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※この文章の作成にはChat GPTを一部使用しています※

 どうせまた、もとに戻るだけだ。


 ひとりきりの部屋で、僕はぼんやりとベッドに横たわっていた。


 フィンネがどこに行こうが、何をしようが、また時は巻き戻り、この部屋に帰ってくる。


 だから何もせず、ただ窓から雲の流れる空を眺めていた。

 まるで世界の色がすべて水で薄められたように、感情も景色も、輪郭が曖昧だった。


 今までの何もかも、無駄だった。

 必死に頑張った日々も、味わった悲しみも、ささやかな喜びも。


 でも、それ以上に辛かったのは――

 フィンネが、僕の気持ちを分かってくれなかったこと。


 彼女は僕とのこの生活を拒んだ。

 こんなにも頑張った“僕との生活”を、だ。


 僕は間違ってない。

 その感情が胸を満たしていく。


 フィンネは、僕の気持ちを分かってくれない。

 だけど、本当にそうだろうか?


 分かっていないのは、僕の方じゃないか?

 そんな疑念を、僕はかき消す。


 堂々巡りの自問自答。答えのないやりとり。

 そんなことを続けても、胸のざわめきは晴れることがなかった。


 窓辺の椅子は空っぽのまま。

 まるで、そこに座るはずだった誰かが、永遠に背を向けているようだった。


 いつしか僕は眠っていた。

 目を覚ましたのは、窓を叩く激しい音――雨音のせいだった。


 雨……?

 この繰り返しの中で、雨が降ったことなんて一度もなかった。


 ベッドから跳ね起き、窓を開け放つ。

 外は、嵐だった。


 鉛色の空を裂く稲妻。うねる風。

 枝が叩きつけられる音。


「フィンネ……」


 彼女の名を口にした瞬間、心が冷たい手にわし掴みにされたような感覚がした。

 でも、すぐに思い直す。


 どうせいずれ、時が戻るんだ。

 彼女の死とともに……


 そうだ。だから、心配する意味なんてない。

 何も問題なんてないんだ。


 けれど気づけば、僕は何も持たず、ただ上着を羽織り、家を飛び出していた。


 なぜだ?

 一人でいけばいいと言ったのは、紛れもなく僕だ。

 なのに、なぜフィンネを探しに行こうとしている?


 分からない。

 でも、ただ彼女を――助けたかった。


 そんなの無理だ。

 心の声が聞こえる。


 今まで何度失敗した?

 それを今更助けたいなんて、自分勝手の極みだ。


 でも、それでいい。今はそれでいい。

 ただ、フィンネに謝りたかった。



 

 風が、咆哮のように唸っていた。

 空はどこまでも灰色で、沈むような重さをもって僕にのしかかる。


 まるで世界そのものが、怒りと悲しみで満ちているようだった。

 この村が、空が、今まで見たこともないほどに荒れ狂っていた。


 この嵐の中、ひとりで佇む彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

 胸が締めつけられる。

 それは、風よりも冷たく、雨よりも重い痛みだった。


「フィンネ……!」


 たまらなくなって駆け出す。

 泥が跳ね、雨が視界を滲ませていく。


 どこだ、どこへ行った……もしかして。


 僕の身体は星降り山へと向かおうとしていた。

 理由なんてなかった。でも、確信があった。


 山道はぬかるみ、何度も転び、手も膝も擦りむいた。

 それでも、進んだ。


 やがて、ようやくその姿を見つけた。


「フィンネーッ!!」


 喉が裂けるほど叫んだ。


 フィンネは傾いた木の下で、今にも吹き飛ばされそうな体を幹に預けていた。


 彼女もこちらに気づき、何かを伝えようと口を動かす。

 けれど、その声は雨と風の音にかき消された。


「なに……聞こえないよ、フィンネ!」


 僕は風雨に逆らいながら進む。

 彼女の頭巾が風にさらわれ、灰色の空に吸い込まれていく。


 ――あと少し。もう少しで届く。 


 そのとき、視界が一瞬で白に染まった。

 空が破裂したような音が轟く。


 それが落雷だと気づいたのは、反射的にしゃがみ込んだ後だった。

 地面が、ぐらりと揺れた。


 揺れている? 違う――地すべりだ。

 フィンネが掴まっている木の根が、斜面ごと崩れていく。


「フィンネ!!」


 僕は力のかぎり飛び込んだ。

 彼女も、精一杯手を伸ばしてくる。


 届け……届け、届け!

 頼むから届いてくれ!


 僕はただがむしゃらに腕を伸ばした。



 ◆



 耳元で、荒い息が聞こえる。


 恐る恐る目を開ける。

 そこには、フィンネがいた。


 僕の腕の中で、震えながら、でも確かに生きている。

 崖のギリギリの縁。僕たちは、泥にまみれて抱き合っていた。


 僕は震える手で彼女を抱きしめる。

 フィンネが僕を見上げる。


「カルロ……どうして……」


 その顔は泥だらけだった。


「謝りたかったんだ……どうしても、今日中に」


 彼女の頬を拭う。でも余計に泥だらけになった。

 それでも構わず、僕は何度も何度も頬を拭った。


「ごめん、フィンネ。僕が間違ってた。無駄なんかじゃ、なかったよ。時が戻って、体も戻ったって、気持ちだけは戻らない」


 そうだ。全部覚えている。

 決して忘れない。


 フィンネと過ごしたこの日々。

 悲しかったことも、辛かったことも、楽しかったことも、すべて。


「この子も一緒なんだな。お前のお腹の中で、僕たちと一緒に時を刻んだ。きっと、この時間が必要だったんだ。僕たちが、本当に家族になるために」


「家族……」


 フィンネの瞳に光が宿る。


「そう……そうだよ、家族だよ。家族は一緒に困難を乗り越えていくものだろ」


 運命を乗り越えて、本当の家族になるために。

 神様がこの試練を与えた。

 いまは、そんな気がしている。


「あ……見て」


 フィンネが指さす空に、雲の切れ間から、やわらかな陽の光が差し込んだ。


 雨も風も、嘘みたいに止んだ。

 嵐は、去った。


「ありがとう、カルロ。きっと乗り越えられるよね、私たち」


「……ああ」


 僕はもう一度、彼女を強く抱きしめた。


 氷のように冷たい。

 この雨で体温のほとんどが奪われていた。


「カルロ……すこし、眠いよ」


「うん……僕もだ。疲れたよな、少し眠ろう」


 僕がそう言うと、フィンネはゆっくりと、目を閉じた。


 夕陽に照らされたその顔は、今まで見たどんな最期よりも、安らかな表情だった。

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