5
※この文章の作成にはChat GPTを一部使用しています※
「うわあぁーッ!」
情けない叫び声が聞こえた。
いや、これは僕の声だ。僕が叫んだのだ。
飛び起きると、そこはいつもの部屋の中。
いつもの朝だった。
咄嗟に腹を触る。当然のように、傷一つなかった。
また、戻ってきた。この忌々しい朝に。
「カルロッ……!」
フィンネが顔を歪めて抱きついてきた。
僕の胸に顔を埋める。
「良かった……カルロ、良かった……」
ぎゅっと僕の腕を握りしめるフィンネ。
その手から、どれほどの痛みが、悲しみが、彼女を襲ったのか。
それが伝わってきた。
「……大丈夫だ。もう、大丈夫だから」
僕はただ、フィンネの頭を撫で続けた。
彼女が落ち着くまで、ずっと。
◆
「舌を噛み切ろうとした?」
思いもしなかったフィンネの行動に、僕は思わず聞き返してしまった。
「うん……それで死ねたら、また戻れると思って」
なんて子だ。まさかそこまでするなんて……
「でもね、やっぱりうまくできなかったみたいで……結局、思いっきり兵士の股間を蹴り上げて、そして……」
言い淀むフィンネの言葉を、慌てて手を振って遮る。
「もういい。もういいよ」
無意識に腹を擦る。たしかに、傷はない。
だけど突き刺されたときのあの痛み。
そして、体が死に向かう感覚は、べっとりと脳裏に染み付いている。
こんな死を、もうフィンネは3回も経験していたというのか。
彼女は、とても強い。たぶん僕なんかより、ずっと。
だからこそ、もう彼女をこんな目に合わせたくない。
運命だろうがなんだろうが、絶対に変えてみせる。
そう、心に誓った。
◆
だけど――結局、僕たちは、ここからまた三回も、同じ日を繰り返すことになった。
僕は思いつく限り、あらゆる方法を試した。
まずは都に行って、魔術師に頼ろうとしてみた。
彼らなら黒い塊のことも分かるかもしれない。
けれど、日が暮れるまでにたどり着くのは到底不可能だった。
結局、道中で野党に襲われ、死んだ。
次はもう何も考えず、ひたすら宛もなく歩いてみた。
でも結果は変わらず。フィンネは橋を渡る途中に足を滑らせ、川で溺れて死んだ。
ならばと、誰も来ない廃坑に行って籠もったりしてみた。しかし、やはり……廃坑はあっけなく崩れ落ち、僕らはその下敷きになった。
僕らが行動すればするほど、それを嘲笑うかのように、別の何かが起きた。
まるで大きな手のひらの上で転がされているようだった。
死の魔の手からは、決して逃れることができなかった。
「どうしてこうなるんだっ!」
七回目の同じ朝、僕は自分の膝を思いっきり殴った。
腹が立った。自分にも、この運命にも。
もし神がいるなら、今の僕たちを見て、たいそう楽しんでいるに違いない。
そんな気さえした。
「カルロ……」
フィンネが心配そうに、僕の背中を擦ってくれる。
くそっ……僕は何をしているんだ。
本当に辛いのは僕じゃない。フィンネだ。
何度も何度も死を迎え、それでもまだ、僕を心配してくれる。
情けなくて、涙が滲む。
それに、とても――疲れていた。
「ねぇ、カルロ……今回は、何もしないでおこう」
「え?」
予想もしなかったフィンネの言葉に、僕は虚をつかれた。
「だってカルロ、疲れたでしょ。何度も何度も、頑張ってくれた。だから、また次のときに考えればいいよ。今は……休もう?」
フィンネは、まるで心を見透かすような目で、優しく微笑んだ。
だけど、その笑みはどこか諦めたようにも見えて、余計に胸が痛んだ。
「馬鹿言うな!」
思わず大きな声が出る。
「何もせずに、黙って見過ごすなんて……そんなことできるわけないだろ!」
「それは、わかってるよ」
「なら……!」
「でも、カルロ! 顔……怖いよ」
フィンネの悲しそうな声に、僕はハッとした。
気づかないうちに、眉間にしわが寄っていた。
怒りに任せて、フィンネを問い詰めていた。
「……ごめん」
僕は眉を揉んだあと、ベッドの上にばったりと、仰向けに倒れ込んだ。
天井を見上げながら、深く息を吐く。
――限界、なのかもしれない。
少なくとも、このまま二人だけですべてを抱えるのは。
「フィンネ、会合に行こう」
「え?」
フィンネが目を丸くして僕を見る。
「村の会合だよ。そこでみんなに、僕たちの現状を話すんだ」
「それって……信じてもらえるかな」
「わからない。でも、このまま二人だけで考えるよりましだろ」
「そうだけど……」
フィンネは、なにか言いたげに俯いた。
「不満か?」
「不満というか……不安、かな」
「不安?」
「そう。信じてもらえなかったり、馬鹿にされたりしたら、傷つくでしょ。それが、嫌なの」
こんな状況で、まだ僕のことを――
「それに、仮に信じてもらっても、また時が戻れば初めから。それって、どうなんだろう」
フィンネの言葉に、ほんの少し沈黙する。
確かに、その通りだ。全部伝えたところで、また巻き戻されれば意味なんてないのかもしれない。
それでも――
「意味は……ある。なにかアドバイスとか、良い考えが浮かぶかもしれない。誰かの一言が、突破口になるかも」
「それは、そうだけど……」
フィンネは口をつぐんだ。
僕は起き上がって彼女の肩を掴み、まっすぐに顔を見つめた。
「やるだけやるしかないんだろ。本当に諦めるのは、それからでもいい」
「うん……そうだね。わかった」
フィンネは、あまり納得していないように見えた。
それでも、やるしかない。
なにかしていなければ、もう駄目になってしまう。
そんな気がしたから。