目を丸くして僕を見る。


「村の会合だよ。そこでみんなに、僕たちの現状を話すんだ」


「それって……信じてもらえるかな」


「わからない。でも、このまま二人だけで考えるよりましだろ」


「そうだけど……」


 フィンネは、なにか言いたげに俯いた。


「不満か?」


「不満というか……不安、かな」


「不安?」


「そう。信じてもらえなかったり、馬鹿にされたりしたら、傷つくでしょ。それが、嫌なの」


 こんな状況で、まだ僕のことを――


「それに、仮に信じてもらっても、また時が戻れば初めから。それって、どうなんだろう」


 フィンネの言葉に、ほんの少し沈黙する。

 確かに、その通りだ。全部伝えたところで、また巻き戻されれば意味なんてないのかもしれない。


 それでも――


「意味は……ある。なにかアドバイスとか、良い考えが浮かぶかもしれない。誰かの一言が、突破口になるかも」


「それは、そうだけど……」


 フィンネは口をつぐんだ。

 僕は起き上がって彼女の肩を掴み、まっすぐに顔を見つめた。


「やるだけやるしかないんだろ。本当に諦めるのは、それからでもいい」


「うん……そうだね。わかった」


 フィンネは、あまり納得していないように見えた。


 それでも、やるしかない。

 なにかしていなければ、もう駄目になってしまう。


 そんな気がしたから。

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