49.格好をつけたが
まだまだ食糧不足は深刻らしい。
昼前にはジャガイモは完売してしまった。
そこで町を適当にぶらついてから宿屋に行くことにした。
教会に行くのは明日だ。
俺の手をロココが握っている。
それはいつものことだが、逆側の手は柘榴が握っていた。
「どうして柘榴まで手を繋いでいるんだ?」
「ロココがお主と手を繋いだので真似したくなったのじゃよ」
鋭い爪が生えて石でも握り潰せた手だったのに、今は俺よりも小さくて華奢だった。
滑らかな感触が男の手を包みこんで、そこだけ血が熱くなっていくようだ。
町に住む男たちの目から嫉妬を感じる。
まさか日本では全くモテたことがない俺が、野郎どもの羨望の眼差しを集めることになるとは思わなかった。
美女の中身は爺さんではあるが。
「こうして手を繋いで三人で歩いていると家族みたいだな」
「私にとっての家族はお兄ちゃんだよ」
何の気なしに思ったことを言うと、身寄りがないロココが俺の手を強く握った。
「それではロココはワシとお主の娘といったところか」
冗談めかして柘榴が笑った。
それでは俺は柘榴と夫婦ということになってしまう。
いや、そんな関係はまだ早すぎる。
大人の関係を妄想することはあるが、爺さんの声のうちは無理だ。
それでも変に意識してしまって、頬が熱くなった。
何となく気恥ずかしくなって、ロココの手に意識を集中した。
なるべく柘榴の手のことは意識の外に置こうとする。
ロココの手も柔らかいが、女を感じさせるにはまだ若くて肉が薄い。
「えーっ、お姉ちゃんはお姉ちゃんのままがいいなぁ」
娘扱いされたロココはプクゥと頬を膨らませた。
「うぅ、オイラだけ仲間外れ」
後ろを歩いているラピィがしょんぼりと手を見ていた。
見た目は可愛くなっても、俺には野郎と手を繋ぐ趣味はない。
「ワシの手を軽く握るだけとはつれないではないか」
「女性とあまり手を繋いだことがないから、慣れてないんだよ」
しばらく町を散策していると、わざと力を抜いているのがばれた。
柘榴はからかうような表情で手をギュッと握ってくる。
それだけで手の血液が沸騰するかと思った。
母親を除いて高校生以上の女性とは手を繋いだことのない俺にとっては刺激が強い。
筋金入りの童貞なのだ。
「あれ、いつの間にこんなところを歩いていたんだ」
手のことばかり気になって、周りに対する注意力が疎かになっていた。
ボロボロになった建物が多い裏通りを歩いていた。
物乞いや病人が地べたに座っている。
住人の質も落ちるので、ガラの悪い連中が歩いていた。
子供には立ち寄らせたくない場所だ。
もちろん全く身の危険を感じてないロココは平気な顔をしていた。
ただガラの悪い連中にはちょんまげをしている奴もいて、明らかにロココの機嫌が悪くなった。
柘榴やラピィも何とも言えない顔をしている。
「勇者の影響力というのは凄いものじゃなぁ」
「アニキを真似する人間って意外と多いよね」
呆れと感心が混じったようなため息を吐かれた。
いや、頼むから俺の後頭部をまじまじと見ないでくれ。
無精で髪を縛っているだけだから恥ずかしくなる。
「おいおい、そこのデブのおっさんよぉ。ブサイクの癖にべっぴんさんを連れているじゃないか。俺らに金と女を貸してくれよ」
さっさと裏通りから去ろうと思ったのに、ちょんまげをしていた奴に気を取られてタイミングを逃した。
カモだと思われて、ガラの悪い連中が絡んでくる。
見た目は高校生の不良といった感じだ。
「俺はまだおっさんじゃねぇ!」
デブやチビと言われるのはまだ許せるが、おっさんと呼ばれるのは腹が立つ。
ぎりぎりで二十代だ。
それに異世界に来てから顔が老けたという気はしない。
むしろ金剛布の効果なのか、体は若返っているようだった。
日本にいた頃は不摂生な生活で肉がたるんでいたが、今は太っていても高校生だった頃のように肌に張りがあった。
元々がブサメンなので見た目の若さは関係ないだろうが、気にしたら負けだ。
「お兄ちゃんは格好良くて強いんだから」
「ギャハハ、お嬢ちゃんの目は飾りなのか」
ロココが文句を言ったが、ガラの悪い連中は下品な声で笑うばかりだ。
どうしようかと思っていると、柘榴が俺の後ろに隠れて胸を押し当ててくる。
ポニュポニュという感触は嬉しいが、それじゃまるでか弱い女みたいじゃないか。
「それは何の真似だよ」
「ワシもたまには守られてみたいと思ってなぁ」
「それじゃオイラも」
「あ、私も」
いや何でみんな俺の背中に隠れるのさ。
爺さんが変なことをするから、お調子者のラピィだけでなくロココまで真似をする。
こんな連中一人だって余裕で倒せるだろう。
思わずラピィを投げ飛ばして生贄にしてやろうかと思った。
「おいおい、女に頼られたからっていい気になってんじゃねーぞ。デブ」
ガラの悪い連中は凄みながら脅してきた。
面倒だなと思いながらも、見た目は女性に頼られると俺も悪い気はしない。
旅の最中は俺が仲間に守られることが多かった。
それでこんなのは茶番だとわかりつつも、乗ってやろうという気になった。
「俺の女たちに手を出そうなんていい度胸だ。いいぜ、相手になってやる」
気取った台詞を言って、格好をつけてバサッとマントを放り投げた。
一度こういうのはやってみたかったのだ。
ブサメンでもヒーローになったみたいで楽しい。
裏通りであまり人がいないから構わないだろう。
白い廻しの効果で一気に筋肉が膨張した。
これで大関くらいの風格は出たはずだ。
さぁ、いっちょやろうぜと思ったが、ガラの悪い連中の姿がない。
と思ったら、一斉に正座をして土下座をしていた。
いやあんなに凄んどいて白旗をあげるのが早すぎじゃないか。
「おいおい、一人くらいはかかってこないのかよ」
振り上げた拳のもって行き場がない。
もうちょっと頑張れよと思う。
「とんでもありません」
「いや勇者様なら初めから仰ってくださいよ」
「そうそう勇者様ならモテて当然です」
手のひら返しもはなはだしい。
一気に気分が白けてしまった。
地面に落ちたマントを拾うと砂埃を払う。
「罰としてちょんまげは切っていくぞ」
「はい、喜んで。これからは心を入れ替えて働きます」
「あ、うん。頑張って」
憧れの眼差しを向けられても困る。
俺は可能な限りダラダラとして過ごしたいのだ。
すっきりとした髪になった連中に笑顔で見送られて、俺たちは裏通りを出た。
「拍子抜けの結果になったな」
「いやいや、気合を入れたお主の顔が見られただけで十分じゃよ」
柘榴は俺の腕に抱きつくと身を寄せてくる。
こんな行動、アニメやドラマから仕入れているんだろうか。
困った爺さんだなと思いつつも、丸い膨らみに腕を挟まれると鼻の下が伸びてしまう。
ホント俺ってやつは女に弱い。
「むーっ」
ロココが同じことをしようとして、肋骨が俺の腕に当たっていた。




