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45.歌によるハプニング

 数日は一人で歌の練習をしていた柘榴シーリオだが、新しい声の調子に慣れてきた。

 そこで全員が集まって演奏をしてみることにした。


「楽しみじゃなぁ。気合が入るのぅ」


 歌う前から柘榴は頬を桃色に染めて白い息を吐き出している。

 細長い龍の尻尾が上機嫌でプラプラと揺れていた。

 目の前で動くものを見ると狩人の血が騒ぐのか、ロココがうずうずと尻尾に手を伸ばそうとしていた。


 血色が良くなった柘榴の唇を見ると、その感触が思い出されてしまう。

 俺は慌ててラピィの方に顔を向けて会話の糸口を探した。


「今までのバチと違うんだな」


 ラピィは平太鼓のバチではなく、木を細く削ったスティックを用意していた。

 かなり本格的に準備をしたようだ。


「この方が軽快な音が出てみんなと合わせやすいと思ってね」


 元気の樹の枝からラピィが削り出したらしい。

 試しに平太鼓を叩いてもらうと、腹に響くようなインパクトは残しつつも、躍動感のある音が放たれた。


 俺も毎日ギターを弾いて練習していたので、みんなと演奏をするのが楽しみだった。

 金剛力は仏様からの借り物の力だが、ギターの腕前は俺が磨いたものだ。

 まだまだ下手くそではあるが、何か引け目を感じるようなこともない。


「みな、それでは頼むぞ」


 まずは一番翻訳が上手くいって、ひたすら熱いアニソンからだ。

 柘榴が歌い出すと一気に気持ちが盛り上がる。

 すぐ近くで素晴らしい歌声を聞くと、魂まで燃えていくようだった。


 だが、あまりにテンションが高くなり過ぎて、俺はやたらと勢いのある音を出そうとしてしまった。

 目の色を変えてロココやラピィも演奏している。

 ロココはリコーダーを強く吹き過ぎて音が割れていた。


 ラピィも力任せに平太鼓を叩くだけで音に調和がない。

 ただうるさいだけだ。

 口から泡を吹き飛ばして狂戦士になったみたいだった。


「うーむ、久しぶりで燃えるのはわかるが、少し荒っぽかったのぅ」


「頭がカッとなってね。勢いが止まらなかった」


「オイラも自分じゃないような感じだったよ」


 練習の成果を生かせなかったので、ロココもラピィもしょんぼりしていた。

 二人ほどではないが、俺も熱くなり過ぎて思い描いていた音が出せなかった。

 次は気をつけようと思ってギターを構える。


「では次の曲を試してみようか」


 二曲目は一曲目よりはゆっくりとしたテンポだ。

 もちろんアニソンなので、感情に訴えかける熱い勢いはある。


 そのはずなんだが、いつの間にか俺の手が休んでいた。

 強烈な眠気に襲われて、目を開けているだけで精一杯だった。


 柘榴の歌声だけが聞こえて、楽器の音は一切しない。

 ロココもラピィもその場に座って、気持ち良さそうに眠っていた。


「これは困ったのぅ。どうやらワシの歌声には魔力が宿ってしまったようじゃ」


 柘榴によると吟遊詩人には呪歌というものを奏でられる使い手がいるらしい。

 音楽を演奏している最中は、歌に秘められた効果で生物の感情を操れるという話だった。


「とりあえず翻訳をした歌は試してみたいところじゃ」


「まさか寝てしまうとは思わなかった。気をしっかり持てば大丈夫だよね」


「呪歌の効果があるとわかっていれば、オイラたちなら耐えられるはずさ」


 ロココとラピィを起こして次のアニソンの練習を始める。

 柘榴の魅力的な歌声を聞くと、今度はやたらと心臓がドキドキしてきた。


 柘榴から目が離せない。

 桃色の唇がいつもより魅惑的に思える。

 琥珀のように光り輝く金色の瞳を見ていると心が吸いこまれそうだ。


「お姉ちゃん、大好き」


「オイラ、柘榴になら抱かれてもいいよ」


「のわああぁぁ!?」


 俺が動き出す直前でロココが柘榴に抱きついていた。

 目にハートマークが浮かんでいそうな表情で、柘榴の頬に熱烈なキスをしている。

 ラピィは下僕のような恭しい態度で柘榴にひざまずいて靴に接吻していた。


 驚いた柘榴は慌てて歌を止めたが、二人はうっとりとした表情のままだ。

 そのまま柘榴に愛の言葉を囁き続けている。


「普通は歌が止めれば呪歌の効果も消えるはずなんじゃがなぁ」


「俺も危ないところだったな」


 柘榴は困り果てた表情でロココとラピィの相手をしていた。

 俺もあと少しで見境がなくなるところだった。


「ロココもラピィも魔法に対する抵抗力は高いはずなんだがなぁ」


 歴戦の勇士である二人は生半可な魔法なら防げるはずだ。

 それにも関わらず柘榴の虜になってしまっている。

 柘榴の歌の効力はとんでもない。


「これは違うの、違うのよ。私が好きなのはお兄ちゃんだから」


「オイラそんな趣味はないのに。いや、柘榴は魅力的な女性だけどさ」


 ロココやラピィは正気に戻ってからも赤い顔をしていた。

 必死に柘榴から目を逸らしている。

 まだ心に訴えかける力が残っているようで、柘榴を見ると変な気分になるらしい。


「いやはや参った。歌詞を変えたら効果は消えるのかのぅ」


 色々と試してみると、歌詞を変えるだけで効果が弱まったり全く違う効果になったりした。

 やたらと魅了の効果が強まって、俺まで柘榴の虜になってしまうこともあった。


「これは嬉しいんじゃが、やはり自発的にやってもらわなければなぁ」


「うわっ! え、ええ?」


 はっと気づくとコアラみたいに抱きついていた。

 慌てて離れる。


 操られていた時の記憶は残っているが、その間の感覚はあやふやだ。

 柘榴の体の柔らかさとかは覚えてないので、残念な気持ちになってしまう。


 呪歌の効果は距離が近いほど強いようだった。

 10メートルも離れると効果は薄くなる。


 それでも魔法に対する抵抗力が低い一般人ではひとたまりもないだろう。

 今のまま柘榴が歌えば簡単に暴動騒ぎになってしまう。

 かなり完成度が高いところまで翻訳していたアニソンもあったが、また歌詞を練り直す羽目になった。

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