25.狩りに出かける
小さい女の子がデブと一緒に生活するのも気詰まりだろう。
そう思ってロココには102号室を与えたが、俺の部屋に入り浸っていることが多い。
朝起きたら隣で寝ていてビックリしたこともある。
狩りが巧みなだけあって気配を消すのが上手いのだ。
「俺の布団はそんなに柔らかくないし臭いだろ」
せんべい布団なのでもう綿が効いていない。
ラピィが見かねて布団を洗濯してくれたが、デブの臭いは染みついている。
千晴ちゃんの布団で寝た方がよほどいいと思うのだが、結構な頻度でロココは俺の布団に潜りこんでいた。
「ううん、お兄ちゃんの臭いは安心できるから」
「参ったな」
無垢な笑顔で言われたらダメとは言えない。
俺はデブでも紳士だ。
ロココの小さな体に手を出すはずもないが、銀色の尻尾はモフモフしたくなる。
絶妙な触り心地で毛がフカフカなのだ。
「このところ寒くなってきたからなぁ」
秋が深まってきた。
赤褌をしている時は神仏の加護であまり気にならないが、風呂上りには寒さを感じることもある。
そんな時に暖かそうな尻尾が目の前で揺れていたら、顔を埋めてその感触に浸りたくなってやばい。
あれは魔性の尻尾だ。
「何を読んでいるんだ?」
今日もロココは俺の部屋で本を読んでいた。
てっきり102号室から持ってきたのは絵本かと思ったが、
「これ。色んな服が載っていてワクワクするの」
表紙を見ると子供服の雑誌だった。
千晴ちゃんのお母さんが購読していたのだろう。
ロココは一ページずつ食い入るように見ている。
尻尾がゆっくりと揺れていた。
「暖かそうな格好だな。ロココも風邪には気をつけろよ」
秋から冬の服の特集のようで、モデルの子供たちが着ているのは暖かそうな衣服が多い。
耳まですっぽり隠すモコモコとした帽子やフワフワの手袋、セーターなんかが掲載されていた。
「私もこんな服を作ってみたい」
「この辺の防寒着は毛皮が使われていることが多いよな」
貴族であれば毛皮のジャケットやコートを着る。
セーターみたいな服はあまり見たことがない。
平民は麻の服の重ね着だ。
この世界でも牧畜は行われているが、さほど盛んではない。
餌となる植物を確保するのが大変だからだ。
「ロココは服屋さんにでもなりたいのか?」
「服屋さんもやってみたいけど、子供たちが心配なの。みんな冬は我慢しなくちゃいけないから」
シュンと耳が伏せられる。
「このお人好しワンコめ」
「きゃう」
俺はロココの鼻を軽く指で弾いた。
子供を心配するのは大人の役目だ。
小さな女の子が気遣うことではないと思うのだが、筋金入りのお人好しだ。
苦笑してしまうが、俺もロココの優しさに救われたのだ。
あまり文句を言える立場ではない。
「それでね。野生の黒羊を狩りに行きたいの」
「そりゃロココの狩りの腕前は知っているけどさ」
青年ロココと二人旅だった時は狩りでお世話になりまくりだった。
俺が役に立たないので、青年ロココが一人で狩りをすることもあった。
だが、今の小さな女の子の姿で「はい、いってらっしゃい」と送り出すわけにもいかない。
心配になって夜も眠れなくなってしまう。
「黒羊が獲れたら肉が食べられるよ」
畑で取れる野菜の種類は増えた。
食生活はましになったが、このところ肉は食べていない。
羊の肉は臭みがあって好きではないが、今なら調味料が揃っている。
ラピィに任せればうまく料理してくれるかもしれない。
「そうだな。狩りではあまり役に立たないかもしれないが、俺もついていっていいか」
「お兄ちゃんが一緒に来てくれるなら大歓迎だよ」
俺の提案にロココが太鼓腹をギュッと抱き締めてくる。
フワフワの耳が当たってくすぐったい。
外出はあまり好きではないが、小さな女の子に頼られると頑張りたくなる。
これも父性愛だ。
ラピィや七龍に狩りに行くことを相談すると、
「狩りをするのもいいけど、数匹捕まえてきてよ」
ラピィが面倒そうなことを言い出した。
思わずダルそうな顔になる。
「アニキがやたらと土を掘り返したから雑草が生えまくりなんだよ。このままだと草ボーボーになっちゃうよ」
「うぐっ」
「だから羊を放し飼いにして草を食べてもらおうと思ってさ」
確かに作物が植えられていない畑は草の丈が高くなっていた。
その光景を見せられると俺も嫌とは言えなかった。
畑の管理はラピィに任せて、今回の狩りはロココと七龍の三人で行くことになった。
「それではワシはついていくか。歌ばかりでは体が鈍るからのぅ」
そんなことを言っていたが、七龍は朝の鍛錬を欠かさず行っている。
何かあった時の用心で助っ人として来てくれたのだろう。
俺も七龍がいると心強い。
もちろん仲間に頼るだけではなく俺は白い廻しを締めていた。
それに黒羊を捕まえた時の為にリヤカーを引っ張っていた。
途中で枯れ木や枝を見つけたらリヤカーに積んでおく。
枝は焚火を起こすのに必要だし、枯れ木は加工すれば様々な使い道がある。
管理されている森林でなければ、木材を集めるのは難しいのだ。
「だいたいこの辺りの土地で草を探してうろついていることが多いみたい」
一日かけてまばらに草が生えている平野に辿り着いた。
獲物がいる場所をロココは熟知していた。
父親から教わったのだろう。
もちろん羊がいるということは、野性の肉食獣もいるということだ。
俺たちはハウンドと呼ばれる凶悪な野犬の群れに襲われた。
「ほっほっほ、これでは準備運動にもならぬぞ」
七龍は金属の棒を軽々と振り回して、ハウンドの頭を一撃で粉砕していた。
呪符を使うまでもないようだ。
ロココも身軽な動きでハウンドの牙や爪をかわして、心臓に槍を突き刺している。
どちらも熟練した身の動きだ。
混沌の怪物を倒した実力は確かなものだ。
瘴気で魔物になった生物ならともかく、野犬の群れくらいなら相手にもならない。
「うおりゃぁぁ!」
俺も張り手だけで何匹かハウンドを仕留めたが、力が入り過ぎて死体がグチャグチャになってしまった。
いつでも全力といえば聞こえはいいが、力加減が下手なだけだ。
「お主はジャイアントキラーだからのぅ」
ロココや七龍が倒したハウンドの死体は傷が少なくて綺麗なものだ。
これなら肉や皮を利用しやすい。
ハウンドの死体は七龍が道術で異空間にしまっていた。
異空間収納は非常に便利な術だが、東方の島国でも使い手は少ないらしい。
七龍は楽々と使っているが、本来ならかなり精神力を消耗するようだ。
ただ異空間には空気がないらしく生物が生きられない。
その代わり腐るのは遅いようだが。
その日の夕飯は俺が倒したハウンドの肉だった。
「久しぶりのお肉だーっ」
「硬い肉だなぁ。ハンバーグが食べたい」
狼の血が流れるロココは肉を食べられるというだけで喜んでいたが、ハウンドの肉は筋張っていて硬かった。
それに内臓まで傷つけてしまったせいで肉が臭い。
臭みを消す為に塩を使ったせいか、やけに口の中がしょっぱかった。




