42.爪切りと耳掃除
手を見ると爪が伸びていてそろそろ切る時期だった。
赤褌をしていると爪まで金剛力に守られてしまうので、爪を切るのは風呂上りがベストなタイミングだ。
もちろん爪が柔らかくなっているという理由もある。
「それはどんな道具なんじゃ?」
俺が爪切りを持ち出すと、柘榴は興味津々な様子で尋ねてきた。
この世界では爪切りなんて便利なものはないので、ナイフで爪を削ぐのが普通だ。
不器用な俺としては爪を整えるのは手を傷つけそうで大変だった。
「これは爪を切る道具だ」
試しにパチンと手の爪を切ってみせると、ロココやラピィまで近寄ってきた。
「そんなものまで日本にはあるんだ。量産したら売れるかもね」
「貴族向けの商品になりそうだけどな」
鉱物資源が取れる山には魔物が住み着いていることが多い。
採掘をするのは大変なので、金属は木材よりさらに高価なのだ。
「お兄ちゃんの爪を切るのは私の役目だったのに」
ロココがつまらなさそうに呟く。
旅の最中は俺が恐る恐る爪を切っていたので、ロココが手伝ってくれることも多かった。
「便利じゃな。試しにお主の爪を切らせてもらえんか」
「それじゃ左手は私がやる」
右には柘榴、左にはロココが座って俺の手を取った。
肩が触れる距離で女性に囲まれると、嬉しさと気恥ずかしさを覚える。
これが青年ロココと七龍だったら非常に男臭い絵面だっただろう。
それを思うと不思議な感じだ。
爪切りを受け取ると、柘榴は左手で俺の手を包むようにして支えた。
滑らかな手の感触が俺の無骨な手に伝わってきてドキドキする。
顔が赤くなりそうで、静かに息を繰り返した。
「これは使うのが簡単じゃな。爪も飛ばないようによく考えられておるわ」
パチンパチンと軽快な音をさせて柘榴は俺の爪を切っていく。
一方でロココは慣れた手つきで俺の爪をナイフで削ぎ落していた。
「こればかりはお姉ちゃんに負けられないね」
ロココの方が俺の指の形に合わせて爪を切っているので仕上がりが綺麗だ。
両方の手を比べると一目瞭然だった。
ただ床に爪が落ちてしまったので、ロココは手で集めて拾っていた。
そのままゴミ箱に捨てると思ったのだが、小さな瓶に切った爪を入れていた。
「そんなものをどうするんだ?」
「たからもの」
「そ、そうか」
俺の爪を宝物と言い切られては、捨てろとも言いにくい。
そりゃ小学生のうちは綺麗な貝殻や変わった形の石が宝物のことはあるけど。
俺は微妙な顔をして黙るしかなかった。
「足の爪も伸びておるのぅ」
「ちゃんと手入れはしておかないとね」
「いや、足くらいは自分でやるから」
風呂に入ったばかりでも足の爪には臭いが残っている。
そんな臭いを女に嗅がせるのはさすがに申し訳ないと思ったのだ。
俺は遠慮したのだが、ロココは平気な顔で爪を切り始めた。
むしろ嬉々とした様子だ。
床に落ちた足の爪を拾っては、うっとりとした顔で頬を染めている。
ヨダレまで垂らしそうな表情だった。
特定の臭いを好むのは銀狼族の習性なのだろうか。
ロココが俺に好意を持っているのは知っているが、爪の臭いで夢見心地になられてしまうと反応に困った。
「柘榴まで俺の足の臭いを嗅がないでくれよ」
「けほっ、親指の臭いは強烈じゃな」
親指の爪を切った直後の臭いを嗅いで、柘榴が後ろに仰け反っていた。
垢が溜まっていたらしく俺のところまで臭いが漂ってくる。
よほど臭いが強烈だったのか、金色の瞳が涙で潤んでいた。
涙で濡れた瞳が大きく見えて、扇情的な雰囲気を醸し出している。
中身が爺さんでも女性の涙というのは破壊力が高かった。
「ティッシュで顔を拭けよ」
こんな時にハンカチなんて便利なものはない。
そもそも今の俺はタオルを巻いただけの格好だ。
せいぜいティッシュ箱からティッシュを抜いて渡すのが関の山だ。
「ほほぅ、紳士的な振る舞いをされると、意外に胸がときめくものじゃなぁ」
俺からティッシュを受け取った柘榴はおかしそうに笑う。
ティッシュを目元に当てて涙を吸い取っていた。
照れ臭くなった俺はポリポリと耳を掻いた。
「おお、そうじゃ。耳掃除もしてみようかのぅ。ほれ、ワシの膝に寝るとよいわ」
俺が耳を掻いたことで余計なことを思いついたらしい。
歯磨き、爪切りの次は耳掃除ときた。
まだ柘榴の姿に慣れていないので、相手をずっとしていると疲れてしまう。
だが、ムチムチした太ももには抗えない魅力があった。
気づいた時にはもう頭を太ももに委ねていた。
「耳垢がたくさん溜まっておるのぅ。これは掃除し甲斐がありそうじゃ」
ちゃんとした耳掃除をするなんて何年振りだろう。
いつもは小指を耳に入れて掻くだけだった。
「うっはあぁぁ、くうぅぅ」
コチョコチョと耳の中を耳かきがくすぐっていく。
背筋がゾクゾクしそうなほどに気持ちがいい。
時々ガサッゴソッと大きな音がして、大きな耳垢がすくわれていく。
そんな時は魂が抜けそうなほど気持ち良さだ。
膝枕の快感と相まって、だらしない顔になってしまった。
ふううぅと優しく耳の穴に息を吹きかけられると、ビクビクと腰が跳ねそうになった。
これはやばい。
あまりの気持ち良さに力が抜けて、耳掃除が終わってもしばらく動けなかった。
「お姉ちゃん、私にもやって」
「もちろん構わぬよ」
俺がよろよろと頭を持ち上げると、羨ましそうに見ていたロココが柘榴の膝に頭を乗せた。
大きな三角の耳が期待するようにピクピクと動いている。
「あっ、ふぅ、すごく、上手」
耳掃除をされているロココは、幸せそうな顔で背筋を痙攣させていた。
尻尾が不規則に動いて毛が逆立っている。
子供の癖に男をドキッとさせるような声を出していた。
耳掃除が終わっても、ロココは蕩けた表情でしばらく膝の上で柘榴に甘えていた。
「じゃ、次はオイラも」
「ラピィは湿り気のある耳垢じゃなぁ」
俺たちの様子を見てラピィも柘榴に耳掃除をしてもらっていた。
「うはあぁ、こりゃアニキたちが蕩けた顔になるのも当然だよ。くぅううぅ!」
ラピィもだらしない顔を俺たちに晒して、耳掃除の間はずっと柘榴の膝で悶えていた。
そのせいでスカートがめくれてパンツが見えた。
今日は水色だった。
ラピィのパンツが見えるたびに妙な色気が増している気がする。
股間の膨らみはやけに頼りなかった。




