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35.女子会

「背が低くなったせいで感覚が掴みにくいわい」


 柘榴シーリオは壁に手を当てながら玄関まで歩いていた。

 身長が頭一つ分以上縮んだのだ。


 目線が下がったことで周りのものが大きく感じる。

 自分の体をまだ把握してないので、距離感がおかしかった。


「太郎の靴を貸してもらうとしよう」


 金剛力を発揮しやすくなるように太郎は靴を履かない。

 借りてしまって問題ないだろう。


 今なら身長は同じくらいだ。

 そんなに足のサイズは変わらないと思って、玄関にあった運動靴に足を入れた。


「おやブカブカじゃのう。思ったよりも違うんじゃな」


 予想と違って、太郎の靴は柘榴シーリオの足よりも一回りは大きい。

 男と女では思ったよりも足の筋肉の厚みが違うようだ。

 今までは柘榴よりはるかに小さかった太郎が大きくなったように感じられる。


「気をつけないと靴がすっぽ抜けそうじゃ」


 いつもの歩幅で歩こうとすると、股を思いっきり開かないといけない。

 それに股間の重りがなくなったせいで重心が変な感じだった。


 何しろ千年も共にした相棒が綺麗さっぱり消えてしまったのだ。

 下着を履いていないこともあって、シャツから風が入ると股間がスース―して落ち着かない。


「まさか女になるとはのぅ」


 太郎のことは好きなので何でも望みは叶えてやりたいが、まさか自分が理想の女の姿になってしまうとは思わなかった。


 柘榴はモジモジと太ももを擦り合わせた。

 柔らかい脂肪が乗った太ももの感触に慣れない。


 少し動いただけで丸い膨らみが揺れるというのも変な感じだ。

 全身の肌が敏感過ぎてムズムズする。


 今までなら全身にウロコがあったので鉄のように硬かった。

 太郎の前では気を張っていたが、無防備になったようで心細い。

 細長い尻尾が不安定に揺れていた。


「なんじゃロココよ。102号室から行くのではないか」


 ロココとラピィの三人で太郎の部屋から出てきたが、てっきり女性用の下着を探すのは隣の部屋からだと思っていた。


「うん、まずはラピィの部屋から。柘榴シーリオとは話したいこともあるからね」


 いつもに比べてロココの声が固い。

 何となく無愛想な感じだ。


「喋り方はそんなに違わないのに、声が綺麗すぎておかしな感じがするよ」


 ラピィは肩を竦めて苦笑していた。

 柘榴から言わせればラピィの声もだいぶ変わったと思う。


 太郎はあまり気にしてないようだが、ヒゲがなくなった当初は子供っぽい感じだったのに、今は声の響きがもっと優しくなった。


「用心しておるな」


 106号室に入るとロココが部屋に鍵をかけた。

 普段は誰でも出入りできるよう鍵はかけてなかったのだ。


「お兄ちゃんには絶対に話を聞かれたくないからね」


 太郎が聞き耳を立てても間に一部屋挟んでいるので声は届かない。


「秘密話というわけか。そういえば、この三人だけで話すのは珍しいのぅ」


「これからについて相談したいの」


 リーダーである太郎だけいないというのも不思議な感じだ。

 太郎には不器用なところがあるので、誰かしら近くにいて見守りたくなる。


「ねぇ、本当に女になったの? ちょっと触らせて」


 ロココがプクッと頬を膨らませて拗ねた顔をしていた。

 目を半開きにしたジト目で柘榴の胸を見ている。


「オイラも触りたい」


「もちろん構わぬよ。女装をしていてもラピィは男というわけじゃな」


「いや、本物なのか調べたいだけで、女の体には興味ないね」


 ラピィは変なことを言うと思いながら、自由に体を触らせた。

 仲間というより家族みたいなものだ。

 それに千歳ともなるとこれくらいで恥ずかしいとは思わない。


 まずロココが柘榴の股間をパンパンする。

 もちろん出っ張りなんてない。


「本当にない」


「うわ、ホント真っ平らだ」


 女になっているのを確かめて二人が唖然とする。

 ロココなんて顔が青ざめていた。


「こ、今度はこっち」


 焦りを隠せない顔で今度は柘榴の胸を二人が触ってきた。

 大きな二つの山が色々と形を変える。


「うわぁ、すっごいボリューム。私の手には入りきれない。とても勝てないよ」


「偽物では考えられない感触だね」


「そんなに触られるとくすぐったいのぅ」


 喉から艶やかな笑い声がこぼれてしまった。

 柘榴の甘い声を聞いて、ロココやラピィが頬を染める。


「はう、声だけでメロメロになりそうだよ。歌姫って感じ」


「女に興味がないオイラでも反応しそうだった」


 ラピィはスカートを手で押さえて恥ずかしそうにしていた。


「私がお兄ちゃんのお嫁さんになると思っていたのに悔しいな。今の私では柘榴の魅力には勝てそうにないよ」


 ロココが唇を噛んで悔しそうな顔をする。

 そんな顔をしてもロココは愛らしい。

 年相応の少女の可愛らしさというものが滲み出ている。


 男だった柘榴には真似できないものだ。

 年長者としては庇護欲を誘われてしまった。


「お主はどんな顔をしても愛らしいのぅ。つい撫でたくなるわい」


「うわぁ、手がスベスベして柔らかーい」


 ロココの頭を撫でると猫みたいに目を細めて表情を緩めた。

 顔を柘榴の膝の上に乗せるとスリスリと頬を擦りつけてくる。

 母親に甘える子猫みたいだ。


「うぅ、こんなことされるとお姉ちゃんって呼びたくなる」


「ほう、それはいいのう。わらわもそう呼ばれたい」


 毎日お姉ちゃんとして扱われていれば、心も女に傾いていくかもしれない。


「心まで女にする協力なんてしたくないけど、お姉ちゃんの包容力は桁違いだよ。これが年の功ってやつ?」


「妾は永遠の十七歳じゃぞ」


「姿についてはそれが嘘じゃないところが柘榴のズルいところだよ。まさか一足先にオイラより女になるとは思わなかった」


「一足先にとはどういう意味じゃ?」


 その言い方ではラピィも女になりつつあるように聞こえる。


「その恰好はあくまで女装なのであろう」


「アニキにはまだ黙っていて欲しいんだけど、オイラの体も女に近づいているのさ。若返ってヒゲがなくなったと思ったけど違ったみたいだ」


 神官であるにも関わらず勇者のお見合い相手の振りをしたことで、エイルが下した天罰は女性化だったらしい。

 勇者に生涯仕えろという婚姻も司るエイルの意思ではないかという話だった。


「まだ小さくても男の証はあるけどさ。このところ腹の中がおかしいんだよね。リフレッシュをかけても効かないしさ」


 ラピィが苦しそうに腹を押さえる。

 そこは女性なら大切な臓器がある場所だ。


「つまり太郎以外の全員が女性になってしまうというわけか」


「私は最初から女だよ。そりゃ父様の姿はしてたけど」


 女性になったと言われて、ロココが不満そうな顔をする。

 だが、太郎の立場から考えれば、ロココも青年から女の子になったようなものだ。


 まさか男臭いパーティだと時々ぼやいていた太郎が思いもしなかった展開だろう。

 そう思うと自然に笑みが浮かんでしまった。

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