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47.足りないもの

 俺はロココと一緒に裏山で拾ってきたドングリをコマにして遊んでいた。


「私とお兄ちゃん、どちらが長く回転できるコマを作れるか勝負だね」


 ロココの作ったコマは安定感があってなかなか軸がぶれない。

 俺のコマは最初の勢いはいいのだが、すぐにヨタヨタとしてしまう。

 形のいいドングリを選んでコマにしたつもりだが、中身のバランスも関係しているようだ。


 ロココは「どんぐりころころ」を歌いながらコマを回している。

 童謡を聞きながらアパートの敷地から裏山を眺めていた俺は、何か物足りなさを感じた。

 裏山は緑が生い茂って、爽やかな景観になったとは思う。


「どうかしたの?」


 コマを回す手を休めてじっと裏山を眺める俺をロココは不思議そうに見ていた。


「ロココ、もう一度歌ってくれ」


「わかった」


 ロココの「どんぐりころころ」を聞いているうちに足りないものがわかった。


「そうだ、池がないんだ」


 裏山の景色に池が加われば、もっと素晴らしい眺めになるだろう。

 それに池があれば夏に水遊びもできる。

 俺は泳ぐのは好きなのだ。


 それに合法的に柘榴シーリオを水着姿にできる。

 中身が爺さんでも見たいものは見たい。

 柘榴の水着姿を妄想すると、だらしない顔になってしまいそうだ。


「お兄ちゃん、エッチなことを考えたでしょ」


「池があればもっと楽しくなると思っただけさ」


 ロココに図星を指摘されたが、素知らぬ振りを装った。

 地面を掘っても水が出るかはわからないが、試してみる価値はありそうだ。

 俺は作物倉庫に行って、101号室にあったスコップを取ってきた。


「どこを掘ったら地下水が出てくるかなぁ」


 裏山の麓まで行くと、すり鉢状にしながらひたすら土を掘り返す。

 掘り進めているうちにサラサラだった黒土が粘土質な赤土になってきた。


「アニキがまた突拍子もないことをやり始めたね」


 遠くからでも猛烈な勢いで土砂が空中に舞うのが見えたのか、ラピィや柘榴が様子を見に来た。

 俺が見上げるとちょうどラピィのスカートの中身が見えた。

 今日のパンツはピンク色だった。


 可愛い色のパンツでも不思議と似合っていて、変な気分になった。

 どんどん違和感がなくなって、ラピィが女になった気がしてしまう。


「この土はレンガを焼くのに向いてそうだね。でも、土が欲しいってわけじゃないんでしょ」


「池があったら水遊びができると思ったんだ」


「お主は遊ぶことに関しては本気になるのぅ。面白い男じゃな」


 柘榴は楽しそうな顔で微笑んでいた。

 3メートルは掘り進んでいるので、柘榴の声が女性として聞こえた。

 その麗しい声だけで頑張ろうという気になってしまう。


 柘榴が立っている場所は日差しが強くてパンツが見えない。

 ラピィと違って絶対に立ち位置を計算していると思う。


「アニキってば、オイラの水着姿がそんなに見たいんだね」


「一応は聞くが、どんな水着を着るつもりだよ」


「ビキニとか」


 何が悲しくて男のビキニ姿なんぞ見なくてはならないのか。

 ちなみにこの世界では水着用の服というものはない。

 水遊びをするなら下着姿になるだけのようだ。


「柘榴ならともかく、ラピィが着ている姿を見たら目が腐るわ」


「ほう、わらわの水着姿なら見たいのか。水着なんてものは下着と大して見た目は変わらないと思うのじゃがなぁ。太郎なりのこだわりかのぅ」


 柘榴に甘く透明な声で笑われると、急に恥ずかしくなってくる。

 爺さんの声と違って、異性を強く感じさせるのだ。


「それでは妾は太郎を歌で応援するとしよう」


「私はリコーダーを吹くね」


 柘榴は気持ちが盛り上がってくるアニソンを歌い出した。

 その歌を聞くと疲れていた気持ちなんて吹き飛んでしまう。

 なかなか水が出てこないので、諦めようか悩んでいたのだ。


「うおおぉおお!」


 それに力も湧き上がっていた。

 どうやら歌の効果で身体能力も上昇しているらしい。


 無我夢中になって一気に掘り進んだ。

 それでも土は少し水っぽくなっただけだ。


「こうなったら奥の手だ。金剛おおおぉぉぉ!」


 歌の効果で俺はやたらと気合が入っていた。

 右手を掲げて思いっきり叫ぶ。


 こうなったら水が出るまで手段を選ぶつもりはない。

 金色に光る廻しを締めると、俺は右手に金剛力を溜めた。


「ひいっさつ、バサラ天掌!」


 金剛力による衝撃波を地中に向かって解き放った。

 バキバキと硬い地層や岩を破壊して地面が割れていく。

 手応えからかなり深くまで地割れが生じたのがわかった。


「お、水が出てきた」


 どれくらいの深さの地割れかわからないが、泥を吐きながら水が噴き出してきた。

 この調子なら池になるかもしれないなと楽観的に考えていると、グラグラと地面が大きく揺れた。


 転ばないよう踏ん張っていると、ドーンという凄まじい音がして地面が爆発した。

 鼓膜が破けそうな強烈な音に眩暈がする。


「な、何が起こったんだ」


 金剛力の効果ですぐに意識は回復したが、周りを確認した俺は愕然とした。

 俺がいるのは地上からはるか離れた上空だった。

 さすがに紐なしバンジージャンプは経験したくない。


 地上では大きな水柱が吹きあがっている。

 どうやら水柱に吹き飛ばされて、俺は空に打ち上げられたようだ。


 景色が凄い勢いで後ろに流れていく。

 俺は裏山の頂上まで吹き飛ばされた。


「ぐぅううう!」


 バキバキと樹の枝が折れる音がして体に衝撃が走った。

 金剛布でなければ骨が折れたかもしれない。


 元気の樹に当たらなければ、どこまで飛ばされたかわからなかった。

 体が果物の汁でベトベトになったが、幸いなことに怪我はしていない。


「どんどん水が溜まって池になっていくな」


 元気の樹の天辺から地上を見下ろすと、俺が掘ったすり鉢状の穴にどんどん水が溜まっていた。

 水が溜まるに従って、水柱の勢いも衰えていく。

 この様子なら池になりそうだった。


「ちょっと怖いけど、ここからの眺めは素晴らしい」


 元気の樹の天辺からはるか遠くまで見渡せた。

 今は金剛布を締めているので視力も強化されている。


 歌による身体強化がまだ働いていて千里眼のようだった。

 見えるはずがないと思っていた王都や帝都まで見通せてしまった。


「王城や帝城までわかるな」


 俺が召喚された原因になった奴らが住んでいる城だ。

 イラッとして元気の樹に実った大きなドングリを集めた。

 届くはずがないなと思いながら、王城や帝城に向かってドングリを放り投げる。


「ハゲろぉおお!」


 思いっきりドングリを遠くに投げ飛ばすと気分がすっきりした。

 それで些細な悪戯のことはすぐに忘れてしまった。

 その後、国王や大臣の頭に小隕石が掠めてハゲたという話を聞いたが、真偽の曖昧な噂話と思って気にも留めなかった。

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