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44.喉に詰まった餅

 精米したばかりの白米をラピィが洗っていた。

 ぬかがたっぷりついているので、念入りに米を洗っている。


 頑張って精米したつもりだが、それでも洗い終わった米は少しだけ黄色かった。

 それに半透明でない米もちょっと混じっていた。


「普通の米で餅つきってできるものなのか?」


 米が炊けたところでようやく餅つきだが、もち米でなければちゃんとした餅にならない気がした。


「試しにやってみようよ。餅つきなんてしたことがないから楽しみ」


 それでもみんなは初めて行う餅つきを楽しみにしているみたいだ。


「ぺったんぺったん」


「ほい」


 尻尾を箒のように振って、ロココは高く高く杵を持ち上げている。

 ロココが杵を叩きつけると、柘榴シーリオが手水で餅を濡らした。


「ラピィは返し手をやるなよ」


「どうしてさ?」


「誰が男の手汗が入った餅を食いたいと思うか」


「アニキ、それは偏見だよ。オイラの汗が入った餅だって美味いかもじゃん」


「気持ちの問題だ」


「オイラだって心は乙女のつもりなのにさ。柘榴は心が男じゃん。それはいいのかよ」


 ラピィの言葉が嘘ではない証拠に、可愛らしい少女の声に聞こえる。

 3メートルほど離れてラピィの声を聞くと、もっとボーイッシュな声なのだ。


 柘榴とは逆の現象が起こっている。

 薄い本に影響されて、ラピィはもう腐り切ってしまったようだ。


「体が女であることが重要なんだ」


「へぇ、そうなんだ、なるほどねぇ」


 柘榴の中身が爺さんであることに思うところはあるが、やはり見た目が魅力的な女性だと惹かれてしまうのだ。

 これは男として本能的な欲求なので仕方ない、仕方ないんだ。


 俺から拒絶された割には、ラピィはやけに含みを持った言い方だった。

 また何かとんでもない悪巧みを考えてそうで、背筋がゾクッとした。


「ラピィが悪い顔している。今度はラピィの番だよ」


 だいぶ米粒が潰れてきたところで、ロココがラピィに杵を渡した。

 多少は粘り気が出てきて、見た目は餅っぽくなってきた。


「とりゃあぁあ!」


 ロココと交代したラピィが餅をつく。

 力仕事をする時は男の感情が蘇るのか、少年のような声に聞こえた。


 思いっきり杵を振り落すたびにフワッとスカートが持ち上がった。

 今日のパンツの色はつきたての餅みたいな純白だった。


 ヒラヒラとスカートが何度も持ち上がるが、パンチラの価値はない。

 ただ股間の膨らみは目立たなかった。

 男だと思って確認しなければわからないくらいだった。


「ちゃんとまとまってきたじゃん」


「見た目は餅らしいけどな」


 みんなで交代しながら餅つきをしているうちに、米は完全に潰れて餅っぽく仕上がってきた。

 ただ粘り気が足りないので、餅が粘ついて長く伸びることはなかった。

 それが餅つきらしくないので残念だ。


「あとは食べやすいサイズに丸めるだけだな」


 餅が手にくっつかないように片栗粉をつける。

 片栗粉はアパートにあったやつだが、これを使い切ってもジャガイモからデンプンは取れる。

 そこまで惜しむ必要もない。


 俺が丸めた餅は不格好で大きさも揃ってなかった。

 一番手馴れているのはラピィだ。

 やはり毎日料理をしているだけあって食べやすいサイズで丸めている。


 それに餅の見た目がツヤツヤしていた。

 男が握っているのについ手に取ってしまいそうだ。


「さっそく食べてみようよ」


 お饅頭みたいに丸めた餅をロココはワクワクとした目で見ていた。

 つきたてでまだほんのりと湯気が出ている。


「柔らかい弾力で面白い食感じゃな」


「ムニュムニュしている」


「アニキが心配するほど悪くはないじゃん」


「うーん、何か騙されている感じだな」


 砂糖や醤油をつけて食べたみんなの感想はそれなりに好評だった。

 だが、ちゃんとした餅を知っている俺としては、歯応えが足りなくて物足りない。

 それでも思ったよりは餅らしさを感じることもあった。


「何かおかしいな。ちょっと採れた稲を見せてくれないか?」


 ラピィに頼んで、収穫して天日干しで乾かしている稲を見に行く。

 じっくりと観察すると背丈が高い稲が少し混じっていた。


「こいつが怪しい。面倒だけど試してみるか」


 本当の餅をみんなに食べさせたい。

 また精米をするとなると手間ではあるが、背丈の高い稲だけ集めてみた。


「やっぱりさっきとは見た目が違うな」


「オイラ、米を育てるのは初めてだから、違う種類の米が混じっているとは思わなかったよ」


 精米してみると白く不透明な米ばかりだった。

 いつも食べている米は半透明なので見た目の違いがよくわかる。


「やっぱりもち米だ。倉庫で拾った籾米にもち米が混ざっていたんだろうな」


「見た目は似ていてもそんな違いがあるとはのぅ」


 その不透明な米を炊いてみると明らかにモチモチ感が違った。

 試しに噛んでみると粘り気が強い。


「うわっ、お餅ってこんなに伸びるの。すごーい」


「ほぅ、粘り方がまるで違うのじゃなぁ」


 もち米を使って餅つきを行うと、杵についた餅がビヨーンと伸びる。

 腰にしっかり力を入れないと餅の粘つきに負けてしまいそうだ。


 ロココはキャッキャッと騒ぎながら餅つきをしていた。

 小学生の餅つきを見ているようで、和やかな気持ちになる。

 やはり面倒でも餅つきをやり直して良かった。


「うん、やっぱりさっきとはまるで違うな」


 ロココが丸めた少し小さな餅を手に取る。

 つきたての餅を食べると歯を押し返す弾力が心地良い。

 これでこそ餅だ。


「どこまでも伸びていきそうだよ。おもしろーい」


 ロココは口から長く伸びた餅を見て、満面の笑顔で尻尾を振っていた。


「餅以外の料理にも使えそうだよね。これからは別のところでもち米を育ててみるよ」


「これが本当の餅か。モチモチとした食感が段違いじゃな」


 みんな餅を美味しそうに食べている。

 特に柘榴はかなり気に入った様子で、俺が丸めたデカい餅をパクパクと食べていた。

 柘榴の故郷は日本と食文化が似てそうなので、餅も口に合ったのだろう。


「うぐっ!?」


 美人らしからぬ大口を開けて餅を食べていた柘榴だが、急に目を白黒させた。

 まだ女になって間もないので、喉の細さを見誤ったらしい。


 トントンと胸を叩いているが、一向に餅は吐き出されなかった。

 大きな胸が揺れるだけだ。

 どんどん柘榴の顔が赤くなっていく。


「すぐにオイラが助けるよ。リフレッシュ」


 ラピィが治療をしようとリフレッシュをかけたが効果はなかった。

 リフレッシュは対象者の生命力を活性化させて健康を取り戻す神聖術だ。

 つまり喉に詰まった餅を取り除きはしない。


「こうなったら力づくで何とかしてやる。金剛おおおぉぉぉ!」


 俺には応急手当の知識なんてない。

 こうなったら俺の土俵で、肺活量で勝負するだけだ。


 俺の呼びかけに応じて空から七色の光を放ちながら金色の布が現れた。

 早く早くと願いながら、服を脱ぎ捨てて金剛布が舞い降りてくるのを待つ。


「ずぎゅるぅうううぅ!」


 金剛布が腰に巻かれたと同時に柘榴の唇を口で塞いだ。

 バキュームカーのような勢いで息を吸い出す。


 すぽんと溶けかけた白い塊が俺の口に飛びこんできた。

 それをごくんと飲み干す。


「はあぁ、はぁ、はあ」


 どうにか間に合ったようだ。

 命が助かった柘榴は後ろによろめきながらも荒い呼吸を繰り返していた。


「おぉおぅ。命を助けられただけというのはわかっておるが、わらわの胸がときめいておるわ。いやいや、これは参ったのぅ」


 まだ3メートル離れていない気がしたが、柘榴の口から透明感のある甘い声が聞こえた。

 柘榴の唇は俺の唾液で汚れている。

 あまりの吸引力に唇の周りには赤い痣が残っていた。


「わ、妾はアパートで休んでおるよ」


 そそくさと柘榴が逃げるように立ち去る。


「……柔らかかったな」


 一方で俺も柘榴の動揺に気を配る余裕はなかった。

 無我夢中だったが、女の唇の感触は覚えていた。


 衝撃的な柔らかさだった。

 唇が触れたところから溶けるかと思った。

 危機が去ってしまうと、先ほどの光景が何度も脳内でリフレインする。


「わあぁぁ、今のはキス?」


「今のはノーカウントでしょ。オイラは認めないよ」


「う、うん。人助けだもんね」


 誰もが動揺して落ち着かない様子だった。

 翌日には柘榴は元通りの態度に戻っていたが、何となく物腰が柔らかくなって笑顔が増えた気がした。

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