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26.ボス羊との戦い

「黒羊の群れを見つけたよ」


 ロココの言葉に七龍チーロンが金色の瞳を細めて遠くを見る。


「さすがにロココは見つけるのが早いのぅ」


「えっと、どれだ」


 俺も七龍チーロンが見ている方向をじっと見詰めたが、空気に黒い染みが混じっているようにしか思えない。

 黒い染みが動いているのがわかって、ようやく黒羊だと確認できた。


「ロココの目は獲物を逃さなくて凄いな。俺にはまるでわからなかった」


「フフッ、狩りは任せて」


 俺が褒めるとロココは自慢そうに尻尾をパタパタ振る。


「それじゃ七龍チーロンには黒羊を捕まえる罠をお願いするね。私が追いこむから」


「うむ、呪縛陣を用意するかのぅ」


 呪符を四方に設置して、七龍チーロンが罠を発動できるようにする。

 七龍チーロンは俺よりもはるかに背が高いというのに全く足音を立てない。

 空気に溶けこむようにして歩いていた。


 俺は迷惑にならないよう大人しく体育座りをしていた。


「それじゃ行ってくる」


 ロココが一陣の風のように駆け抜ける。

 小さな繁みを利用して上手く姿を隠しながら移動していた。

 あっという間に豆粒のように小さくなった。


 黒羊の群れを通り過ぎて向こう側に行ったところで、


「ウォオオオォ! ワオオォォン!」


 小さな少女が出したとは思えない狼の鋭い吠え声が響いた。

 魂が凍えるような威圧感があって、それだけで気を失う臆病な羊もいる。

 俺も一瞬だけ背筋が寒くなった。


「一匹だけ逃げてないな」


 罠に向けて黒羊の群れが駆けてくるが、一匹だけロココと対峙している。

 どうやら黒羊のボスらしい。


「かなり大きいみたいだな」


 ロココが心配になって俺はドタドタと走った。


「私から逃げないなんて大した度胸ね。お肉にしたら食いでがありそうだけど」


 ボス羊は並の羊の三倍ほどの大きさがあった。

 軽くロココの身長を凌駕していた。


 瘴気の影響で動植物は弱ることが多いが、ごくまれに突然変異を起こす個体がいる。

 たいていは巨大化や狂暴化していて危険だ。


 このボス羊も草食獣とは思えないほど凶悪な面構えをしていた。

 頭から二対の螺旋を描いた角が長く伸びている。


 この角で今まで肉食獣を退けてきたのだろう。

 それでもロココは不敵な表情で槍を構えていた。


「やあぁああ!」


 羊が振り回してくる螺旋角をロココが軽快な槍さばきで弾く。

 カンカンという硬質な音が鳴り響いた。


 ロココの素早さに翻弄されてボス羊は的を絞れない。

 かなり苛立っているようで大ぶりで頭を振ってきた。


「そこ!」


 それを狩人が見逃すわけがない。

 軽い身ごなしで角を潜り抜けると、ロココは心臓を狙って槍を突き出した。


「……ウソ、刺さらない」


 必殺の槍は分厚い羊毛によって防がれていた。

 父親の膂力があれば一撃で倒すのも可能だっただろう。


 だが、今のロココでは力が足りない。

 それがロココの読みを外す結果になった。


「くうぅ」


 槍を絡め取ったままボス羊が走り出す。

 ズルズルと引きずられてロココは地面に転がった。


「危ない!」


 倒れているロココにボス羊が頭を低くして突っ込んでいく。

 あの尖った角に刺されたら小さな女の子ではひとたまりもない。


 ロココのピンチに金剛力が足で爆発して、凄まじいスピードを生み出した。


「うちのロココに何しやがる!」


 ボス羊の突進に横入りすると、太く鋭い螺旋の角を受け止めた。

 俺が激しい感情を持つことによって、金剛力は強い力を発揮する。


 白い廻しでも十分に力が漲っていた。

 腕や足の筋肉が膨張して丸太のように太くなっている。


「メッ、メッメェェ!」


 ボス羊が蹄で土を蹴ろうとするが、その巨体は少しずつ持ち上がっていった。

 空中で蹄が虚しく空気を蹴る。


「どっせえぇぇ!」


 そのまま持ち上げて角が折れる勢いで地面に叩きつける。

 両方の角を叩き折られたボス羊は強烈な衝撃で泡を吹いていた。


「お兄ちゃん、やったね」


 助けられたロココが俺に抱きついた。

 興奮しているようでペロペロ顔を舐めてくる。


 生温かい舌が動きまくって、顔がベチョベチョになってしまった。

 狼というよりワンコっぽい。


「それじゃロココにトドメは任せるよ。俺だと力が入り過ぎて悲惨なことになりそうだ」


「うん、任せて」


 ロココが槍をボス羊の頭にかざすと、


「メッ、メッ、メエェェ」


 哀れな声で鳴きながら、ボス羊が後ろに寝転んで腹を見せてきた。

 凶悪そうな面構えは消え去り、哀願するような目だった。


「お兄ちゃんに降参したみたい」


「メッメッメ」


 頷くように首を振っていた。

 巨大化するだけでなく羊にしては賢くもなっているようだ。


「命乞いされても俺たちは毛と肉が欲しいんだが」


「メッメッメエエェェ!」


「助かる為ならどんなことでもするみたい」


「……お前にはボス羊としてのプライドはないのか。逃げたら肉にするぞ」


 呆れてしまったが憎めない羊だ。

 俺たちに危害を加えないことを約束させると、ボス羊を連れて帰ることにした。

 草がたくさん食べられるなら喜んで飼われるらしい。


「こっちは上手く捕まえられたわい」


 七龍チーロンのところに戻ると、五匹の黒羊が呪符で眠らされていた。

 肉にする羊以外はすぐに羊毛を取るわけにはいかないが、牧羊が成功すれば乳や毛が取れるようになる。

 これで今までより生活が充実するだろう。

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