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43.俺はヒモではない

 早朝からトントンという音と話し声が聞こえた。

 何をやっているかと思って外に出ると、ラピィと柘榴シーリオが杵で臼をついている。

 その足元にはロココも座って作業をしていた。


「新年を迎えたから餅つきでもしているのか?」


 日本の風習を真似していると思ったが、いつまで経っても白い餅の姿は見えない。

 それに餅をひっくり返す返し手もいない。

 ラピィと柘榴が持っているのは、両方とも杵だ。


「アニキ、その前の段階だよ。新米の籾殻を取っているんだ。あとで餅つきもしてみようとは思うけどね」


「いい鍛錬になるわい」


 ようやく食べられるだけの量の米を収穫できたようだ。

 臼の中を覗くと玄米と籾殻が混じっていた。


 機械でやればあっという間なのに、手作業でやるとなると大変な労働だ。

 稲が収穫できるようになれば、それだけで白米が食べられる気になっていた。

 日本の便利な生活に慣れ過ぎて、どうも俺は考えが甘い。


 叩くことで籾米が擦れ合って籾殻が剥けていくらしい。

 それでもまだ茶色っぽい玄米の状態だ。

 白米に慣れた俺には美味しそうには見えない。


「うんしょうんしょ」


 玄米を一升瓶に入れて、ロココが棒で突いていた。

 これでさらに玄米同士が擦れ合うことでぬかが削れて、白米になっていくようだ。

 普段は何気なく食べている白米だが、非常に手間がかかる。


「もっと楽な方法はないのかよ」


「米用の木摺臼きずりうすを作っているんだけどね。まだ調整が上手くいかなくて米が砕けちゃうんだよ」


 とても人力でやってられない。

 大陸では米が食べられていないので、道具を作るのも試行錯誤のようだ。

 インターネットである程度は調べられるとはいえ、実際に作ってみないと細かいところはわからないのだろう。


「この近くに川でもあれば良かったんだけどさ。そうすれば水車を設置して、その力を利用したんだけど」


 あいにくこの近くには川はない。

 遠くの川から土木工事で水を引っ張ってこようと思っても、様々な利権が絡んでくる。


 川の水量が減ったら付近の村落や町が迷惑をこうむるだろう。

 下手をしたら戦になってしまう。それは避けたい。


「精米機でもあればなぁ」


 家庭用の精米機を持っているアパートの住人はいなかった。

 基本は一人暮らしが多いこのアパートでは、そこまで手間をかける人間はいなかったのだろう。

 ないものを嘆いて愚痴を言っても仕方ない。


「俺も手伝おうか」


 白米は毎日口にするものなので、俺だけやらないわけにもいかない。

 見た目は三人の女性が働いているのに、男一人が怠けているのは褒められた光景ではなかった。

 俺はフリーターであってヒモではないのだ。


「それは助かるけど赤褌は脱いできてよ。アニキの力だと米が割れちゃうからさ」


「わかった。パンツに着替えてくる」


 仲間が全員揃っていてここはアパートの敷地だ。

 危険はまずないだろう。

 赤褌を脱いでパンツ一枚で外に飛び出した。


「さっむ。すげぇさみぃいい」


 今は冬の真っ最中だ。

 金剛力が全く働かなければ寒いに決まっている。


 外の寒さを舐めていた。

 慌ててアパートに逃げ帰った。


「まともに服を着るのは久しぶりだな」


 なるべくダボダボで腹回りがきつくないズボンを選ぶ。

 茶色いセーターを着たが、それでも外に出ると多少は寒い。

 いかに普段は金剛力に守られているか痛感した。


 それに寒いとはいっても、アパートの敷地は日当たりが良いのだ。

 黒雲で日光を遮られた地域はもっと寒いだろう。


「お主が服を着るのは珍しいから見慣れないわ」


「お兄ちゃんはいつも褌だから変な感じ」


「うんうん、アニキには服は似合わないよ」


 久しぶりに文明人らしい恰好をしたのに、なんでみんな微妙そうな顔をする。

 そりゃ俺には服のセンスなんて皆無だろうけどさ。

 釈然としないものを感じながら杵を持った。


「寒いとはいえ背筋くらい伸ばしたらどうじゃ。気功術を使えば、寒さも和らぐぞ」


「そうだな。ふぅうう、はぁああ」


 金剛力の代わりに体内の気を活性化させると体が温かくなってきた。

 これなら寒さは気にならない。

 気功術では初歩の技なので、これくらいなら褌がなくてもできる。


「地味な作業だよな」


 トントンと杵で臼を突き始めると、汗が吹き出してくる。

 金剛力が働いていると体力に余裕があるので疲れを感じにくいが、今は素の状態だ。

 ずっと臼をついていると腕が重くなってくる。


 だが、ラピィも交互に杵で臼をついているのに、俺だけ弱音を吐けない。

 女装男に負けたくないという意地くらいはある。


 それにロココや柘榴が見ているのだ。

 中身が爺さんでも理想の女性の前では無様な姿は晒したくない。


「はぁはぁ、あー、疲れた」


 どうにか精米が終わると、息が切れて立てなくなりそうだった。

 両腕の筋肉がパンパンになって痙攣していた。


 楽をする為にどんどん道具が発達していくわけだ。

 こんな経験は一度で十分だなと思う。


「褌をしてないのに頑張ったのぅ」


 俺が荒い息を吐いていると、ふわっといい匂いが鼻を掠めた。

 柘榴が俺を抱き締めるように背中を撫でていた。


 今にも触れそうな距離に二つの膨らみが迫っていた。

 思いっきり胸の谷間に顔を埋めたくなる。

 余計に息が荒くなりそうだった。


 柘榴もラピィと交代しながら杵をついていたので、汗を流していた。

 蒸発していく汗の匂いが悩ましい。


「これで大丈夫じゃろ」


「あ、息が楽になった」


 鼻に充満する女の匂いでまともな呼吸ができる気がしなかったが、いきなり体が楽になった。

 柘榴が背中に回した手で気功術を使って、俺の呼吸を整えてくれたらしい。

 もっと絶景を堪能したかったなと思いながら柘榴から離れた。

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