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30.孤児院で餌付けする

「お兄ちゃん、教会に寄ってもいい?」


「そのジャガイモをあげたいのか」


「うん、寄付もしていきたいの」


 ロココは袋に入れたジャガイモを背負っていた。

 ラピィと比べると俺は適当に選んで持ってきたので、芽が出たり皮が緑色になったりしたジャガイモがあったのだ。


 そんな部分を取り除かないで食って食中毒を起こす人が出ても困る。

 騒ぎになると困るので売らなかったのだ。

 そのジャガイモをロココは教会が運営している孤児院に持っていこうとしていた。


「……寄付をするなら無理しない金額にするんだぞ。それにジャガイモをあげるなら俺たちで食事の用意をしよう」


 小さな女の子が寄付をするというのは好ましいとは思わないが、賭け事で勝ったあぶく銭の使い道としてはありかもしれない。


「いいの?」


「ああ、今日は教会に泊まろう」


「お兄ちゃん、ありがとう」


 ロココが甘えてグリグリと俺の太鼓腹に頭を押しつけてくる。

 銀色の髪を撫でてやるとロココはニヘラっと締まりのない笑みを浮かべた。




 寄付をすれば誰でも教会に素泊まりできる。

 もちろん宿屋と違ってベッドなんかない。


 礼拝堂の冷たい床で横になるだけだ。

 雨風を防げるだけ野宿よりましといった程度だ。


「すいません」


 慈愛の神の教会で声をかけると見習いっぽい少女が出てきた。

 栗色の髪で顔にはそばかすがある。

 ロココよりちょっと年上な感じだ。


「神官さんはいないのか。寄付をするから泊まらせて欲しいんだ」


「わたしがこの教会を守っているフロワといいます」


 話を聞いてみると、どうやら浄化の術を使える神官はあちこちに駆り出されて忙しいらしい。

 結果として見習い神官が教会に派遣されたようだ。


 それにしたって中学生くらいの女の子に教会を守らせるなんて人手不足もはなはだしい。

 年老いたシスターが補佐しているようだがそれにしたって大変だろう。


「頑張っているんだな」


 ついロココを相手にするように頭を撫でてしまった。

 どうもロココの正体を知ってから、俺は健気な女の子に弱くなったらしい。


 ブサメンに触られてもフロワは戸惑いながらも大人しく撫でられていた。

 とても良い子だ。


「孤児院にも芋を持ってきたんだ。ただ珍しい芋なんで調理させてもらいたい」


「それはありがたいのですがあまり薪がなくて」


 これから冬に向けて薪の無駄遣いはできないのだろう。

 フロワは申し訳なさそうな顔をした。


「それはこっちで何とかするから台所だけ貸してくれ」


「わかりました」


 台所には火の気はない。

 かまどに入っているのは燃えカスばかりだ。

 本来なら食材を保管しているツボにも何も入っていなかった。


「これくらいの手助けならいいか」


 パンと手を叩いてから握り拳を作る。

 ザーッと手から白い粒が流れ落ちた。

 しばらくするとツボは塩で満たされていた。


「ジャガイモを剥いたらお兄ちゃんに渡していくね」


「蒸し焼きにするのは任せてくれ」


 ロココがナイフで芽や緑色になった皮を取り除いていく。

 俺がやったらジャガイモは原型を留めないので適材適所というやつだ。


 水で手を濡らして皮が剥かれたジャガイモを両手で包む。

 白炎を発生させると水が蒸発して湯気が立ち昇った。


 十分に熱が通ったところで木の大皿に乗せていく。

 最後にパラパラと塩を振りかければ完成だ。

 食事ができたところで教会の横に建てられた孤児院に持っていく。


「獣っ子が意外と多いな」


 孤児の数は10人くらいだ。

 人間の孤児ばかりだと思ったが、半数くらいは獣人だ。

 獣人の男は大人になるとごつくなって暑苦しい見た目になるが、子供の時は小動物みたいで愛くるしい。


 モフモフとした毛を見ると無性に撫でたくなる。

 ロココを毎日のように撫でているうちに俺はモフモフ中毒になっていたようだ。


 モコモコとした毛が生えた耳や尻尾を見ると手が震えてしまった。

 子犬や子猫を可愛がりたくなる気持ちと同じはずだが、フンドシマントが獣っ子に目の色を変えるのはやばい光景だ。


 そんな俺の様子を気にすることなく、子供たちは食事にしか目が向いていない。

 山盛りになったジャガイモを見て目を輝かせている。


「この恵みをもたらした神と客人に感謝を」

「うわぁ、ホクホクしてうめぇ」

「こんなに食べられるなんて久しぶり」


 夕食が始まると子供たちは競うようにジャガイモの山に手を伸ばす。

 満足な食事が得られていないようだ。


 かなりのジャガイモを用意したのだが、あっという間に子供たちの胃袋に消えていく。

 まだ物足りなさそうにしている子もいた。


「俺のところに来ればおやつもあるぞ」


「あいつってやばくない」

「怖い、怖いよ」

「でもまだ食べたい」


 ハァハァと息を荒げるデブを子供たちは遠巻きに見ている。

 だが、おやつという言葉には逆らえなかった。


「はい、口を開けて」


 芋団子を食べさせるとみんなトローンとした目つきで大人しくなってしまう。

 甘えるように俺に体を擦りつけてきた。

 砂糖の威力は絶大だ。


 羨ましそうに見ていたフロワの唇にも芋団子を押しつける。


「ふわああぁ、幸せの味です」


 両頬を手で押さえて目をウルウルとさせて悶えていた。

 見習い神官とはいえ子供は素直なのが一番だ。


「くっ、オレはそんなものには屈しない」


 と最後まで抵抗していた獅子獣人のレオ君も芋団子の魅力を知ってしまえば、俺の膝の上で丸まって猫のように撫でられている。

 ロココとは違う尻尾の感触が楽しい。


「もうお兄ちゃん、私の尻尾で満足してよ」


 あとで拗ねたロココにパシパシと尻をはたかれてしまった。

 鞭のように銀色の尻尾がしなる。


 思わずブタみたいな声が出そうになる。

 危うく変な趣味に目覚めるところだった。


「悪かったよ」


 ロココの口にも芋団子を持っていくと指ごと口の中に入れられた。

 ヌルッとした感触がして、指についた粉さえ綺麗に舐め取られてしまった。


 団らんの時間が終わって礼拝堂に行くと隙間風がヒューヒュー入ってくる。

 金剛力で守られているとはいえ、風が当たれば少しは冷たい。


 田舎の教会では寄付を募るのも大変なようだ。

 修理をする余裕がないのだろう。


「こうすれば暖かいよ」


 ロココが俺の毛布に入ってギュッとしがみついてくる。

 尻尾がくるりと俺の体に巻きついてきた。

 ロココの体温と毛皮の匂いを感じながら俺は眠りについた。

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