表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/53

51.教会での出来事

 眠い目を擦りながら宿屋を出た。

 白い廻しによる金剛力の効果で体力は回復しているが、心の疲れはどうにもならない。

 一晩で極楽と地獄を同時に味わった感じだ。


 あくびを噛み殺しながら慈愛の教会を訪れると、見習い神官のフロワが出てきた。

 目の下が黒ずんで、疲れが滲み出た顔をしていた。


「あ、皆さん、先日はお世話になりました」


 俺とロココに気づくと深く頭を下げる。

 礼儀正しい子だ。


「あんなにお塩を頂いてもよろしかったのですか?」


「もちろんだ。遠慮なく使ってくれていい」


「ありがとうございます」


「それより疲れているみたいだな。これでも舐めて元気を出せよ」


「うわぁ、綺麗ですね。まるで宝石みたい。これって食べ物なのですか」


 元気の飴を渡すと、琥珀色の輝きに見入っていた。

 フロワがためらいながら飴を口に入れると、その瞬間に笑顔になる。


「甘い! すっごく甘いです!」


 元気の飴の効果は抜群だ。

 一気に疲れが吹き飛んだようだ。


 やはり中学生くらいの子供が暗い顔をしているのは似合わない。

 コロコロと口の中で飴を転がして、幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「お陰様ですっかり体が楽になりました。それで今日はどういったご用件でこちらに訪れたのですか?」


 飴を舐め終わる頃にはフロワの顔に生気が蘇っていた。

 声にも活力が戻っている。


「私が編んだ手袋や帽子を孤児院の子供たちにあげたいと思って」


「本当にいつもありがとうございます」


 ロココが手袋や帽子を見せると、フロワがまた深く頭を下げた。


「それにワシたちが行う演奏を聞いて欲しくてのぅ。楽しめる音楽を用意したのじゃ」


「は、はい」


 柘榴シーリオに話しかけられたフロワは驚いたように目を何度も瞬きさせていた。


「あの、あまりにも声が綺麗なので驚きました。それにお姿も素敵です」


「正面から褒められるのは照れるのぅ」


 中身が爺さんだとは知らないので、フロワは憧れるような眼差しを柘榴に向けていた。

 頬を赤く染めて、恋する乙女のような表情だった。




 孤児院の子供たちは冬でも外で元気に遊んでいたが、麻の服一枚ではさすがに寒そうだった。

 風が吹くたびに手を擦り合わせて暖かい息を吹きかけている。


「みんな、いいものがあるよ」


「あっ、ロココお姉ちゃんだ」


 ロココが声をかけると、子供たちが集まってきた。

 前に訪れた時にリコーダーを吹いたので、子供たちは覚えていたのだろう。


「なになに、お菓子?」


「もっといいものだよ」


 ロココが手袋や帽子を見せると、子供たちから歓声が上がった。


「お姉ちゃん、ありがとう」

「手袋のワンちゃん、とっても可愛い」

「うわぁ、あったかい」


 防寒着を子供たちに配ると、ロココはおしくらまんじゅうのように子供たちに囲まれていた。

 子供たちの手や耳はあかぎれで腫れていたので、毎日の寒さに耐えていたのだろう。


「どういたしまして」


 人気者になったロココは照れ笑いをして、尻尾を楽しそうにユラユラと振っていた。

 かなり嬉しそうだ。

 本当に子供が好きなんだなと思う。


「フロワお姉ちゃんにもどうぞ」


「わ、わたしにもですか。とっても嬉しいです」


 白い手袋をプレゼントされて、フロワはギュッとロココを抱き締めた。

 フロワの手は子供たちよりもあかぎれが酷かった。

 補佐のシスターがいるとはいえ、教会のお勤めで苦労しているのだろう。


「あとはレオ君にあげれば終わりかな。でも、いないよね?」


「おかしいですね」


 活発で目立つ子なのに見当たらないのはおかしい。

 子供たちが呼びかけたが、レオ君は出てこなかった。


「誰か心当たりはない?」


「シスターの為に薬草を取りに行きたいって言ってた」

「うん、アマレロ山で見つけてやるって」


「なんですって!?」


 フロワが動揺して慌てた声を出す。

 そういえば年老いたシスターの姿も見えない。


 騎士たちが派遣されるほど今のアマレロ山は危険だったはずだ。

 冒険者ですら何組も行方不明になっている。

 

「シスターが病気なのか?」


「ええ、ずっと咳が止まらなくて。寝込んだままなのです」


 教会を訪れた時にフロワが疲れた顔をしていたわけだ。

 たった一人で教会を守っていたなら大変だっただろう。


 高位の神官なら病気を癒す神聖術も使えるが、田舎町にはなかなか巡回してくれないらしい。


「オイラは神官なのでシスターを診るよ」


「本当に助かります」


 ラピィの申し出にフロワはほっとした表情を浮かべた。

 見習い神官ということで病気を治せずにもどかしい思いをしていたのだろう。


「シスターを診たら急いでレオ君を追おう」


 面倒くさがりな俺ではあるが、知っている子供を見捨てる気にはならない。

 それにレオ君の尻尾にはロココとはまた違った魅力がある。

 助けたら思う存分モフるとしよう。




「こほっ、こほっ」


 寝室を訪れると、シスターはずっと乾いた咳を繰り返していた。

 咳で体力を奪われて、すっかり痩せ細っていた。


「ちょっと胸を見るね」


 診察とはいえ、女性の胸を男が見てもいいのだろうか。

 ただラピィは女装をしているので、シスターには抵抗はない様子だった。


「これは黒禍病だろうね」


 瘴気の風が吹くことで、抵抗力が弱くなった人間がかかる病だ。

 肺が瘴気に侵されて胸が黒く見えることからその名がつけられた。

 放置しておくと死ぬこともある。


「リフレッシュ!」


「はぁはぁ、息が楽になりました」


 ラピィが神聖術を唱えると、症状は軽くなったようだ。

 シスターの顔色がさっきよりもましになっている。


 ただリフレッシュは患者の生命力を底上げして病気に対抗する術なので、瘴気そのものを消すわけではない。

 完治にはまだ時間がかかるだろう。

 それでもこれで命の危険はなくなったはずだ。


 あとはアマレロ山でレオ君を助けに行くだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ