38.柘榴とロココの模擬戦
パチッと目を開く。
すっきりとした目覚めだった。
ただ寝起きから見事な山脈が目に飛びこんできたので、俺の活火山が活動を始めそうになった。
慌てて七龍の厳つい顔を思い浮かべて、平静を保った。
整った女の顔が俺を見詰めている。
長い睫毛に彩られた美しい金色の瞳だ。
中身が爺さんでもドキッとした。
「重かっただろ。足が痺れたんじゃないか」
太ももの感触に名残惜しさを感じながら起き上がった。
「そんなことはない。こうやってお主の世話を焼くのも男の時には考えられなかった経験で楽しかったわ。それに少しだけ女の気持ちを理解した気になったかのぅ」
唇の端が持ち上がって笑みの形になる。
ちょっと笑っただけで美人は絵になった。
またドキドキさせてズルいと思ってしまった。
「よく眠れた。またお姉ちゃんに膝枕して欲しい」
「もちろんじゃとも」
もう片方の膝で眠っていたロココも起きてきた。
膝枕の虜になってしまったようで、甘えるような声で柘榴にお願いしていた。
部屋を出ていく前と比べるとやけに仲良くなっている気がする。
そういえばロココは柘榴のことをお姉ちゃんと呼んでいた。
見た目はお姉ちゃんだろうが、年齢を考えるとお祖母ちゃんだよなと思った。
「まだ体の軸がずれておる気がするのう。ロココよ、手合わせをしてくれぬか」
「わかった」
柘榴は赤い布の靴を履いた。
それだけで足元が華やかになった気がする。
チャイナ服と良く似合っていた。
これもロココが縫ったものみたいだ。
ロココには縫い物のセンスが感じられた。
「俺も手合わせを見物させてもらうかな」
今の柘榴の棒術の腕前がどうなったか気になる。
もちろん下心もあった。
激しく動くのだから柘榴のパンツが拝めるはずだ。
男というのは隠された宝があると見たくなる生き物なのだ。
中身が爺さんだとわかっていても、本能的な欲望がムクムクと鎌首を持ち上げてしまう。
「赤だな」
つい心の声が漏れていた。
チャイナ服が赤、靴も赤なら当然パンツも赤だろう。
「何が赤なの?」
ロココがきょとんと首を傾げる。
無邪気な目で不思議そうにしていた。
「えっと、それはだな」
俺が何と言って誤魔化そうかと慌てていると、
「柘榴のパンツの色でしょ」
あっさりとラピィにばらされた。
何てこと言いやがる。
「お兄ちゃんのエッチ。でも、お兄ちゃんが私のパンツを見たくなったらいつでも言ってね」
ロココはジトッとした目で頬を赤らめた。
いやそんな誰のパンツでも見たいわけではない。
子供パンツは俺の守備範囲外だ。
「ほう、日本の男というのはパンツの色まで知りたがるのか。なかなか奥が深いのぅ」
この世界の下着はたいてい白だ。
服ならともかく下着は穢れなき白が好まれる傾向にあるようだ。
「赤とは限らぬ。白かもしれぬぞ。ブラはしてないのだから履いてないこともありうるのぅ」
悪戯っぽい表情をして柘榴がチャイナ服の裾を揺らす。
赤い布がヒラヒラと舞いそうになると、闘牛みたいに頭に血が上りそうになった。
爺さんの声でも挑発的な仕草に眩暈がしてしまう。
「それで答えは?」
「あ、赤だ。一度言った答えは変えない」
「男らしい返事じゃ。それでは外れたら背中でも流してもらおうか」
余裕ぶった態度で柘榴は飛んでもないことを言い放った。
「ええっ!?」
それは赤で正解だからそんなことを言ったのだろうか。
思わず喉が鳴りそうになる。
「今なら答えを変えても構わぬぞ」
「あ、赤だ」
一瞬だけ心が揺れたが答えは変えない。
「そうか、そうか」
混乱する俺を見て柘榴は愉快そうに頷いていた。
若い女の姿になって気持ちまで若返ったみたいだった。
「女性が向かい合っていると華があるよなぁ」
外に出ると柘榴とロココは模擬戦用の木の棒を持って向かい合った。
以前なら男臭い対決だったが、今の可憐な姿だと目の保養になる。
凛とした佇まいが美しい。
最初に動いたのはロココだ。
男だった時と遜色のない素早さで棒を振るう。
赤褌では目で追うのがやっとだ。
一般の兵士では棒が消えたように錯覚するだろう。
「ああ、惜しいな」
ロココの棒を受け止めた柘榴の体が浮いた。
体重が軽くなった影響だろう。
ヒラリと赤い布が揺れたので、期待してしまった。
「もっと重心を下げねばいかんようじゃ」
カンカンカンと棒が何度も打ちつけ合う硬い音がする。
ロココが苛烈な攻撃を行っているが、流れる水のように柘榴は受け流していた。
「ロココ、頑張れーっ」
早く正解が知りたい。
俺の応援でロココは本気になった。
柘榴を翻弄しようとロココが分身したように動く。
「ほっほっほ、その年齢で大したものじゃわい」
棒が分裂したように四方八方から襲いかかったが、柘榴は涼しい顔で相手をしていた。
もちろん柘榴も動いているのだが、魔術でも使っているように腰から赤い布が離れない。
いくらロココに槍の才能があっても、年季が違い過ぎる。
それに柘榴が女になっても体格はロココよりもいいのだ。
速さならロココが上回るだろうが、小さな体では全力は長続きしない。
「はぁはぁはぁ、お姉ちゃん、強い」
喉が渇いた犬のようにロココは舌を出して荒い息を吐いていた。
「ロココのお陰で体の感覚は掴めてきたぞ」
模擬戦が終わると熱気で柘榴の顔も上気していた。
桃色の唇から吐き出す息が白い。
すらりとした首に汗の滴が流れていた。
赤いウロコに覆われた厳めしい顔なら気にもしなかったが、今の白磁のような肌では頬がピンク色に染まっているのがよくわかる。
色気が増していてたまらない。
汗の臭いさえ甘く感じて、鼻の穴が大きくなりそうだ。
ブサメンがますますブサイクになりそうだった。




