50.宿屋で我慢
宿屋を訪れると一階にある食堂には思ったよりも人が多かった。
田舎町でこんなに繁盛しているのは珍しい。
何事かと思って客の顔ぶれを見ると、武装している人間が多い。
冒険者にしては装備の質が高くて統一されている。
おそらく王国の騎士や兵士だろう。
「嫌な連中がいるな。こんな田舎町に何の用だろう」
騎士には苦手意識がある。
召喚されたばかりの頃、騎士隊長から拷問かと思うような特訓を受けさせられたからだ。
結局のところ特訓は体を痛めるだけで大して役には立たなかった。
根性論で何とかなるなら、勇者なんて必要ない。
「やけに宿泊客が多いようだが、どうかしたのか?」
宿屋の女将に話を聞いてみると、騎士たちはニアの町の近くにあるアマレロ山の調査に来たという話だった。
このところアマレロ山では行方不明者が相次いでいるという。
そういえば以前ジャガイモを売りに来た時に、アマレロ山で異変が起きていると聞いた覚えがあった。
もう解決したかと思ったが、ますます状況は悪化しているようだ。
「それで申し訳ありませんが、個室が一つしか空いてないのですよ」
宿屋の女将が頭を下げて謝罪をする。
せめて二部屋は欲しかった。
それなら男組と女組で分かれることもできただろう。
ロココならともかく柘榴まで一緒の部屋で寝るのは変に緊張してしまいそうだ。
「どうする? 俺一人だけどこか他のところで泊っても構わないけどさ」
「おそらく他の宿屋を探しても似たような状況じゃろう」
「全員で泊ろうよ」
ぐいぐいとロココに手を引っ張られてしまった。
多少のためらいはあったが、四人で宿屋に泊まることになった。
「それじゃ部屋に行く前に食事を取っていくか」
食堂では騎士の目があるので落ち着かないが、空腹なので仕方ない。
デブにはカロリーが必要なのだ。
夕食を頼むと黒パンとスープが出てきた。
味が薄いスープにはジャガイモが入っている。
どうやらジャガイモはかなり広まっているようだ。
「肉の入った料理を追加で注文したいんだが」
「申し訳ありませんが、今日はもう品切れなのですよ」
ロココが目に見えてがっかりしていたので肉料理を頼もうとしたが、騎士たちに食べられてしまったらしい。
銀色の尻尾が力なく垂れていた。
酸っぱくて硬いパンを食べると苦笑してしまう。
スープもあまり塩が効いてなくて物足りない味だ。
パンと軽く手を叩いて、仲間たちには塩を配った。
「舌が贅沢に慣れちゃうとこういう時に困るよね」
塩を受け取ったラピィも苦笑していた。
「次からはラピィの作った食事を柘榴に持ち運んでもらおう。冷めていてもその方がましだ」
「そうした方がよさそうじゃなぁ」
微妙な顔をしながら、夕食を済ませた。
「みんなで泊ると旅を思い出すね」
四人で個室に泊まるとなるとかなり狭いが、ロココは楽しそうだった。
野郎しかいないパーティだったので、大部屋を四人で泊ることが多かった。
万が一の安全面を考えると、それが一番だったとは思う。
日が落ちかけて部屋はかなり暗い。
暗闇だとロココの瞳が青い炎のように光っていた。
アパートにいると夜の暗さとは無縁だったなと思う。
キャンドルランプの代わりに柘榴が道術で明かりを灯した。
ロウソクよりも明るい光だ。
「明日は孤児院を訪れるなら、体を拭いておこうかのう」
「私は水をもらってくるね」
女将に金を払えば、桶に入った水と手拭いを貸してもらえる。
身だしなみを整えるのは大事とは思うが、落ち着かない気分になってしまった。
「俺は席を外そうか」
「いまさらじゃのぅ。お主が見る分には一向にかまわぬよ」
「そう言われてもなぁ。いや、見てしまうけど」
美人は三日で飽きるというがとんでもない。
誰だそんな贅沢な言葉を考えたやつは。
三十日ほど経ったが、柘榴の魅力は色あせない。
俺はまだ柘榴が半裸になっただけでドキドキしてしまう。
まずは柘榴がロココの体を拭いていた。
その様子は母親が娘の世話を焼くような感じだ。
そういえばロココは柘榴と一緒に風呂に入ることも増えた。
柘榴が女になってからやけに仲良くなったように思う。
それから俺に背を向けて柘榴の体をロココが拭いていた。
大事なところは見えそうで見えない。
それがストリップショーみたいな感じでやけに男心をくすぐった。
残り水で俺も体を拭いたが、女性が使ったあとだと思うと興奮する。
赤褌を脱いだら大変なことになっていた。
最後にラピィが体を拭いていたが、やけに俺の視線を気にしていた。
いや、頼まれたって見ないから。
思春期の女の子みたいに恥ずかしがらないで欲しいものだ。
変な気分になる。
「俺とラピィは床。柘榴とロココはベッドを使えよ」
狭いベッドでは二人が限界だ。
俺はデブでも紳士だ。
子供や女性には優しいつもりだ。
「それは気が引けるのぅ。試しに全員で寝てみようではないか」
「お兄ちゃんも一緒がいい」
「いくら何でも暑苦しくないか」
横幅が太いデブがいたらベッドで寝る場所がなくなってしまう。
俺はそう思ったのだが、三人がかりで運ばれては抗いようがない。
「おいおい、ラピィまで一緒に寝るつもりなのかよ」
「オイラだけ床ってのはひどくない」
両手に花かと思ったが、ラピィの存在で台なしだ。
ロココは俺の太鼓腹に乗ってきた。
右から柘榴、左からラピィが密着してくる。
ラピィが床に近かったら問答無用で落としているところだ。
「ぐへぇ。それじゃオイラの場所が少なすぎるよ」
壁にラピィを押しつけると、やけに体がポニュポニュとして柔らかい。
食事を担当しているとはいえ、脂肪の溜めすぎではないかと思う。
女の柔肌みたいで戸惑ってしまう。
これではうかつにくっつくわけにもいかない。
「では、明かりを消すとしよう」
真っ暗闇になると、感覚が研ぎ澄まされたような気がした。
鼻に女の生々しい匂いが押し寄せてくる。
ラピィの男の臭いが邪魔をするかと思ったが、女の芳しい匂いしかしない。
アパートにあった香水でも使って体臭を誤魔化しているのだろうか。
三人もいれば匂いが喧嘩をするかと思ったが、混じり合うことで濃厚で官能的な匂いに変化していた。
息が詰まりそうなほどだ。
それに体のあちこちから女の艶かしい体の感触が伝わってくる。
これで股間が元気になるなという方が無理だ。
少しでも動くと刺激が強くなるので、石像のようにカチカチに固まっていた。
生殺しもいいところである。
子供のロココが上に乗っていなかったら、活火山が爆発しているところだ。
教育に悪いことをするわけにはいかない。
ひたすら煩悩と戦いながら、眠れない夜を過ごす羽目になった。




