23.裏山に登ってみる
俺の膝の上でロココは「どんぐりころころ」を歌っていた。
手には102号室で見つけた色んな種類のドングリが乗せられている。
千晴ちゃんの宝物だったのだろう。
「ドングリ拾いか」
日本人なら幼い頃に公園や雑木林でドングリを拾い集めた経験があるだろう。
秋の風物詩だ。
ドングリに爪楊枝を刺してコマにして遊んだこともあるはずだ。
皮を剥いてついパクッと食べて渋いと思ったこともあるかもしれない。
「森に行ってもあまりドングリが落ちてないのは残念」
瘴気の雲が薄い場所ではそれなりの広さの森や林がある。
そんなところは国や街が管理していることが多いが。
そんな広い森でも瘴気の影響で木々には元気がない。
異世界でもドングリが実る木はあるが小粒だ。
クヌギのドングリみたいに丸々とした実は見かけたことがなかった。
「試しに植えてみるか」
「いいの?」
ロココの耳がピンと立つ。
耳の内側に生えたフワフワの毛がピクピクしていた。
「色んなドングリを植えれば一つくらいは芽が出るだろうさ。ドングリが落ちるくらいに育つには時間がかかるだろうけど」
樹木の生育は遅い。
ジャガイモみたくすぐ収穫するのは難しいだろう。
「それにちょっと試したいことがあるからさ」
本当に俺の足跡が原因で植物の育ちがいいのか確かめておきたい。
それが実証されれば、ロココが大人になる前にドングリ遊びができる可能性もある。
ロココには一つでも多く子供らしい遊びを経験させたいのだ。
「それじゃ裏山まで散歩だ」
裏山というよりは丘だが。
「あそこは嫌な臭いがするよ。畑には植えないの?」
裏山までは浄化の力が届いてないので土がぬかるんで腐った臭いがする。
鼻が敏感なロココはシュンと尻尾を垂らした。
「俺の力を試しておきたいんだ」
それに畑に植えて木が育ち過ぎたら、管理をしているラピィに怒られそうだ。
「ちょっとロココと裏山まで行ってくる」
外で農作業をしていたラピィと七龍に声をかける。
もう家庭菜園ではなく立派な畑だ。
色々な作物が植えられてせっせとドワーフ五人衆が世話をしている。
「アニキが外出するなんて珍しいね。そんな何もないところに行ってどうするのさ」
「面白そうなことを考えてそうじゃな。ワシもついていくかの」
俺が何もない裏山に行くというのが興味を誘ったようで二人ともついてきた。
「うわ、この辺は全く人の手が入ってないから臭いが強烈だな」
道があるところは神官がしばしば浄化しているが、誰も来ないところは瘴気が蓄積したままだ。
「日が差すところからちょっと離れただけで臭いのぅ」
「オイラ、旅の間にこの臭いには慣れたと思ったけど鼻が痛いよ」
「うう……」
太陽が差してないところに入るだけで劇的に空気が変わる。
粘り気のある臭気が鼻を刺激した。
仲間たちは辛そうにしている。
ロココなんて涙目でずっと鼻を押さえていた。
空気の綺麗な場所で暮らしているので、みんな瘴気の臭いが強く感じられたようだ。
「こんな瘴気の臭いが濃いところで何をする気なのじゃ?」
「ドングリを植えるつもりなんだ」
「もちろんそのままでは育つわけがないから、アニキには何か考えがあるんだね」
山の頂上にどうにか到着するとロココの三角の耳がへにょんと倒れている。
頂上は臭いが一番きつい。
地面もドロドロだ。
足を取られて短足なラピィは大変そうだ。
「よし、いっちょ気合を入れるか」
ロココには七龍の後ろに隠れてもらって赤褌を脱ぐ。
旅をしている時、青年ロココには何度も裸を見せているので今さらかもしれないが。
いたいけな少女の視線に晒されながら裸になる趣味はない。
俺はデブでも紳士だ。
「うわぁ、うわぁ」
俺のフルチンなんて見慣れたものだろうにラピィが赤い顔をしていた。
わざとらしく手を顔に当てて、指の隙間からガン見している。
いや、女の子っぽい格好でそんなことされると、相手がラピィでも恥ずかしくなるだろ。
またからかっているのか。
「わざとらしいことするなよ」
「ちょ、オイラが預かるのかよ。参っちゃうな」
からかっていると思ってラピィに赤褌を渡すと、赤い顔がさらに赤くなった。
男同士なのに初心な女の子みたいな反応をされても困る。
やれやれと思いながら気合を入れ直した。
俺の気持ちが高ぶっていて心から望まなければ金剛布は呼び出せない。
ドングリ拾いで喜ぶロココの姿を思い描くと、心が温かくなって気力が漲ってきた。
「金剛おおおぉぉぉ!」
手の平を天高く掲げて思いっきり叫ぶ。
俺の呼び声に応えて、金剛布が暗雲を切り裂きながら現れた。
七色の光を放ちながらヒラヒラと舞い降りてくる。
太陽の光が頂上に差しこむと仲間たちがほっとした顔をする。
腐った臭いも薄れていた。
「ハアァアアァ、ハアァ!」
張り手を繰り出して体の調子を確かめる。
金剛力は体に満ちていた。
「よし!」
パンパンと二回柏手を打つ。
仏様に感謝の祈りを捧げると気持ちが引き締まった。
「アニキがいつもその顔をしていたら絶対にモテるよ」
「うむ、惚れ惚れとするような男前じゃ」
「うんうん、格好いい」
真剣な顔をすると仲間たちがはしゃいだが、意識を集中している俺には周りの音が耳に入らない。
気合が満ちたと思った瞬間、足が大きく持ち上がっていった。
「どすこーい!」
勢い良く地面に足を叩き下ろす。
地面がグラグラと揺れて金色の光が足元で炸裂した。




