表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/53

52.仇敵との激闘

 アマレロ山に近づくと瘴気に汚染された腐敗腐を強く感じた。

 木々や植物が黒ずんで穢されていた。


 それに不穏な気配が色濃く漂っている。

 察知能力がさほど高くない俺でも背中がゾクッとした。


「アニキ、これはおそらくいるね」


「これは気合を入れてかからねばならんかのぅ」


 瘴気に侵されて狂暴化した獣や虫が次々と襲いかかってきた。

 血走った赤い目をして、牙をむき出しにしている。

 口からはダラダラと泡立ったヨダレを垂らしていた。


「早くレオ君を見つけないと危ないね」


 ロココが槍を振るって、魔物となった獣の群れを退けていく。

 さすがにうちのパーティの切り込み隊長だけあって、嵐のような勢いで敵を切り裂いていた。

 柘榴と修行をしているお陰で、槍の威力が増しているようだ。


「おーい、レオ君!」


「どれ、ワシが歌で呼んでみよう」


 効果が判明しているアニソンの一つを柘榴が歌い始めた。

 このアニソンを聞いた生き物は、歌手の姿を見たくてたまらなくなるのだ。

 歌さえ聞いてしまえば、フラフラと足が自然に歌手の方に向いてしまう。


「むやみに探すよりはましかもしれないけどさ」


 ただ狂暴化した獣を集めることにもなるので、戦闘が激しいものになった。

 歌っている柘榴を守りながら俺たちは戦った。


「うわあぁああ!」


 戦っているうちに子供の悲鳴が近づいてきた。

 その悲鳴を聞いた柘榴が歌を中断した。


「おそらくレオ君だな。急ごう」


 山を駆け上ると黒い山羊に追いかけられるレオ君がいた。

 黒い山羊は獲物をいたぶって遊んでいるようだ。

 赤く濁った瞳には邪悪な知性が感じられた。


「火爆符!」


「グァウウ!」


 柘榴が山羊の鼻先で爆発を起こす。

 山羊が怯んだ隙にロココが素早くレオ君を助け出した。


「あ、ありがとう」


「私たちの後ろに隠れていてね」


「濃厚な瘴気の臭いがするのう。どうやら混沌の眷属のようじゃな」


 柘榴が吐き気を催したような顔をしていた。

 俺も一段と濃くなった腐敗臭に顔をしかめた。


 混沌の眷属には独特の重圧がある。

 空気がどんよりと濁っていた。

 存在するだけで悪意を撒き散らして、生き物を穢すのだ。


「グォオオオォ!」


「でも、小物が一匹とはね。気配からもっと大物がいると思ったよ」


「フラグを立てるな。ラピィがそんなことを言うから他にも出てきただろ」


「えっ、オイラのせい!?」


 黒い山羊が耳障りな声で吠えると、真っ赤なたてがみを持った獅子が顔を出す。

 他にも毒液を垂らす大蛇やコウモリに似た翼を生やしたドラゴンまで現れた。

 どの魔物も濃い瘴気を放っていた。


「これで4対4というわけだ」


「お兄ちゃん、魔物の姿に見覚えがある気がするんだけど……」


 戦いでは恐怖とは無縁のはずのロココが怯えを滲ませていた。


「俺もロココと同じで何か記憶に引っかかっている感じがするな」


 瘴気の圧力から考えて白い廻しで十分なはずだが、得体の知れない不気味さを感じた。


「ラピィ、頼んだ」


「ホーリーライト!」


 俺の意図を読んでラピィが神聖術を唱えた。

 この辺は長く旅を共にした仲間ならではの阿吽の呼吸だ。

 神聖なる光に照らされて魔物たちの目が眩んだ。


「ダブル風神掌!」


 一瞬怯んだところに山羊とドラゴンに突風を放った。

 まともに突風を喰らった魔物は、体に絡みつく竜巻によって身動きがままならない。


 それでも大蛇と獅子は襲いかかってきた。

 ロココが突進して赤い獅子と対峙する。

 後ろでラピィがメイスを構えてロココを助けていた。


「雷鳴符!」


 大蛇には柘榴が雷の嵐を浴びせた。

 ウロコが砕けて肉が焼ける。腐った臭いが強く漂った。


「今だ。おりゃああぁぁ!」


 俺は感電して動きが鈍くなった大蛇の尾を掴むと、鞭のように振り回した。

 山羊やドラゴンを狙ってひたすら力任せに叩き続ける。

 周りに生えていた樹や岩まで粉々に砕けた。


 その衝撃に耐えられなくなったのか、大蛇は腐った泥の塊となって崩れ落ちた。

 やけにもろい。

 混沌の眷属にしては弱いと思った。


「まだまだぁ! 仁王乱舞!」


 間髪を入れずに怒涛の張り手をドラゴンに向かって繰り出した。

 ドラゴンはコウモリの翼を羽ばたかせて避けようとしたが、竜巻によって行動が阻害されていた。


「ギェエエェ!」


 張り手が当たるたびにドラゴンの体が削られていく。

 強靭なウロコが剥げて黒い血が噴き出した。


 肉が抉られて、骨が粉々に砕けた。

 最後にはドラゴンは泥の水たまりとなって溶け落ちた。


「ホーリーブレス!」


 ラピィがロココに身体強化の神聖術をかけた。

 これで父親の力を借りなくてもロココの筋力は倍増する。


 赤い獅子が凶悪な爪を生やした前脚を振るってきても、力負けすることなく槍で弾いていた。

 そのまま巧みに槍を操って、獅子の体に痛打を与えている。

 危なげない戦い方だ。


「柘榴、俺と合わせてくれ」


「うむ、あれじゃな」


「雷神掌!」


「轟雷符!」


 黒山羊に向かって同時に雷の技と術を放った。

 技と術が混じり合って威力が拡大する。


 柘榴と寸分たがわぬ息の合った攻撃に何となく照れ臭くなった。

 見た目が女性だと変に意識してしまうのだ。


 容赦ない雷の奔流を浴びて、焼け焦げた黒山羊が崩れ落ちた。

 残るは赤い獅子だけだ。


「グルゥオオオオオ!」


 このままトドメを刺そうと身構えたところで、赤い獅子がけたたましく吠えた。

 大蛇、竜、山羊の泥水が獅子の足元に移動していた。

 赤い獅子は泥水を吸収してどんどん体が膨れ上がっていく。


「……混沌の魔獣キマイラ


 ロココが呆然と呟いた。


 獅子の肩にはドラゴンと山羊の頭が生え始めていた。

 背にはコウモリに似た翼があり、尻尾は毒蛇と化している。

 一気に瘴気による腐臭が強くなった。


 ロココと二人で戦ってどうにか退けることができた相手だ。

 その時の傷を癒すためにアマレロ山に隠れて力を蓄えていたのだろう。

 混沌の魔獣キマイラの姿を見て、俺の感情は一気に爆発した。


「こいつはロココの父を、アニキを殺った奴だぁ! 金剛おおおぉぉぉ!」


 激情に任せて俺は手を思いっきり掲げて金剛布を呼んだ。

 俺の気持ちを反映してか、黒雲が大きく切り裂かれた。

 太陽が顔を出して、光の柱のように日光が降り注いだ。


「どうして戦っている最中に脱ぐんだよ。変態なのか!?」


 白い廻しを脱ぎ出した俺を見て、レオ君はわけがわからないという顔をしていた。

 そりゃ戦闘中に裸になったらおかしいとは思うだろう。

 でも、全力を発揮するには仕方ないことなんだ。


「グオオオオォオォ!」


 俺が白い廻しを脱ぎ捨てるのと魔獣が合体を終えるのは同時だった。

 日光で光り輝く怪しいデブに目をつけて魔獣が三つの首からブレスを放つ。

 さっきの仕返しとばかりに炎と雷と毒を混ぜ合わせていた。


「青竜・白虎・朱雀・玄武・麒麟。はぁあああ、五霊破邪結界!」


 柘榴がとっさに呪符を投げて結界を張った。

 だが、三つのブレスは重なり合うことで威力を高めていた。

 結界が破られてブレスが俺に迫る。


「お兄ちゃん、危ない」


 素っ裸で金剛力が発揮されない俺をロココが庇おうとする。

 本当に男前な少女だ。

 ロココを巻きこんでブレスが激突する瞬間、光の柱によってブレスは消し飛んだ。


「わかっていたけど冷や冷やするよ」


 ラピィが額の汗を拭った。

 金剛布を呼び出している最中は完全に無防備になるわけではない。

 肉弾戦でなければどんな攻撃でも光の柱が守ってくれるのだ。


 必殺のブレスを防がれて、混沌の魔獣はたじろいでいた。

 その間に金剛布が俺に股間に巻かれていく。

 顔に勇者を表す金色の紋章が隈取のように浮かび上がった。


「え、変態が勇者様!?」


 ひどい言われようだ。

 あとでレオ君はモフモフの刑にしよう。絶対だ。


 肉体的には無敵になったに等しいのに、レオ君の率直な感想にガラスのハートが傷つく。

 子供というのは素直で残酷だ。


「どりゃああぁぁぁ!」


 心の涙を流しながら俺は混沌の魔獣にぶちかましを喰らわせた。

 枯れ木を折りながら魔獣が何度も地面を転がる。


「グオオォオオ!」


「はあっ!」


 起き上がった魔獣がブレスを吐いたが、張り手一発で消し飛ばした。

 魔獣にトドメを刺そうと構えた瞬間、地中から毒蛇が飛び出して体に巻きついてきた。


「こしゃくな。往生際が悪いぞ」


 どうやら毒蛇を切り離して地中に潜らせたらしい。

 何重にも蛇の太い胴体が絡みつく。

 俺の身動きが取れなくなったと見て、魔獣は突っ込んできた。


「こんなもので俺の動きを封じたつもりかぁ!」


 金剛力を高ぶらせて蛇の体を力任せに引き裂いた。

 それでもドラゴンの頭が俺を食い殺そうと鋭い牙の生えた口を開く。


「父様の仇!」


 そのドラゴンの頭がいきなり破裂した。

 ロココが神聖術で聖なる力を与えられた槍を投げたのだ。

 白く輝いた槍はコウモリの翼まで引き裂いていた。

 不利を悟って逃げようとする魔獣だが、そこには柘榴が待ち構えていた。


「逃がさぬよ。秘術・陽炎!」


 柘榴が呪符を投げると、炎が周りに浮かんだ。

 炎は柘榴の姿をかたどって分身と化した。


 分身にはそれぞれ意思があるように、思い思いに山羊の頭を攻撃している。

 優雅に踊るように飛び蹴りや回し蹴り、かかと落としなど多彩な足技を見せていた。

 目を奪われるような華麗な動きだが、蹴りが当たるたびに骨の砕ける音がした。


「龍閃昇!」


 最後に柘榴は潰れかけた山羊の頭を棒で刎ね飛ばした。

 可憐な乙女のように見えて恐ろしい威力だった。

 これで残るのは獅子の頭だけだ。


「ギィギャアアァァァ!」


 獅子が耳障りな声で吠えると、瘴気に侵された獣が集まってきた。

 その獣たちを吸収して混沌の魔獣は再生しようとする。


「どすこい!」


 俺は思いっきり足を持ち上げると、勢いよく四股踏みを行った。

 山を穢していた瘴気が一気に消し飛ぶ。

 正気を取り戻した動物たちは一斉に逃げ出した。


「燃え上がれ、俺の魂よ。今こそ、アニキの仇を討つ時!」


 全身全霊の力を右手に集中させる。

 真っ白な炎が右手から燃え盛った。


「ひいいっさつ! バサラ天掌!」


 赤獅子の頭に白銀に輝く張り手を喰らわせた。

 獅子の頭に刻まれた巨大な掌は、魔獣を押し潰しながら浄化して光の粒子に変えていく。


 険しい顔で魔獣の残骸を睨みつけていたロココがヘナヘナと崩れ落ちた。

 体を震わせながら嗚咽を漏らしている。


 俺はロココが泣き止むまでずっと頭を撫でていた。

 混沌の魔獣が消え去ったあとには、蛍が舞うような幻想的な光景が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ