29.ちょんまげヘアーの流行
「まだ夕方まで時間があるな。寄り道でもしながら冒険者ギルドに行こう」
「私は布を染める染料が欲しい」
今日はこの町の宿屋で一泊して翌朝早く出発するつもりだった。
リヤカーに荷物はないので駆け足ならば明日の夜には帰れるだろう。
ラピィは一足先にアパートに戻るということなので別れた。
「どの野菜も干からびた見た目だなぁ」
露店では大根や白菜に似た野菜が売っていたが、あまり見た目は良くない。
生で食べるとえぐみがあるので、必ず火を通す必要がある。
どうしても瘴気の影響が出てしまうのだ。
こんな作物ではろくに栄養もないだろう。
人が痩せているわけだ。
「こういうのを見ると多少は手を貸したくなるけど……」
俺が心から呼びかけなければ金剛布は力を貸してくれない。
心に迷いがあるうちは土地の浄化は難しいのだ。
混沌の眷属や魔物を倒している時の方が話は簡単だった。
俺や仲間の命を守る為には力を振るうのは当然だからだ。
ロココが染料を欲しいということなので、露店ではなく服を売っている店に寄ってみた。
主に売っているのは古着だったが、布や糸、染料といった服に関するものなら扱っていた。
「服ってこんなに高かったのか」
「お兄ちゃんは服を買わなかったからね」
俺はずっと赤褌か白い廻しだったので、服の世話になることはなかった。
服の値段を見て思った以上に高くて驚く。
どうも日本の量販店で売られている服のイメージが染みついている。
高いとは思っていたが、農民が着るような安っぽい服でも日本の十倍以上だった。
これでは冬に凍死者が出るのも当然だ。
「思ったよりも染料になる根っこが高いね」
「このところアマレロ山であまり植物が採れないんですよ。黒い雨が降ったわけでもないんですけどね」
店員によると、近場にあるアマレロ山では薬草や有益な植物が採れるのだが、このところ草木に元気がないらしい。
それで値段を上げているという話だった。
「アカネとアオネ、キイネを貰おうかな」
多少は高くなっているとはいっても、糸や布の値段ほどではない。
ジャガイモを売ったロココのお小遣いで買える範囲だった。
根っこをぬるま湯に入れると、染料となる液体が滲み出てくる。
それを使って糸や布を染めるということだった。
「これで色んな服が作れるね」
染料の色を混ぜれば、赤や青、黄色以外の色も作り出せる。
服を作るのが楽しみなようでロココはパタパタと尻尾を振っていた。
ハウンドの皮を売る為に冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの建物は西部劇に出てくる酒場っぽい感じだ。
実際に酒場も併設されている。
「あまり来たいところじゃないんだよなぁ」
中に入ると荒くれ者といった感じの冒険者が多い。
どうも強面の連中がいるところは苦手だった。
中学の時にいじめられたことがあるからだ。
俺の方を見るなと思うんだが、小さな女の子を連れているせいかやけに視線を集めてしまった。
冒険者連中は夕方にはまだ間があるのにもう酒が入りまくっている。
大声で騒いでいた。
「……あの髪型はどうにかならないのか」
「お兄ちゃんを真似したんじゃない」
ギルドにいた冒険者の半数近くがちょんまげヘアーをしていた。
思わずため息が出た。
五年前はあんな髪型をする奴はいなかった。
世界を救った勇者の髪型を真似ようとちょんまげヘアーが冒険者の間で流行っているらしい。
俺が髪を縛っているのは単に髪を切るのが面倒なだけだ。
正直いたたまれない気持ちになった。
「ちょんまげが似合うのはお兄ちゃんだけなのにね。みんな、格好悪い」
「いやそれはどうだろ」
ロココが威張ったように言ったが、全く褒められた気がしない。
俺が苦笑していると、
「おいおい、お嬢ちゃん。俺らちょんまげブラザーズに喧嘩でも売っているのか」
思いっきり酔っ払っている五人組が俺たちを囲んできた。
ちょんまげブラザーズというのはパーティ名らしい。
正直あまりのダサさに耳を塞ぎたくなった。
「だって事実だもん。お兄ちゃんには誰も勝てないよ」
「はっ、こんなチビでデブの兄ちゃんに何ができるんだよ」
「それじゃお兄ちゃんと勝負してみる? 負けたらちょんまげを切ってよ」
どうもロココは俺以外の人間がちょんまげヘアーをしていることが気に入らないらしい。
主人以外には懐かないワンコみたいだ。
「いいぜ、その代わりそっちが負けたらちょんまげは切ってもらうからな」
ちょんまげヘアーにはこだわりはない。
だが、ロココは主人に期待する子犬の目で俺を見ている。
それを裏切るわけにもいかない。
俺だって女の子にはいいところを見せたいという見栄がある。
「それじゃ俺と腕相撲の勝負をしようか」
「構わないぜ」
物見高い連中が腕相撲をするテーブルに集まってくる。
娯楽が少ない世界なので、どちらが勝つか賭け事まで始まっていた。
何人俺が勝ち抜けるかだ。
たいていは0で1や2が少しいるだけだ。
どうも俺には強者の雰囲気というものがないらしい。
「おいおい、これじゃ賭けが成立しないぞ」
「……お兄ちゃんが全員に勝つにお小遣い全部」
「お嬢ちゃん、気前がいいな」
「そうかな?」
ロココが渡した袋の中身を胴元が確認して、賭けが成立することになった。
気前がいいと言われたロココはきょとんとしている。
俺が負けるとは微塵も疑ってない。
「5割くらいの力で相手をしてやるか」
俺はマントが腰巻きになるように上半身を曝け出した。
さすがに廻しまで見せたら面倒くさいことになるだろう。
小男の俺が筋肉でムキムキの体を見せたことで、対戦相手は怯んでいた。
「おーっ、すげぇ体しているよ」
「これは勝負の行方がわからないんじゃないか。面白くなってきた」
盛り上がりに欠ける勝負だと思われていたのだろう。
俺が太い腕を見せたことで観客のテンションが高くなる。
一気に歓声がヒートアップした。
「よっと」
腕相撲の勝負が始まってあっさりと1人目が沈む。
「おいおい、酔っぱらい過ぎだぞ」
「もっと気張れよ」
観客が騒いだが、2人目、3人目もあっさりと負ける。
正直5人目まで楽勝だった。
俺があまりに強いので、観客がどんどん静かになる。
「あちゃぁ、お嬢ちゃんの一人勝ちかぁ」
「ん、私は全員って言ったよ。酒場でちょんまげしている人全員」
「なんだって!?」
「え、そうなのか」
ロココの言葉に胴元が驚く。
俺もビックリだ。
てっきりちょんまげブラザーズの相手をすれば終わると思っていた。
だが、勝負は続いていると知って、また観客が盛り上がる。
面倒だなと思いつつもどんどんちょんまげヘアーの男たちの相手をした。
「おいおい強すぎだろ。あいつってアレだよな」
「ああ、きっとアレだよ。俺もちょんまげヘアーにして相手してもらってくる」
おかしい。
最初にいたちょんまげヘアーの数より増えている気がする。
野郎だけではなく女性までちょんまげっぽくして俺に挑んできた。
わけがわからない。
そんなに金を賭けたのだろうか。
受付のお姉さんまで飛んできた。
握った手が柔らかいので、危うく負けそうになった。
ちょっとロココがむくれていた。
「これで全員の相手は終わったよな。はぁ、疲れた」
女性の相手までするとは思わなくて、変に疲れてしまった。
あとはちょんまげを切るだけだ。
ずらっと俺の前に並んでいる男女を見ると眩暈がした。
めんどうくせぇ。
「ありがとうございまっす!」
「おつかれさまっす!」
バッサリとちょんまげブラザーズのちょんまげを切る。
体育会系のノリで頭を下げられた。
おいおい、ちょんまげはお前らのアイデンティティじゃなかったのか。
野郎のちょんまげは容赦なく切ったが、女性については髪を結んだ紐だけを切った。
さすがに女性の髪まで切るのは申し訳ない。
俺はデブでも紳士なのだ。
ちょんまげを切ってしまうと冒険者連中はだいぶすっきりとした髪になっていた。
「ハウンドの皮は私が売っておいたよ。やっぱりちょんまげが似合うのはお兄ちゃんだけだね」
ちょんまげを切り終わって冒険者ギルドを出るとロココが手を握ってきた。
興奮しているようで手が温かい。
ご機嫌な様子でブンブンと手を振っていた。
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