21.巨大ジャガイモのおすそ分け
「こんなデカいジャガイモがあっても邪魔だろ」
「日本人は食べ物を粗末にしないのではなかったかのぅ。お主が口にしたことではないか」
「うぐ。いや、そうだけど」
無駄に記憶力のいい爺さんだ。
確かに旅の途中でそんなことを言った覚えがある。
ただこんな育ち過ぎたジャガイモでは大味過ぎてまずそうだ。
それにジャガイモには飽き飽きしている。
こんな巨大ジャガイモでは何人分になるかわからない。
食べ尽くす前に腐りそうだ。
「そうじゃ、ご近所さんにおすそ分けするのはどうかのぅ。それとも引っ越しの挨拶か」
「うんうん、配りに行こうよ」
日本の習慣を持ち出されると俺としては弱い。
義理人情を大切にする日本人なのだ。
「しょうがないなぁ。俺も食べ物を無駄にするのは嫌だ」
やれやれ、いつの間にそんな知識を身につけたんだ。
この世界の人々を助ける気にはなれないが、ジャガイモを無駄にするよりはましだ。
「でも、この近くに人なんて住んでいるのか」
アパートの周辺から出たことがないので、全く周りの地理を把握してない。
ただ家の少ない日本の田舎では、数キロ離れていてもお隣さんと言うらしい。
それを思えば多少の遠出は構わないか。
「丈夫なリヤカーだな。びくともしない」
リヤカーに巨大ジャガイモを乗せる。
かなりの重さがあるはずだが、リヤカーのタイヤは全くへこまない。
「フフッ、桃太郎が鬼ヶ島から宝を持ってきたみたい」
乗せたのはジャガイモなのにロココは目をキラキラさせていた。
「あ、そうだ」
ロココは102号室に行くとすぐ戻ってきた。
「えっとね、お兄ちゃんにプレゼント。あまり上手に縫えなかったけど」
モジモジしながらロココは折り畳んだ布を差し出した。
広げてみると桃太郎が着るような赤い陣羽織だ。
ロココは上手じゃないというがとんでもない。
立派なものだ。
「うおおおお!」
「お兄ちゃん!?」
感動して思わずロココの手を握ると空中でぶん回してしまった。
女の子から手作りのプレゼントなんて初めてだ。
「アハハハッ」
プロペラのようにクルクル回るロココは楽しそうに笑って尻尾を立てている。
異世界人におすそ分けなんてちょっと不満があったが、そんなものは吹き飛んだ。
俺のつまらない意地なんてロココが笑顔になるなら許せる。
「これを着るとさらに力が漲ってくるようだ」
赤い陣羽織に赤い褌。
赤で統一されている。
コーディネイトとしては悪くないのではないか。
今までよりは格段にましだろう。
「よし、行くか」
「お兄ちゃん、無理しないでね」
俺はロココを肩車してリヤカーを引っ張り始める。
普通の服なら力が抜けてしまうところだが、陣羽織ではそんな感じはしない。
むしろ気分が高揚していた。
「久しぶりに四人で外出じゃ」
「オイラ、旅を思い出すよ」
七龍やラピィも楽しそうな顔をしていた。
リヤカーが動き出すとロココが桃太郎の替え歌を歌い出す。
お供が狼、龍、猿のやつだ。
それに合わせて七龍がギターをかき鳴らしラピィが平太鼓を叩いた。
何だかチンドン屋っぽい。
種族も年齢もバラバラな俺たちが陽気に騒いでいるのを聞きつけて、近隣の村人が集まって遠巻きに見ていた。
異世界では物珍しい光景なので戸惑っているらしい。
「これは一体何の催しですか?」
その中で狩人らしき中年男性がオドオドと近寄ってきた。
「近所に引っ越してきたからおすそ分け」
「き、近所?」
もう二時間は歩いたはずだが、ロココは近所と言い切った。
野生児のロココにとってこれくらいは近い距離に入るのかもしれない。
槍でスパスパとジャガイモが正方形に切り出される。
巨大ジャガイモなのでまずいと思ったが、断面はホクホクとして鮮やかな黄色をしていた。
白炎の熱が内部にまで浸透して残っているのか、湯気が溢れ出している。
「はい、どうぞ」
頭大のジャガイモが狩人に手渡された。
「おっと。こいつは美味そうだ。こんなにいいんですか?」
狩人は困惑しながらも嬉しそうだ。
何も獲物を持ってないので苦労しているのだろう。
何度も頭を下げながら帰っていった。
「アパートから離れたのに今日はちょっと日差しを感じるよ」
ラピィが空を見上げるので俺も釣られて首を上げると、黒雲が薄かった。
「風があるわけでもないのに不思議じゃのぅ」
後ろを振り向くとまだらに黒雲が薄くなっている場所がある。
今の俺は赤褌でそこまで特別な力があるわけではない。
奇妙な現象だった。
その後も演奏に惹かれて様子を見に来る人々にジャガイモを配りまくった。
たいていの人は笑顔になってお礼を言っていく。
ひねくれている俺でも礼を言われれば悪い気はしない。
だが、そんな善良な人々ばかりではなかった。
この世界では盗賊なんて珍しくない。
「……これだから嫌なんだ」
リヤカーの前後から木の棒を持った人相の悪い男たちが現れた。
人数は三人。
俺は身包みを剥がされたことがあるので、盗賊にはトラウマがある。
険しい顔になった。
「食い物を寄こせ!」
「たかが三人で何とかなると思うのかよ」
片腹痛い。
盗賊になる奴は数もわからないバカなんだなと内心で見下していた。
それともラピィも姿だけなら女の子に見えるので、少女が二人いると思って侮ったか。
「あーあ、ちょっとはましになった気分が台なしだ」
容赦なくボコボコにしてやる。
殺気に近い感情を持った俺だが、
「お腹が空いているんだね、はい、どうぞ」
「おいおい」
ロココが無邪気な笑顔を浮かべて盗賊にも頭大のジャガイモを差し出した。
「あ、ああ。やけに素直だな」
眩しいくらいの笑顔を向けられて、盗賊が居心地の悪そうな顔をする。
反射的に棒を落としてジャガイモの塊を受け取っていた。
「おわぁ!?」
盗賊たちがひっくり返る。
小さなロココが軽々と持っていたから油断したのだろうが、結構な重さがあるのだ。
「ザマァ。盗賊には相応しい姿だ」
潰れたカエルみたいに引っくり返る盗賊に意地の悪い笑顔になってしまう。
「この芋団子を食べれば元気になるよ」
「う、うめぇ」
「力が出てくるぞ」
そんな無様な盗賊たちにもロココは心配そうにしていた。
ロココが腰の袋に入れていた芋団子を盗賊の口に突っ込む。
なんでだと思ったが、盗賊たちの手足は枯れ枝のように細い。
顔色が黒く頬もこけていた。
あまりの飢えに人相が悪く見えたのだ。
木の枝だって腐っていた。
こんなものでは武器にならない。
盗賊という先入観で俺は全くものが見えなくなっていた。
「……やっぱ俺は優しくないよ」
盗賊を見た瞬間、憂さを晴らすことしか考えなかった。
軽く小突いただけで盗賊は倒れただろうに容赦する気持ちがなかった。
「ワシはそうは思わんがなぁ。お主は同じ失敗をしないよう心掛けているではないか」
「そうそう、アニキはちょっと心の余裕がないだけだよ」
ポンと両肩に七龍とラピィが手を置いて励ましてくれたが、俺は曖昧な表情をするしかなかった。
あとラピィの手の感触が女の子みたいに温かくて、微妙な気持ちになった。
「な、なんだよ」
「女の子に慰められたいものだと思って」
無駄に女装が決まっているラピィに残念な目になってしまった。




