41.歯磨きはミントの香り
「今度は歯磨きでも手伝おうかのぅ」
夜になって風呂から上がった直後に、柘榴がひょっこり顔を出してまた妙な提案をしてきた。
知識欲が旺盛とでもいうのか。
実際に経験をしてみないと気が済まないらしい。
「お、おう。また変なことを思いついたな」
いつも赤褌で半裸姿を晒している俺でも、浴室から出た直後に声をかけられて驚いた。
慌てて腰にタオルを巻く。
そりゃお互いの裸は知っている仲ではあるが、相手が美人だと妙に気恥ずかしい。
これで全員男のままだったら、俺はフルチンでも平気だっただろう。
「そんなことまでロココにさせたことはないぞ」
「物は試しというやつじゃ。今日はそういう気分なのじゃよ」
「ふーん、物好きだなぁ」
俺が楽できるのであれば、特に断る理由もない。
それに美人に歯を磨かれたらどんな感じなのか興味はある。
洗面所で俺の歯ブラシを柘榴に渡す。
アパートに戻ったことで日本の歯ブラシと歯磨き粉が使えるようになった。
それまでは動物の毛を使った歯ブラシを使っていた。
動物の毛の歯ブラシは歯に対するフィット感がいまいちだった。
やはり抜群の力加減で歯に馴染む日本の歯ブラシは素晴らしい。
それに異世界では歯磨き粉も効果があるのか疑わしいものが多かった。
塩で歯を磨くならまだましな方で、小便を混ぜた粘土を使っている貴族もいるという話だった。
本当に歯を磨いているのか疑わしい口臭の臭い貴族も多かった。
貴族は美男美女が多いが、体臭や口臭が臭いと幻滅してしまう。
「日本の歯磨き粉は口の中がさっぱりするのがいいのぅ」
歯ブラシの先端にミント味の歯磨き粉が乗った。
歯磨き粉も補充はできないので、ちょっぴり乗せて使っている。
洗面所にある鏡に顔を映すと、歯ブラシを持った柘榴が俺の後ろに立っている。
女性がすぐ後ろに立っているという状況に慣れない。
何だか鏡に騙されているようだ。
気配は変わらないので、後ろを振り向いたら七龍がいそうな気がした。
「それでは口を大きく開いてくれんか」
「わかった」
俺が大口を開くと柘榴が背中に密着してくる。
魅力的な二つの膨らみが俺の背中に押し当てられていた。
男を惑わす幸せな弾力に眩暈がしてくる。
わざとやっているのかと思ったが、俺の歯磨きを始めた柘榴は真面目な顔だ。
今までは存在しなかった代物だ。
歯磨きに意識を集中しているので、胸のことは疎かになっているらしい。
柘榴が歯を隅々まで磨こうと腕の角度を変えるたびに、胸の密着具合が変わってくる。
様々な角度から球体が跳ねるので、思わぬ弾力が背中に伝わってきた。
背中が熱くなって汗が出てくる。
口にも唾液が湧いてきた。
幸せな弾力を堪能したくはあるが、口が塞がれているので鼻だけでは息が苦しい。
「ふぐぅう、ふごぅう」
「すまぬのぅ。どうやら時間をかけ過ぎたようじゃ」
俺の口は溢れた唾液でいっぱいになって、今にもこぼれそうになった。
変な呼吸音をさせたことで、柘榴は歯ブラシを引き抜いた。
俺は急いで洗面器に顔を向ける。
歯磨き粉が混じった唾液を吐き出して、冷たい水で何度も口をゆすいだ。
水の冷たさが口に染み入ると、ようやく心が落ち着いた。
「思ったよりも他人の口を磨くのは難しいのう。しっかり磨けたつもりではあるが、お主の息をワシに吐いてくれぬか」
「わ、わかった。はああぁぁ」
デブが美人の顔に息を吹きかけるのは何だか変態っぽい。
特殊なプレイでもしている気分だ。
「ミントの匂いじゃな」
俺の口臭を嗅いだ柘榴は安心したように笑った。
不意に正面から笑顔を向けられると心臓がドキドキしてしまう。
中身が爺さんだとわかっていても、美人の笑顔は破壊力が高かった。
「男の歯を磨くというのも一つの経験じゃな。さて、今度はワシの歯を磨いてくれぬかのぅ」
「今度は俺が磨くのかよ」
苦笑しながら赤い歯ブラシを手に持つ。
ミント味の歯磨き粉を乗せて、柘榴の口に突っ込んだ。
シャカシャカと音を立てながら、歯並びの整った白い歯を一つずつ磨いていく。
歯に意識を集中したいが、眼下に広がる山に意識が向きそうになった。
ちょっと歯ブラシに力が入り過ぎて、唇がめくれて桃色の歯茎まで見えてしまった。
泡塗れの白い唾液がこぼれて、形のいい顎から首筋に垂れていった。
慌てて首を汚した唾液を指で拭うと、ヌルッとした粘液が指に絡みつく。
バッチィはずなのに指先が熱くなった。
歯ブラシで頬が膨れて変な顔になっても、柘榴の美貌は損なわれなかった。
むしろ愛嬌が生まれてまた別の魅力がある。
どんな表情をしても美人は得だと思ってしまった。
歯ブラシに当たりそうになると舌が逃げる。
歯磨き粉で白くなった唾液をまとわせた舌が動くのは妙な色っぽさがあった。
「ふぅ、これで終わり」
気疲れを感じながら、トロトロになった歯ブラシを柘榴の口から引き抜く。
ペッと歯磨き粉が混じった白い唾液を柘榴が吐き出した。
美人の口から汚いものが吐き出される光景には、妙な背徳感があってゾクゾクした。
「ワシの息はどうかのぅ」
歯をすすぎ終わって、柘榴が口を開く。
白い歯がますます輝きを増したようだった。
「ミントの匂いだ」
俺の顔に柘榴の息が吹きかけられる。
ミントの清々しい香りしかしないはずなのに、甘い匂いが混じっている気がした。




