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※この文章の作成にはChat GPTを一部使用しています※
「間違いない。フィンネは妊娠してる」
奥の部屋から出てきたエメラルダさんの言葉は、確信に満ちていた。
あのあとすぐに、僕たちは頼りになる隣人に助けを求めた。
エメラルダさんによれば、フィンネの症状は妊娠によって起こるつわりだ。
しかもそれは、妊娠から1ヶ月以上経ってからが普通らしい。
僕は混乱した。
なぜ? いつ彼女は妊娠した?
答えようのない疑問が頭の中を駆け巡る。
切り裂かれても、焼かれても、毒に侵されても、僕らの体は朝に戻ればなんともなかった。
それはすなわち、時が戻っているということに他ならない。髪だって、少しも伸びてない。
それはお腹の赤ん坊も同じはずだ。
ならば、なぜ、今になって気づく?
その理由は、まるで考えつかなかった。
思わず尋ねる。
「本当なんですか? だって、お腹も大きくないのに……」
「おや、困った顔をして。いい知らせだろうに」
ふー、とため息をつき、どかりと椅子に腰掛けるエメラルダさん。
「あたしはこの村でたくさん妊婦をみてきたんだ。顔見りゃだいたい分かんのよ。それに、月のものもだいぶ遅れてるときた。旦那なら、それくらいは把握しときなよ」
分かるわけないでしょう、と、言いたくても言えない。
同じ日を繰り返してたら、気づくはずもない。
「でも、僕にはわからないんです。この子がどうして……」
エメラルダさんは僕を見つめて、静かに言った。
「不安かい?」
「それは……はい」
「子どもができるってのはね、不思議なもんさ。いくら欲しがったって、神様が授けてくれないときもある。逆もまたしかり。まあ、あんたも親になるんだ。腹くくりな」
違う。僕の言いたいのは、そういう事じゃない。
それをエメラルダさんに伝えられないのが、とてももどかしい。
「カルロ……」
奥の部屋からフィンネが出てきた。
その表情は、憂いてるのか、喜んでいるのか。
まだ僕には判別がつかなかった。
「ほら、お姫様のお出ましだ」
エメラルダさんは立ち上がり、フィンネのもとに駆け寄る。
「体調はどう?」
「はい。だいぶ落ち着きました」
「うん、良かった。でも、気持ち悪さには波があるから。油断しちゃだめよ」
エメラルダさんはこのあと、色々と助言をくれた。
したほうが良いこと、しないほうが良いこと。
彼女は本当に親切だし、優しい人だった。
だけど今の僕にはそれを素直に受け止めるだけの余裕がなかった。
◆
家の中。
ベッドに横になるフィンネを、僕は椅子に座りながらただ見つめている。
なにか話そうにも、どこから話していいのか分からない。ただ時間だけが過ぎていった。
「カルロ」
フィンネが沈黙を破り、ポツリと呟く。
「この子は間違いなく、カルロの子だよ」
「……え?」
何を言い出すかと思えば……
僕がそんなこと心配していたと思ったのだろうか。
「そんなの疑ってるわけ無いだろ」
「そっか……そうだよね」
なんだか調子が狂う。
「そうじゃなくて、なんで今になって赤ちゃんに気づくんだろうとか、そもそもいつ出来た子なんだろうとか、これからどうすればいいんだろうとか、それから……」
「ちょっと、少し落ち着いてよ」
そう言ってフィンネは、ゆっくりと自分の下腹部を撫でた。
「この子はね、きっとこの日々が始まるより前に、もうできてたんだよ」
それは……確かにそうかもしれない。
この日々を思い返してみたらわかる。
他にタイミングもなかった。
だとしてもまだ、疑問は残る。
「じゃあ、なんで今になって症状が出るんだ?」
仮にずっとお腹の中にいたとして。
この繰り返しが始まったころには、フィンネの体調に変化はなかった。
それか、フィンネは最初から気づいていたのだろうか。
疑問をそのままぶつけてみる。
「ううん……最近、少し熱っぽい感じはあったけど、こんなにひどいのは、この朝がはじめて」
「じゃあ、一体……」
お腹を撫でながらフィンネは続ける。
「この子は育ってたんだよ。私のお腹の中で」
「……え?」
育っているだって?
ありえない。
僕たちの肉体は時を戻っている。
フィンネのお腹の中にいる子も、それは同じはずだ。
ぽかんとする僕に、フィンネは諭すように言う。
「私もおかしいと思うよ。でも、そんな気がする。この子はね……私の願いだから」
願い……確かに、フィンネはそう言っていた。
彼女が流星群にかけた願い、それは一体……?
フィンネは続ける。
「私ね、小さいころにお母さんとお父さんが亡くなって、家族はおばあちゃんだけになった。知ってるよね?」
僕はうなずく。
「そのおばあちゃんも死んじゃって、私には家族がいなくなった。だからね、カルロと結婚できて、私はとても嬉しかったんだよ」
「それは……僕もだ」
彼女の手を握る。
その手の平はいつもより、体温が高い気がした。
「それでね、もうひとつ……わがままかもしれないけど、私は願ったの。夢だった温かい家族……お母さんとお父さんと、それと子供がいて、笑って食卓を囲んでる」
フィンネが僕を見つめる。
その目を見て、僕ははっきりと理解した。
いま、彼女の目の中には……希望が宿っている。
「私の願いはね、カルロ。『赤ちゃんを産みたい』だったんだ」
あの流星群の夜、叶ったのは僕の願いだけじゃない
いや、むしろ、フィンネのものかもしれない。
フィンネの願いが、本来生まれることのなかった僕たちの子を、この繰り返しの中で守り、育てている。
彼女の目から、大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
「カルロ……私、生きたいよ。産みたいの。この子のために、私もう、死にたくない……」
そう言って、フィンネは声を上げて泣いた。
初めてだった。
彼女がこんな弱音を吐いたのは。
子供のように泣きじゃくる彼女を、僕はただ見守ることしかできなかった。
今まで僕たちが繰り返した日々の中。
そこで見た笑顔も、聞いた言葉も。
全部がかりそめだったんだ。
それは、フィンネの心の底からの気持ちではなかった。
そして今、彼女は僕の前で本当の気持ちを打ち明けた。
僕はそれに気づけていなかった。
それが不甲斐なくて……ただ、ショックだった。




