07 学校存続の危機!
アンドリュー達が淑女達を怖がらせないようについたウソは翌朝早々にバレることになった。
どこからどう見ても芝居ではないだろうな…と思われる軍や警察が花嫁学校に出動して来て侵入者達を物々しく引き立てて行ったのだ。流石の世間知らずの3人娘もあの役者と思っていた者たちは本当の強盗団だったことに気づいた。軍人であるアンドリューたちは警察と共に強盗団護送の任につき、学校を去っていった。
あれから授業は1週間中止のままだ。
「本物のどろぼうだったって最初から本当のことを教えてくれても大丈夫だったのに」
「グレース、でも私たちが怖がると思ってついてくださった優しい嘘よ」
「ええ。そうよね」
「それにしてもみなさん! 校長先生は大丈夫でしょうか?!」
エヴァンス校長はあの夜以来自分の部屋へ引きこもりがちだ。エヴァンス付きのメイドによると
「預かったお嬢様方を危険な目に会わせた。もうここを閉鎖させたい」
と涙を流しているという。
だが直接グレースたちを救ったのはアンドリューたちとは言え、強盗たちの侵入を彼らに伝えたのはエヴァンスだった。あの夜、生徒たちの婚約者を敷地内に宿泊させるにあたって何か過ちがあっては困ると、校長は本館前で仁王立ちになり寝ずの番をしていた。そこに強盗団がやってきたのだ。エヴァンスはまず強盗団の斥候が2名来たところを警杖で殴り倒し、その後韋駄天のごとくアンドリューたちの宿泊棟に走り危機を知らせた。
「強盗団です!!!!あの子たちに何かあったら結婚は許しません!!!!婚約破棄です!!!!助けに行きなさいぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!!」
それにより押っ取り刀で駆け付けたアンドリュー達は間に合ったのだ。
「校長先生が私たちを助けてくださったと言って過言ではありません!!」
「そう思うわ!知らせてくださったことはもちろん、学校のお勉強もよ! わけのわからない授業ばかりだと思っていたけど、今回のことで校長先生の授業の必要性を感じたわ。私たちがあの時ただ怖がっていたら、アンドリュー様たちがいらっしゃる前に大変なことになっていたかもしれないわ!」
「そうなのです! わたしもそう思いました!」
「なんとか先生に元気になっていただきたいわね」
3人娘の秘密会議は深夜まで続いた。
エヴァンス校長は翌日の朝食時、8日ぶりに食堂へ降りてきてその姿を生徒たちに見せた。頬は痩け、生気がない。
「皆さん……私は校長を辞めることにします。アマリリスは存続できません……。とりあえず皆さんには退学届を出していただきます」
「先生残念です……。でも私達この1ヶ月と8日間のことはとても勉強になったと思っていますの。本当に様々なことを学ばせていただきました。私が学んだ中で特に心に残っているのは興奮した親子の野生の妖獣と森でばったり出会ったら、子妖獣を抱っこして親妖獣に友好をアピールするということでした」
「グレース、死へまっしぐらです」
「先生、私が心に残っているのは、アウトドア料理です。スワコカナオ茸のリゾット…結婚したら旦那様にたくさん食べてただきます」
「セーラ、そのキノコは下剤です」
「先生! 私が心に残っているのは古の魔法書の授業です! 17章27節を実践し、ずっと夫婦仲良く共白髪になるまで添い遂げる所存!」
「ジェーン、白髪は無理です。27節はハゲ魔法」
エヴァンスはふーっと深いため息をついた。
「皆さんのお気持ち、このエヴァンス胸に染み入りました。わざと何もできないふりをして私にこの娘たちを放っておけない、やはりアマリリスでこの子たちを教育しなければ……という気持ちにさせようとしているのですね。ふふ……よく芝居や小説であるパターンです。でもね。もう決めたのです。アマリリスはこのままではだめだ……、私はアマリリスで校長は続けられないと」
「校長先生……」
「私はこの一週間王都へ出向いていたのです。家庭庁と大蔵省にです」
「先生…お部屋で泣いていらっしゃるとばかり……。家庭庁ではなにか責められましたか? 私達、先生のお陰であの危機的場面を乗り越えられたと思っています。チェスター卿たちがいらっしゃるまでの防御は先生から学んだことを実践したのですよ! なんでしたら私たちも家庭庁に出向きます。弁護させてください!」
「……? 家庭庁が私を責める……? 何を言っているのです。私が家庭庁と大蔵省を責めにいったのですよ?」
「先生がですか?」
「私がです」
「が?」
「が」
「先生が家庭庁と大蔵省を責めに行った?」
「くどい! グレース!」
校長のよく通る声が食堂に響いた。
「ええ。行きました。そもそもここを開校するに当たって予算を出し渋ったのですよ! 大蔵省は! 娘たちを大勢預かるんだからセキュリティは万全にするように、小隊一個ぐらい軍から兵を持ってこさせようとしたのに! その予算はないと! 学校の周りをぐるりと兵が囲んでいたら侵入者などありえませんでした。それに家庭庁! あそこも戸締りがどうしただの、令嬢は歯向かわず大人しくさせていた方が危険はなかったのではないかとか、そもそも体力重視の花嫁学校は必要なかったなぞ、生ぬるいことばかり! 泥棒は軍レベルの守りがない限り、どんな頑丈な戸締りでもその気になれば入って来られるのです! ではどうしたらよいか。住人の防御スキルをあげるしかないではありませんか! 72時間にわたる私の説明に最後は大蔵大臣も家庭庁長官も感じ入って泣きながら共感してましたがね。大変でしたよ」
「大変でしたね……。(大臣と長官が)」
「でもね……もう私もアマリリスを続けていく情熱がなくなりました。ここの校長は続けられない」
「「「校長先生…!」」」
「だってそうでしょう? 泥棒が入った学校なんて来年度からの生徒が集まるかどうか!」
「あ、はあ…そっちですね……」
「アマリリス花嫁学校は今日で閉校します! そして! 明日からはネオアマリリス花嫁学校として生まれ変わるのです!!!!」
大臣と長官を屈服させた話のあたりからそんな予感はしていたのでグレースたちは冷静にその宣言を受け止めることができた。
誤字報告ありがとうございました。