48.ニアの町への再訪
「時間がかかっちゃったけど、孤児院の子たちにあげる手袋や帽子を縫ったの。届けに行ってもいいかな」
夕飯時に全員が揃っている時に、ロココがおずおずとした声で尋ねてきた。
綿花から衣服を作ったのだから時間がかかるに決まっている。
年をまたいだのは仕方ないところだ。
ただ冬の寒さはこれからが本番だ。
それに暦の上では春になっても、黒雲の影響で寒い日は多い。
冬服を届けるのが遅いということはない。
「もちろんいいぞ。俺も一緒に行こう」
ピーチ村や孤児院の子供たちと遊んでから、俺も少しは考えを改めた。
子供にまで召喚された苛立ちを向けるのはあまりにも心が狭い。
もちろん獣人の子たちがモフモフで可愛かったことはあるが、それも全てはロココの正体が幼い女の子だった影響が大きい。
「それなら教会で演奏会もしてみるのはどうじゃ。ワシは子供たちの笑顔を見たいのじゃよ」
あれから何度も歌詞を手直しして、影響が少ないよう作り直した。
ほんの少し魅了や興奮の効果が残っているが、アイドルの歌は元からそんなものだ。
中身が爺さんのアイドルはどうなんだろうとは思うが。
そんな事実を知らなければ、柘榴は絶世の美女にしか見えないはずだ。
「それは楽しくなりそうだね。オイラはいいと思うよ」
「私も子供たちに喜んで欲しい。お兄ちゃん、どうかな」
人前で演奏するというのは苦手だが、子供たちを楽しませたいという気持ちはある。
それに子供たちの反応で努力の成果を知りたかった。
ロココやラピィほどではないが、俺の楽器の腕前も上達したと思う。
「そうだな、これもいい機会だ」
「やった! お兄ちゃん、ありがとう」
「いよいよじゃな」
子供たちを相手に演奏するならそこまで緊張することもないだろう。
それに今のみんなの姿なら勇者一行だと気づかれることもない。
俺が頷くと喜んだ仲間たちが一斉に抱きついてきた。
念願だった歌を披露できるとあって、柘榴の意気込みは凄まじい。
それを反映してか、俺に抱きつく力も強かった。
二つの山が潰れるような勢いで俺に密着している。
こんな時は褌一枚で良かったなと思ってしまう。
素肌なので思う存分、胸の感触を堪能できた。
どうやらまだブラジャーはしてないようで、チャイナ服から伝わってくる膨らみが素晴らしい。
「さすがに町中ではブラくらいはした方がいいと思うな」
だらしない顔になりながらも柘榴に注意を促した。
アパートにいる時はどんな格好でも問題ない。
むしろ今の格好を推奨したいくらいだが、町中で胸が揺れていたら余計な注目を集めてしまいそうだ。
それに絶景を堪能するのは俺一人でいいという独占欲がある。
俺にとっての理性の女性の姿なんだから当たり前だ。
中身が爺さんであろうと関係ない。
「どうもブラジャーというのは胸が締めつけられる感じがして慣れないのじゃがなぁ。お主が言うなら仕方ない」
元は男だった柘榴からしてみれば、ブラジャーは邪魔に思えるようだった。
今回は柘榴がいるので、異空間収納で倉庫のジャガイモの大半を持っていくことにした。
冬になって綿花は成長が遅くなったが、ジャガイモは幾らでも収穫できていた。
ドワーフ五人衆にはしばしば露店でジャガイモを売ってもらったが、それでも作物倉庫から在庫が減った気がしなかったのだ。
何事もなくニアの町の門には辿り着いたが、身分証となる白銀のカードを門番に見せる時に一悶着あった。
「え、赤龍大公様? 本当にご本人ですか?」
「シーッ。そんなに騒ぐでない。脱皮してちょっと姿が変わったのじゃよ」
「ちょっとというレベルじゃないですよ。性別まで変わっているじゃありませんか」
本人でなければカードの輝きが曇るとはいえ、柘榴の姿は七龍とは違い過ぎる。
兵士が疑いたくなるのも当然だろう。
「俺が本人だと証明するよ。それなら構わないだろ」
「勇者様がそう仰るなら信じますが」
ラピィに関しても何か言いたげな顔をしていたが、神官が身分を偽るはずもない。
世間に知られている勇者一行と姿が違い過ぎるので、兵士が遠い目になっていた。
「姿と名前を知られ過ぎているのも困ったものじゃな」
足止めを食ったので柘榴が困ったように笑っていた。
露店でジャガイモを売る準備をしていると、やけに視線を感じる。
俺のことが勇者だとばれたかと思ったが、どうやら柘榴にばかり視線が向けられているようだ。
「あくまで俺の好みだからさ。柘榴が美人になったとはいっても、こんなに注目されるとは思わなかった」
人の好みは千差万別だ。
俺の好みを忠実に反映した外見だからといって、万人受けするとは限らないと思っていた。
それは甘い考えだったらしい。
男どころか女まで足を止めて柘榴に目を奪われている。
高名な七龍がいてもここまで騒ぎにならないと思えるほどだ。
「まさかこんなことになるとはのぅ。お主の美的センスは大したものじゃな。ワシも鼻が高いわい」
「ちょっと複雑な気持ちになるけどな」
中身が千歳の爺さんだと知らないのはある意味で幸せだと思う。
ニアの町でジャガイモのことは知れ渡っているようで、露店が始まるとすぐに客が集まってきた。
今回は綺麗どころが三人もいるので、集客力も強かったのだろう。
ラピィが可愛いと認めることには抵抗があるが、顔立ちに愛嬌が増して可憐になっていた。
柘榴を口説く人間がいるのはわかるが、まさかラピィにまで声をかける奴がいるとは思わなかった。
二人とも上手くナンパをあしらっていたが、俺としてはむかっ腹が立ってしまう。
柘榴は理想の美人だから腹が立つのは当然にしても、ラピィに声をかける男にも苛立ちを覚えていた。
友人に対する感情とは別物のような気がして俺は戸惑った。




