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22.桃太郎は子供たちの人気者

 ジャガイモに押し潰されてピクピク悶えていた盗賊だが、芋団子を口にすると急に元気になった。


 目に生気が蘇って、肌にも張りが出ている。

 ちょっと効果があり過ぎて怖いくらいだ。


「さすがに団子の効果は凄いね。みんな元気になっちゃった」


「す、すいませんでしたー」


 へっぴり腰でペコペコ頭を下げると盗賊は逃げていった。


「団子作りはラピィも手伝っていたよな。変な薬でも入れたのか?」


「上質で混じり気のない白い粉を、ちょっとね」


 悪ノリしたラピィが含み笑いで怪しげなことを言う。


「どこからそんな知識を仕入れてくるんだよ」


 テレビはどの部屋にもあるから刑事ドラマにでも影響されたか。

 呆れた目になりながらラピィの頬を突っついた。


 プニッとした弾力でスベスベしている。

 もっと脂でベットリしているかと思った。


「アニキぃ、そんなにプニプニされると困るんだけど……」


 その感触が面白くて何度も頬を突いていると、腰をモジモジさせながらラピィが照れた顔をする。

 ラピィの癖に可愛らしさが滲み出ていて慌てて指を離した。


「こほん。それで実際は何を入れたんだ?」


「砂糖を使っただけだよ」


 盗賊たちの様子では甘いものを口にしたことがないのだろう。

 それならすぐ元気になってもおかしくはないかもしれない。


「おじさんたちを追いかけてみようよ」


 もうジャガイモをあげたのだからほっとけばいいのに、ロココはトテテッと走っていく。

 俺たちも仕方なくあとを追った。


 近くにあったのは貧しい村だった。

 この辺りではろくな森林資源が取れないのだろう。


 日干しレンガを積んだだけの今にも崩れそうな家だった。

 畑からも嫌な臭いがして作物がろくに育っていない。


「おーい、食い物を持ってきたぞ」


 盗賊をしていた男たちが呼びかけるが、村人たちは気力のない目でノロノロと動くだけだった。


 塩が足りないと人は無気力になる。

 こんな貧村では塩を買う余裕もないのだ。


「おい、そこの三人組」


「ひゃい!?」


 村人にジャガイモの塊を渡してへばっている男たちの前に立つ。

 男三人の体重を足しても俺より軽そうだった。

 デブで体が大きく見える俺に呼びかけられて、気の抜けた三人組は怯えていた。


「俺はお前らの顔なんて見たくない。だからこれは俺の故郷の習慣に従うだけだ」


「へっ?」


 俺が大きく手を叩くと三人組がビクッとする。

 そのまま両方の手を握ると殴られると思ったのか男たちが震えていた。


「しょ、しょっぺぇ」


 サーッと男たちの頭に白いものが降り注いだ。

 真っ白な塩はどんどん俺の握り拳から流れてこんもりとした山を作っていく。


 土俵では力士が塩をまく。

 塩には清めの意味があるのだ。


 そういった関係からか、神仏の加護で俺は塩なら無限に生み出せる。

 そのお陰で旅の間も塩には困らなかったが、毎度の食事が塩味だけというのも悲しかった。


「しばらく反省しろ」


 塩の山に埋まって顔だけになった三人組に言い放った。


「旦那、すまねぇ。本当にすまねぇ。感謝する」


「うるせぇ。塩分を無駄に流すな」


 不貞腐れたように言う俺を見て、様子を見守っていた仲間たちが笑顔になった。


「お兄ちゃんは格好いいよね」


 グリグリと俺の太鼓腹に頭を押しつけてロココが甘えてくる。

 尻尾がパタパタ振られていた。


 こんなブサメン相手に何を言っているんだか。

 そう思うがロココにじゃれつかれるとほんわかとした気持ちになった。




 塩で味つけされたジャガイモを食べたことで村人の顔色はかなり良くなっていた。


 特に子供なんかは元気なものだ。

 もうロココと一緒になって遊んでいる。


「甘くておいしーっ」

「こんなの食べたことない」


 ロココは桃太郎の童謡を歌いながら、子供たちに芋団子を配っていた。


「お兄ちゃんも遊ぼうよ。桃太郎の登場をみんなが待っているよ」


「俺もかぁ」


 陣羽織の格好が珍しいのか、子供たちがワラワラ近寄ってくる。

 無邪気な目を輝かせた子供たちに囲まれると、どうしたらいいのか困った。


「桃太郎って力持ちなんでしょ」

「強いところを見せてよ」


「お、おぅ」


 ロココを肩車して、腕にも子供たちをぶら下げた。

 どんどん子供たちが俺によじ登ってきたが、赤褌でもこれくらいは余裕だ。


「桃太郎、すげーすげー」


 素直に喜ばれると俺も悪い気はしない。


「よーし、それならみんなとお兄ちゃんで綱引きの勝負をしようよ」


 ロココがリヤカーから持ってきたのは、巨大ジャガイモの太い蔓だった。

 これなら綱引きのロープの代わりになるだろう。


「わっしょい、わっしょい」


 ロココの掛け声に合わせて子供たちが太い蔓を引っ張る。

 だが、十人ちょっとの子供相手なら赤褌でも俺が負けるはずがない。


 余裕な態度で子供たちの相手をしていた。

 ちょっといい気になっていると、


「桃太郎、つよーい」

「みんな、集まって、集まって」

「こっちを手伝ってよ」


 子供たちの呼び声に何事かと思って村の大人たちもやってきた。

 痩せこけているとはいえ、大人たちが加わったことで蔓を引っ張る力が強くなる。


「おいおい、お前らまでそっちかよ、反則だ、反則」


「そんなルールまで決めてあったかのぅ」


 七龍チーロンやラピィまで加わったら不利に決まっている。

 その上、七龍チーロンは道術、ラピィは神聖術で村人を強化していた。


 全くもって大人気ない。

 だから子供側ってか!


 赤褌の力ではズルズルと引き寄せられてしまう。


「どんな手を使ってもいいなら俺にも考えがある。金剛おおおぉぉぉ!」


 黒雲を引き裂いて金色の布が舞い降りてくる。

 その神秘的な光景に見惚れて村人の手が休んでいた。


「あんな綺麗な布を股間に巻くなんて信じられない」

「ちょっと待て。あれって勇者様じゃないのか」


 そのお陰で金色の廻しを締める余裕が生まれた。

 勇者の紋章が隈取のように顔を飾ったことで騒ぐ村人もいる。


「どすこーい」


「わっしょい、わっしょい」


 ロココが必死に掛け声をかけるが、本気になった俺は村人全員に仲間が加わってもびくともしない。


「このまま勝負を決めてやる!」


 決着をつけようと腰に金剛力を溜めた瞬間。

 ブチィイイ!


 力に耐えられなくなった蔓が切れた。

 村人が一斉に後ろに倒れる。


 俺も盛大に尻もちをついた。

 行き場をなくした金剛力が尻から放たれる。


 ブッホゥウウ!


 まるで巨大な屁を飛ばしたような音がして砂煙が待った。


「へったわけじゃないから。ほら、臭くないだろ」


 綱引きで一番前にいたロココには勘違いされたくない。

 俺が赤い顔で焦っていると、


「桃だ、お兄ちゃん、桃だよ!」


 ロココが騒ぎ出した。

 尻尾を垂直に立てて興奮している。


 どこに桃なんかあるのかと立ち上がって探したが見当たらない。


「桃だ」

「桃がある」


 みんな口々に俺がいる場所を指差していた。

 怪訝に思ってよくよく観察すると、地面に俺の尻の形が大きく残っていた。


「アッハッハ、確かに桃だな」


 ロココや村人の目には桃に映ったのだろう。

 そのことがおかしくて俺は大きく笑ってしまった。


 地面にくっきり残った桃の形から、この村はピーチ村と呼ばれるようになった。

 その後、ピーチ村では作物が良く実るようになったらしい。

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